
波に乗り、街を滑る女性たちが放つ、ありのままの美しさを求めてシャッターを切る。フィルムが醸すエモーショナルな質感、光と陰、色が織りなす抽象が、現実よりも真実を語る。セバスチャン・ザネラが描く、静謐な夢の世界。
ブリアナ・キング、ニューヨーク。ブリアナは野生的で自由。この日、僕たちは街で一日中スケートをした。トラック、渋滞、路面の悪い道路…… 彼女は何も気にしないで突っ走る。ついていくのがやっとだったよ
自由に、ありのままの自分に近づく……
現在38歳のセバスチャン・ザネラが本格的に写真に取り組みはじめたのは、ごく最近だという。だが、幼いころから詩を書くなどアーティストとしては早熟。時を重ね築きあげられた独特の耽美な世界観は、今やエルメス、クロエなどのハイブランドをも虜にしている。
ザネラにとっての写真は、あくまでも詩的に世界を描くための表現方法のひとつだが、妥協は一切ない。撮影をするうえで大切にしていることを、彼は次のように話す。
「自分の心に嘘をつかないで、正直であること。あらゆる撮影は、自分自身をより理解するための手段でもあるのだから」
写真よりも前にザネラが熱中していたことは雑誌づくりだった。実際、世界のサーファーたちの間では『Desillusion(デシリュージョン)』の編集長としてよく知られている。16歳のとき、高校のコピー機を盗んだところから始まったその雑誌の目的は、サーフィンやスケートボードを愛する「美しき不適合者たち」にインタビューをして、彼らの生き方を共有すること。
「スーパースターになることを夢見ない人、テレビのリアリティ番組には絶対に出ないような人、サッカー選手など一般的な子どもが夢見るような夢にフィットしなかった人たち。そんなやつらはみんな自由だった。サーフィンやスケートボードにルールはない。遊び場は地球すべてさ」
–{新たな夢を見つけた}–
ザネラはこれまでにデーン・レイノルズ、ジョン・ジョン・フローレンス、アレックス・ノスト、ディラン・リーダー、エリック・コストンら超一流のライダーたちをメディアとしてフィーチャーしてきた。『Desillusion』は世界中にコアなファンを生み、インスタグラムのフォロワーは18.5万人を数えるまでに成長。メディア不況の今日において大成功を収めているように見えるが、ザネラはかつて持っていた興奮を失い、数年前から作るペースをスローダウンしているという。
「僕が記事に残したくなるおもしろいやつらが少なくなってしまった。年を追うごとに、サーフィンやスケートがどんどん商業スポーツになってきているように思える。彼らはアーティストではなく、アスリートになってしまったんだ。それでは、僕にとって夢がないんだよ」
だが、新たな夢を見つけた。それは、女性のサーフィンやスケートボードのシーン。ザネラは今、女性のサーファーやスケーターとの作品づくりに熱中している。
「彼女たちこそが、僕がかつて抱いていた情熱を取り戻してくれたんだ。女性たちは、他の人より上手く乗ってやろうとは思わない。波やストリートの楽しみをシェアして、ありのままの自分に近づいていくことに喜びを感じる。女性のサーフィンやスケートボードのビジネスは規模が小さいということも逆説的に働いているだろう。おかげで本質が失われていない。彼女たちはただ自分の表現を求めていて、エナジードリンクのステッカーを貼ろうなんて思わないのさ」
ヴィクトリア・ヴェルガラ、セノッス、フランス
パチャ・ライト、パナマ。僕はパチャの生き方が大好きだ。彼女はいつだってあるがままなのさ
妻マリー・ローラ・デリィットとホームビーチでのサンセットタイム。暗くなるまで太陽の心地よさを感じた美しい日
photographer
Sebastien Zanella
セバスチャン・ザネラ
1982年、フランス南東部出身。サーフィンやストリートカルチャーに根づいたディレクター、フィルムメーカー兼フォトグラファー。クライアントにエルメスなどのハイブランドが多数。雑誌『Desillusion Magazine』の創設者、編集長でもある。
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