
海と森が織りなす生命の循環を見つめ直して
生き物が消え多様性が衰えれば、同じく私たちの日常も色褪せていく。海は海、川は川、森は森、里は里……と境界線を感じるようでも、海と森、そこに生きる動植物、街に暮らす私たちも同じ連環の中にあるのだから。
森が培う養分が川へ海へ
その森も消滅の一途に
海を豊かに育むもの、それは麗しき森ともつながっている。漁業を営む人々は昔から、山が荒れると海の活力も衰えることを経験から心得ていて、沿岸の森を守る「魚つき林」という習慣が受け継がれ、今でも漁場を潤すために植樹を行う海人も多い。森林の土壌で微生物に分解された養分は森を育むだけでなく、川を伝って適度に海へも運ばれる。それがプランクトンや海藻の栄養源となり、魚たちの循環も力強く支えている。そんな森と生物多様性もまた、今はダメージが壊滅的な状況に。
「世界の森林減少は今、3.5秒ごとにサッカー場1面分の森が消えるほど急速なペースで進んでいます。とくに南米やアフリカ、東オーストラリア、東南アジアなどの森林破壊が深刻で、原因は大豆、家畜、パーム油(植物油脂)、木材・紙製品とどれも身近な消費に起因しています。家畜の牧場や農地、ゴムやパームヤシ農園などの急増で森林がどんどん消え、近年はスマホや電気自動車の部品になるレアメタルなどを採掘するために、地上の森林を丸ごと破壊するケースも増えているんです」
森の危機をこう話すのは、国際的な森林認証を運営する「FSCジャパン」の河野絵美佳さん。森が消えれば生き物も消え、WWFの報告ではこの50年、南北アメリカの熱帯地域で脊椎動物の個体数が94%減少した。
こうした熱帯林より速いペースで減少しているのが、沿岸のマングローブ林。汽水域に網目状の根を張り巡らせるマングローブ林は、その穏やかな隠れ家に集う生態系が豊かで、サンゴ礁同様、海岸を嵐や侵食から守る防波堤の役割も果たす。それが今はエビの養殖場などを作るために破壊が進み、熱帯林やマングローブ林が減ればCO2の吸収量が減り、温暖化にも拍車をかけている。
–{日本でも森林の衰退が著しい}–
「海外の現状に同じく、日本でも森林の衰退が著しいんですが、日本の場合は海外とは原因が異なり、破壊というより“健全な森”が減っている状態です。日本は戦後、全国で一斉に人工林が拡大したんですが、安価な輸入木材の需要が高まり、国内の林業は衰退の一途。天然林と違って、人工林では適切な間伐や管理をしないと荒れ果てるばかりで、保水力も弱まるので土砂崩れなどの災害を大きくしてしまったり。人工林では害虫や害獣対策で農薬も使われますが、海外で危険視される農薬でも日本では気軽に使われるものもあり、中には土壌や水質の汚染、生態系や人体の健康に悪影響が大きいものも多くあります」(河野さん)
日本は森林が国土の7割近く、山々も高くそびえ立つことから降水量も多く、多様な樹木がひしめく原生林で溢れていた。それが半分近くも人工林となり、スギやヒノキといった単一種が並ぶだけでは生態系のバランスも崩され、一度でも人の手が入った森は、手入れをしなければ荒れていくいっぽう。さらにはダムによって水の流れが堰き止められ、護岸工事で川辺も変わり果てた姿になり、そうして自然界に大切な「森里川海」のつながりも分断してきた結果、生物の多様性も、自然が恵みをもたらす力も弱らせてしまった。
けれどもうそんな破壊の繰り返しではなく、これからは自然に習ってもっとナチュラルに地球の恵みを享受していきたい。そう感じたら、次ページの認証ラベルを指針に、毎日の消費から生き物たちを守っていこう。畜産が温暖化を加速させると知って肉食を控え、魚や植物ベースの食事を心がけるときでも、サステイナブルな食材を選ぶだけで海を守る好転力になる。近くの海も遠くの海も、世界の海と森だってみんなの日常と繋がっている……だからこそ、あなたにはそれを救える大きなパワーがあることを、いつも忘れないでいて。
–{海と森と生物を守るために「認証ラベル」}–
海と森と生物を守るために
「認証ラベル」
MSC「海のエコラベル」
水産エコラベルは主に2種類あり、その一つが「天然」の水産物につけられるMSC「海のエコラベル」。MSC(Marine Stewardship Council:海洋管理協議会)が管理・推進するこのエコラベルは、過剰漁獲を行わず、混獲を抑制し、生態系や生息域に配慮するなど、MSCの厳格な認証規格に適合した漁業で獲られた水産物にのみ付けられる。MSCは1997年にイギリスで設立され、認証制度と水産エコラベルを通じて、持続可能で適切に管理された漁業の普及に努める国際非営利団体で、日本事務所も2007年より活動。欧米などではスーパーに行くと、認証ラベル付きの水産物も当たり前にずらりと並び、現在は世界約100か国で4万品目以上、日本でも900品目以上のMSC「海のエコラベル」付き製品が登録。私たちもMSC認証の水産物を選び、環境に配慮した持続可能な漁業を応援しながら、豊かな生態系と大切な海の幸を未来にもつないでいこう。
養殖のエコラベル「ASC認証」
水産エコラベルのもう一つは、「養殖」の水産物につけられる「ASC認証」。水産養殖管理協議会(Aquaculture Stewardship Council)が管理・促進するこちらは、養殖業が原因で起こる地域の海洋汚染や環境破壊、人権・労働問題などを解決するために、安全で責任のある養殖により生産された水産物にのみ認められる。養殖では海洋環境の破壊、太らせるために化学薬品の過剰利用、外来魚の飼育による生態系の撹乱、餌となる小魚の乱獲といった悪影響のほか、児童・奴隷労働などの問題があるケースも。ASCは2010年に設立以来それらを審査し、養殖そのものが及ぼす環境や生態系への負荷を軽減するなど、厳格な認証を管理。すでにサーモンやエビ、ブリ、二枚貝、海藻などがASC認証を取得。日本も天然の漁獲量より養殖生?
?量の方が増えているなか、ASC認証の水産物を積極的に選べば、海の環境と持続可能な水産資源を守っていける。
–{森とパーム油のエコラベル}–
森のエコラベル「FSC®認証」
適切に管理された森林で伐採され、生産された木材や紙製品などにつけられる「FSC®認証」。森林管理協議会(Forest StewardshipCouncil®)が管理・推奨するこの「森のエコラベル」は、責任ある森林管理のための10原則と70の基準を定め、適切な伐採方法や伐採量を守り森林環境を保護、そこに広がる多様な生態系も守り、周辺の水辺や林業者の安全面にも配慮するなど、持続可能な林業で生産された林産物にのみ認められる。海外では木材や製紙用パルプ、天然ゴム、大豆などの生産、畜産などのために森林や水辺、その生態系が破壊され、日本の森林も衰退するなか、私たちが何気なく使う紙や食べ物などが国内外の森と生き物を害していることも多々。1994年の設立以来、FSC認証を取得する森林は世界で2億haを超え、現在も増加中。登録製品は建材や木工品、紙製品、紙製の包装パッケージ、キノコやアロマオイルまで幅広く、見つける楽しさも醍醐味に。
パーム油のエコラベル「RSPO認証」
驚くほど幅広く使われるパーム油は通常、「植物油脂/植物油/マーガリン/ショートニング/乳化剤/香料」と表示されるので頻繁に見かけるはず。このアブラヤシの木から採取されるパーム油を大量生産するため、東南アジアなどで違法な森林破壊が加速。急速なパームヤシ農園の拡大は、絶滅の危機に瀕するオランウータンの森もこの20年間で80%も消滅させた。近年はパーム油をバイオ燃料に利用しようと、さらなる森林破壊を加速させる動きもある。「持続可能なパーム油のための円卓会議(Roundtable on Sustainable PalmOil)」は2004年に設立され、熱帯林の環境と生物多様性などに配慮した、持続可能なパーム油を証明するRSPO認証をスタート。日本人も食品や医薬品、化粧品や洗剤、インクや塗料、スーパーやコンビニのお惣菜や揚げ物、お菓子など、パーム油を使わない日がないくらい身近に溢れているからこそ、RSPO認証にもぜひ注目してみて。