
オリとラナはある日、オーストラリアから小さなセーリングボート“パラダイス号”に乗り込み、インド洋へと旅立った。心揺さぶられるがままに旅するシージプシーライフが、2人に教えてくれたこと。彼らの航海ダイアリーをここに綴る。

オーストラリア出身のオリ(左)とラナ(右)。穏やかで気さくな人柄の2 人は、立ち寄る島々にすぐに溶け込むことができる、まさに旅のエキスパート
自由を求め、世界中を旅したいと夢見る人は少なくない。見たこともない美しい場所へ行き、知らない人々と出会う。新しい世界へ自分を誘うことで、普段の生活では気づくことがなかった自分と向き合うこともできる。だから一度でも刺激的な旅をすると、また行きたいと欲求が溢れ出てくる。オリとラナも、まさにそんな旅にハマった2人だ。オーストラリアをキャンプやバックパッカーでまわり、色んな街を転々としながら暮らしていた2人。その間、少し違った場所を見てみたいとヨーロッパへも旅をした。旅生活も数年が経った頃、一通り行きたいところを訪れた2人は、次なる目的地を探していた。そんな2人に転機を与えたのは、当時セーリングヨットでインドネシアを旅していたラナの母親だった。インドネシアのロテ島で母と待ち合わせ、実際にボートに乗せてもらい、船上生活を見せてもらった。そして話を聞くうちに、セーリングの旅にどんどん心が惹かれていった。船があれば無数にあるインドネシアの島々や、アクセスが難しいサーフスポットにも自由に行くことができる。そして船に住んでいれば、旅の終わりを恐れる心配もない。自分たちの求めていた理想形が、すべてそこに揃っていた。その後オーストラリアに戻った2人は、早速ボートを手に入れるための準備に入った。
ボートを購入するためには大きな資金が必要だった。2人は北オーストラリアのダーウィンで、ハードだが割のいい仕事を見つけ、節約にも徹した。サーフィンも旅行もしばらくはお預け。自分たちのボートを手に入れるために必死だった。しばらくして中古のボートを探し始めたが、売りに出されているモノはシドニーやパースなど比較的人口の多いエリアが多く、ダーウィン周辺からはほとんどなかった。来る日も来る日も探し続け、気がつけば2年が経過していた。もちろん気になったボートはいくつかあったが、どれも決定打に欠けていた。それとは裏腹に購入資金はどんどん貯まっていき、当初考えていたサイズより少し大きめのモノが買えるようになっていた。ここで妥協すべきか、それとも粘るべきか……。悩んでいた矢先、2人の前に1槽のボートが現れた。それは中古のカタマラン(双胴船)型セーリングボート。自分たちが求めていたものより、はるかに良いボートだった。使い勝手がよさそうなキッチン、自動操縦付きの舵、キャビンは3つあり、デッキの先にはハンモックネットまで備わっていた。その日のことを、ラナはしっかりと覚えている。「パラダイス号(購入したボート)を目の前にしたとき、ものすごい達成感を感じたわ! やっと出合えたって。本当に、本当に嬉しかった」。
念願のボードを手に入れた2人だったが、セーリングについては全くの素人。学ぶべきことは山ほどあった。休みのたびにマリーナに行ってはメンテナンスを行い、テストセーリングを続けた。しかし、なかなか思うようにいかない。そんな新米2人を見かねた年配セーラーが、セーリングのイロハを教えてくれた。そのほとんどが彼の自慢話だったと笑うが、経験に基づいた内容だったので知識にはなった。ただ、聞いているだけではまだまだ十分とは言えなかった。あとは実際に海に出て、失敗から学んでいくしかなかった。こうして2人はようやく出港の日を決めた。パラダイス号を手に入れてから、すでに10ヶ月が経過していた。

最高の波とフレッシュな南国の食べ物。シンプルだからこそ改めて感じるありがたさがそこにある

オリの影響でサーフィンを始めたラナもインドネシアの波とともに上達。今は立派なガールサーファーに成長した

誰もいない美しいビーチに刻む足跡。船だからこそ訪れることができる手付かずの大自然が、延々と広がる

船上から眺める鮮やかな夕焼け。赤く染まった空は、セーラーにとって順調な航海を示している

ラナはサーフィンがどんどん楽しくなっているとき。笑顔いっぱいで波に乗る姿は、幸せを絵に描いたよう

小さい頃からサーフィンをしてきたオリにとって、今の生活は何ものにも代えがたい
photography : Dave Mathew, Natsuko Shibata, Hatsumi Ishibashi text : Natsuko Shibata
special thanks : Alannah Jane Sabine, Oliver Thomas Taylor
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