The World Beach Scene, NOW! 世界のビーチシーンのいま/ビアリッツ(FRANCE)編

パンデミックにより海外渡航が困難になった今、サーフィン先進国の状況はどうなっているのか? HONEYはカリフォルニア、バイロンベイ、ハワイ、ビアリッツ、バリ在住のサーファーにコンタクトし、リアルな“いま”をリサーチ。4回目の今回は「フランス・ビアリッツ」をレポート。コロナ渦を経て街の人口が増加すると、女子の存在感もより増したビアリッツ。現在は海の中も街も女子が輝いている! 


No Gender But Women’s Power

サーフィンしてみたい、自分の店を出してみたい、自由に表現したい。女性たちが持っていた潜在的意欲がここ2、3年で表面化している。その背景に何があるのか?

「他にはない、ここはバブルに包まれているようにキラキラしていて、少し特権的な場所」
ビアリッツをそう表現するのはシリキット28歳。モデル、サーファーのキャリアを積みながら当時女性としては初となるカフェをビアリッツにオープンさせた。この夏から6 年目に突入する。
「ビアリッツはとにかくオープンマインドな場所。それは特に若い世代の人や、違うバックグラウンドを持つ人達が集まってきているから。挑戦しやすく、それを受け入れてくれる環境や雰囲気がある。例えば去年の夏に初開催された『クイーンクラシックサーフフェスティバル(QueenClassic Surf Festival)』がいい例。スケート併催のサーフコンテストで出場者は女性が対象だけど、イベント自体はジェンダーレス。お互いに敬意を払いながらすべての人たちが楽しめる内容で、今のビアリッツを表しているイベントだった」。
『クイーンクラシックサーフフェスティバル』は2021年8月の最終週に開催された。主催者は3人のローカル女性。カリスマロングボーダーのマーゴ·アハモン·テュコと妹のエメ、それにマーゴの同級生のアマヤ。「SNS上の“サーフガール”でなく現実の“サーファー”を見せたい」と、彼女たちがコンセプトを思いついたのがその前の年の冬。フランス全土にパンデミックによる緊急事態宣言が発令されているときだった。アイデアが固まると書類を作成して役所へ申請し、春先に許可が降りると手探りながら準備に取り掛かった。一方、時を同じくして街でもある動きが起きていた。それはビアリッツで初の女性スケートチーム『スケーター(SkateHer)』の誕生である。立ち上げたのはルーシーとゲイトン、それにプロサーファーのリー・アン・カレン( レジェンドサーファー、トム・カレンの娘)。イベント当日、マーゴたちは昔からの仲間であるリー・アンたちを誘い、さらに他のサーファー、スケーター仲間に声をかけてランページを設置し、“サーファー”のリアル度をよりプラスした。結果、構想から半年ちょっとでイベントを実現させ、見事に成功を収めた。しかしながら周囲を驚かせたのは彼女たちの行動力だ。8月の最終週とはいえシーズン真っ只中のビアリッツ。さらに一番混雑するコート·デ·バスクを貸し切って、新しいイベントを行うとは! マーゴたちは女性の底知れぬパワーをアピールしてみせた。因みに今年の夏も2回目の開催が予定されている。
ビアリッツの町の大きさは約12㎢と知名度のわりに小さく、また人口も3万人に満たない。しかし、この10年で大きな変化を遂げた。以前はシーズンのオン・オフがあったが、現在は通年で賑わい、人口も4年連続で増加中。その成長を助長しているのは、ビアリッツ周辺の住宅ラッシュである。古くなった広い土地付き邸宅の跡地が次々と集合住宅に建て替えられ、今後この勢いはさらに拍車がかかると予想されている。人の流れが冬でも見られた結果、店の営業形態も変わった。夏だけオープンしていた季節店舗が商機を見込み通年営業に変更し、小さなお店も続々とオープン。そのお店のオーナーの大半が女性というから驚きである。
海の中も同様に、年間を通してサーフィンする人が増えた。もともとビアリッツは年中波があり、水温もそこまで低くならず、かつウェットスーツの進化やスクールの営業期間延長など、サーファー人口が増える要素はいくつかあった。そしてここでも女性サーファーが急激に増加している。その背景には2018年、フランスの大手スポーツ店がスポンジボードを発売したことにある。入りやすい店構えに手に入れやすい価格帯、そして怪我のリスクが少ない安全なボード。ロングセラーとなったこのヒット商品が初心者を海に導き、サーフィン人口の底上げに大きく貢献した。一度波に乗り楽しさを享受するとサーフィンのない生活に戻るのは難しくなる。そこに性別は関係ない。
ジェンダーで物事を区別する時代ではないが、ビアリッツで活躍が目立つのは女性ばかりなのは事実。しかしなぜだろう? この界隈を昔から知るメゾン·モニークのオーレリアは言う。
「パンデミック以降ビアリッツの雰囲気は大きく変わり、移住者もさらに増えた。ここには素晴らしい要素が溢れている。海や山があり、街は都市に発展しつつある。そして何より治安が良い。でも足りないものもある。ムーブメント、イベント、カルチャー……。バイタリティに溢れ、エネルギッシュな女性に会うと、彼女たちはこぞってビアリッツを拠点に活動している。そんな人たちに選ばれ迎え入れるこの街は、計り知れない可能性を秘めている」


Spotlight !

ビアリッツで活気のある店はビジネスだけでなく、地域経済や交流、環境配慮などプラスαの要素がある。4人の女性オーナーのインタビューから、その様子を紐解いてみる。

LOUISA RUCINSKI(ルイザ・リュザンスキ)

Colors of Surfing共同経営者
トゥール出身、3年前にビアリッツへ移住。コート・デ・バスクに住み、シングルフィンをこよなく愛する。サーフトリップが生きがいで、最近コスタリカから戻ってきた。

2020年6月にパートナーのアントナンと『カラーズ·オブ·サーフィン』をオープン。以前からバカンスのたびにビアリッツへサーフィンしに来ていたが、ある日ビジネスヒントを思いつく。「ローカルが削ったサーフボードを貸し出すこと。それをしているお店は他になかったし、今もウチだけ。そのチャンスに興奮して、試さない方がストレスだから行動した。ちょうどコロナ禍と重なり時間がかかったけど、海の近くに住めて幸せ」。
他のサーフショップと違い『カラーズ·オブ·サーフィン』の店内はベージュ、ブラウン系に統一されたレトロな雰囲気で女性の目を引きやすく、商品も女性向けが多い。ほとんどがローカル作家のもので、ルイザが普段の生活を通して出会ってきた人たち。カフェも併設しており、サーフィンしない女性のお客さんも多い。「ビアリッツは常に目新しさを歓迎してくれる。そこに感化され、私たちも新しいものやプロジェクトに出会ったらサポートしてる」。
ここまではとても順調そう。「それが、家も仕事も同じパートナーと常に一緒という生活はなかなか(笑)。切り替え方を今、学んでいるところ」。そんなルイザに共感する人は多く、そしてサポートしている人も多い。

MORGANE CATTEAU(モーガン· キャトー)

Venitz オーナー/クチュリエール
ラ・ロシェル出身。幼い頃からヴィンテージが好きで、物を大切にしたい思いからお店にはエコなブランドも置いてある。職人肌であるため、広報はパートナーに任せている。

状態がよく上質な素材なのに小さなホツレや傷で着られなくなった洋服。モーガンはそれを独自のセンスでアップサイクルし、『ヴニーツ』から再び世に送り出す。「20歳のとき、パリにあるシャネルのアトリエに就職したの。裁縫師としてオートクチュールを3年、プレタポルテを11年と計14年間勤めた。そこしか知らない自分が、まさか店を出すなんて」
もともと海の近くで生まれ育ったモーガン。先に住んでいた双子の妹を訪ねにビアリッツへ来ると、多大な影響を受けた。その後パリのアパートを売り、先のことを決めずに移住した。「2019年にビアリッツに来て最初の1年間はゆっくり過ごし、カリフォルニアへ遊びに行ったの。そうしたら閃いた、アップサイクルのお店を出そうって! だって私には生地のストックが14年分あったから(笑)」。そうと決めてからは早かった。コロナ禍で物件を探し、2021年4月に開業。最初は店内にアトリエを構えていたが軌道に乗ってくると手狭になり、今は別の場所にアトリエを借り、人も雇っている。「1930年、’40年代のビアリッツには、ランバンやシャネルのアトリエがあったの。ここには縁を感じるし、自分のできることで可能性を試してみたい」。

SIRIKIT HARIVONGS(シリキット・アリヴォン)

Le Palm Cafeオーナー/モデル
ビアリッツローカル。趣味のサーフィンはそれまでショートのみだったが、数年前からロングも加わりオールラウンドに楽しむ。日本メーカーの日焼け止めのモデルを務めたことも。

若い女性が経営するカフェは何軒かあるが、その先駆けは『ル・パルム』だ。シリキットは大学でマーケティングを学んだが、PC作業より向いていると23歳でカフェを始めた。「確かに若かったけど、経済的に早く独立したかったの。最初は“花柄を着た若い女性でなく、本物のオーナーに会わせてくれ”と見た目で判断されたことも。業界はまだまだ男社会。でもおかげでユーモアと忍耐力を学べた」。
ビアリッツは観光地であり、飲食店は観光客向けかローカル向けかどちかに偏りがち。しかし『ル・パルム』は両方から支持され、ベジタリアンメニューでありながら男女比は半々、子供連れ、おひとり様、外国人も多い。「ここで出会って友だちになったり、カップルも何組か誕生している。交流の場になっているのが嬉しいわ」。
シリキットはカフェオーナ―以外にモデルとしての顔も持ち、撮影などで自分がお店に立てない期間は人に店舗ごと貸し出している。「働くのが大好き。でも年齢とともに、完璧はないことを理解してきた。それと休息の大切さ。コロナの2年間で心身の健康が一番幸せと実感した。今年は自分の時間をもっと取るつもり。私が挑戦しなければならないのはペースダウンね(笑)」

AURÉLIA MAES(オーレリア・マエス)

Maison Monik主宰
パリ出身。ブランドを有名にしたビーズシリーズに加え、素材も生産も地元でできる真鍮アクセサリーに最近は注力している。子供を3人育て上げている、キャリアママでもある。

マダム・ビアリッツことオーレリアがパリから越してきたのは20年以上も前のこと。持ち前の好奇心と社交性で、肩書きや年齢、性別、国籍にとらわれず、とにかく幅広い交友関係を持つ。そんな街の有名人が手がける『メゾン・モニーク』はアクセサリーブランド。ガーナのリサイクルビーズを使ったカラフルなネックレスが5年ほど前にSNSで注目されると人気が拡大し、2020年12月にアトリエ兼店舗を構えるまで成長した。
「私のインスピレーションの源はディスコ、子供の頃の記憶、それと’80年代の自由な女性たち。アートブックやエリック・ロメールの映画もそう。そこに旅先での思い出や出会った人たち、そこが遠い場所でも部屋のバルコニーから見た誰かでも(笑)。そんな影響が加わっている」『メゾン・モニーク』は色使いやモチーフが大胆でキャッチー。しかし実は何にでも合わせやすく、つけるだけで一気にビアリッツらしいスタイルになる。
「創作、プロジェクトの共有、希望、勇気、そしてユーモアはすべての世代が欲していると強く感じる。私は縦社会に生きていない。それが人間関係のバランスを良くしているって、50年生きてきたから言えるのかも(笑)」


SKATEHER

2019 年、ビアリッツにスケート専門店「Wall Street」がオープンしたとき、“女性店長”が注目を集めた。知識豊富でフランクなエミリーは多くのカスタマーに支持され、今では若者が集まる店に成長。そして約1年前、そのエミリーがルーシーを紹介したことで、女性のスケートチームが誕生した。

MAYA
ウォールストリートのオリジナルデッキを愛用し、ビアリッツの屋内、もしくはアングレットの屋外パークに出没。滑るだけでなく動画撮影& 編集にも夢中な高校生スケートガール。

MÉLANIE
サーフィンから入り、スケトにハマったのが5 年前のこと。「スケーター」内ではコーチとして、色んな世代の女性に無料レッスンをしている。スケートの楽しさをみんなと共有したい。

LUCIE
「スケーター」の主宰者。ランプが得意なサーフスケーター。活動2 年目を迎える今年は会員を設け「スケーター」の基盤を固める予定。前職のキャリアを生かし、イベントも精力的に計画。

LEE-ANN CURREN
普段はシャイでも海に入ればクールなサーフィンで魅了するスター。「スケーター」ではデザインを担当し、時に広報役も担い活動をサポート。セッションは常に参加し一緒に楽しんでいる。

EMILIE
リヨンが本店のWall Streetビアリッツ店長。とはいえビアリッツ店はエミリーのためにオープンさせたほど厚い人望の持ち主。「スケーター」は彼女の仲介により誕生。縁の下の力持ち。

右から_MAYA(ウォールストリートのオリジナルデッキを愛用し、ビアリッツの屋内、もしくはアングレットの屋外パークに出没。滑るだけでなく動画撮影& 編集にも夢中な高校生スケートガール)、MÉLANIE(サーフィンから入り、スケトにハマったのが5 年前のこと。「スケーター」内ではコーチとして、色んな世代の女性に無料レッスンをしている。スケートの楽しさをみんなと共有したい)、LUCIE(「スケーター」の主宰者。ランプが得意なサーフスケーター。活動2 年目を迎える今年は会員を設け「スケーター」の基盤を固める予定。前職のキャリアを生かし、イベントも精力的に計画)、LEE-ANN CURREN(普段はシャイでも海に入ればクールなサーフィンで魅了するスター。「スケーター」ではデザインを担当し、時に広報役も担い活動をサポート。セッションは常に参加し一緒に楽しんでいる)、EMILIE(リヨンが本店のWall Streetビアリッツ店長。とはいえビアリッツ店はエミリーのためにオープンさせたほど厚い人望の持ち主。「スケーター」は彼女の仲介により誕生。縁の下の力持ち)

―2021年4月に発足した『スケーター』。誕生のきっかけを教えてください。

もう1人の主催者、ゲイトンをエミリーに紹介されたのがきっかけ。彼はパリで女性のスケートチームを結成していたんだけど、コロナの影響でビアリッツに移住してきたの。ゲイトンはここでもパリのようにチームを作りたいと、昔からの知り合いのエミリーに相談したところ、私が紹介されたの。私とエミリーはボルコムのマーケティング部で一緒に働いていた仲。私がちょうど辞めるときに声をかけられたの。完璧なタイミングだったわ。

定期的なセッションや、地元をはじめ他の街でもイベントを行い、夏はクイーンサーフクラシック、春はサーフ&スケートコンテストをフランスとスペインで開催。初年度から動きが活発ですね。

運営は基本3人でやっていて、実行部隊はゲイトンと私、トップに親友のリー・アン・カレンが就いてくれた。PR用のグラフィックはリー・アン作よ。私たちがイベントやセッションを企画すると、常に10人以上の女性が参加してくれて、スタッフのような動きもしてくれる。例えばメラニーはまだ18歳だけどコーチをしてくれて、あの若さで自分の時間を人に使うことを知っている。告知やレポートはすべてインスタに上げていて、毎回の参加者は大体40名くらい。またイベントのオファーもよく受ける。最近ではパリのRVCAから、女の子のスケートイベントを依頼されたり、少し前にはドイツのスケートチームから連絡をもらったり。スケジュールがあう限り、迅速に対応するようにしている。それで活動が途切れないのかも。それに女子のスケートを活性化させたい需要は元からあって、さらに増えると思うわ。 

参加者の年齢層は?

下は10歳未満の女の子もいるけど、メインは20代。スケートボードを始めたばかりのマダムもいる。私がスケートで好きなのは、楽しさを共有しようとするオープンマインドさ。年齢は一切関係なし。私とリー・アンのベースはサーフィンだけど、そのマインドはサーフィンでは見出せない(苦笑)。パークに行くと知らない人でもすぐ友達になってプッシュ(スケートの技で、後ろ足でボードを蹴って前へ進める)しあう。ライバルじゃなくて仲間、温かいハートの持ち主ばかり。

サーフィンの話が出ましたが、スケートはまだ男性のイメージが強く、未経験者にとってはサーフィンよりハードルが高いと思われます。

女の子がスケートボードに興味がある場合、それだけで80%はすでにクリアしている。興味や好奇心は最も重要な部分。それに従っていれば、気づいたら滑っているでしょう。スケーターたちはみんな気さくな人たちばかりだから、気軽に来てみて! 一番やってほしくないのは、興味があるのに自分で勝手に終わらせてしまうこと。

先日ビアリッツのパークで開催しているセッションに行きました。DJも入り、すごく盛り上がっていました。今後のイベントもいくつか決まっていますか?

5月29日に、パリのコーザノストラ・スケートパークの『コサガール』とイベントをする予定。私たちはその数日前から前乗りして、“ミニスケーターツアー”も企画中。パリのスポットを滑って写真や映像に残すのでお楽しみに! 6月上旬はトゥールーズでRVCA主催のイベントに参加。それ以降の予定は決まってないけど、フランスを拠点にヨーロッパツアーをしたいと思っているので、ぜひチェックしてみて。(2022年4月末に取材)

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