The World Beach Scene, NOW! 世界のビーチシーンのいま/バリ編

パンデミックにより海外渡航が困難になった今、サーフィン先進国の状況はどうなっているのか? HONEYはカリフォルニア、バイロンベイ、ハワイ、ビアリッツ、バリ在住のサーファーにコンタクトし、リアルな“いま”をリサーチ。5回目の今回は「バリ」をレポート。パーフェクトな波とスローライフに魅せられ、毎年多くのサーファーや移住者を虜にするインドネシア・バリ島。そんなバリで最近よく話題になるのが、ペレレナンエリア。そこには訪れる人を魅了させる理由があった。


Best Surf Town to Live

観光客の足がピタリと止まった今、バリ島に住む人々が求める新たなライフスタイルや価値観が生まれてきた。多くの人が訪れる観光スポットではなく、しっかりと地に足をつけ、落ち着いて暮らせる場所。そんな想いが詰まった場所が今最注目のサーフタウン、ペレレナンだ。

ペレレナンが人気の理由

ペレレナンには現在、多くのサーファーや長期滞在したい人たちが続々と移り住んでいる、まさに発展途上の場所。エリア自体はそれほど広くなく、海へ続く1本の通りを中心に、小道に入れば360度のどかな田園風景が広がる。その途中には隠れ家のようなカフェやレストラン、お洒落なブティックやヴィラが建ち並び、そのほとんどがここ1年以内にオープンしたお店ばかり。またエコやサステイナブルがコンセプトのお店が多く、ヴィーガンメニューを取り揃えていたり、プラスチックを使わない量り売りでの販売など、環境への配慮も最先端である。ゆっくりとしたバリ独特な雰囲気を残しながらも、それを巻き込んで発展する欧米文化が溶け合う、いいとこ取りしたような場所だ。カフェやレストランが軒を連ねるクタやチャングーと違い、ペレレナンはぐっと落ち着いた雰囲気でどこか大人びた街。近くにあるバリ六大寺院のひとつタナロットや、ここに住む人々が所有するお寺があることによって過度な開発が出来ず、それが程よいバランスを保っている。
ペレレナンでのサーフィンは、風がオフショアになる3月終わりから10月までの乾季がベストシーズン。狭いエリアにポイントが集中しており、初級者から上級者まですべてのレベルのサーファーが楽しむことができる。ビーチの目の前にはワルンが点在し、良い波を堪能したサーファーが海に沈むサンセットを眺めながら、ビンタン片手にリラックスする姿が。訪れる人は皆、虜になっている。
週末にはローカルのサーフィンコンテストやビーチクリーン、マーケットなどが頻繁に行われており、知り合いや友人に出会う機会は数えきれないほど。「サンセットタイムにビーチに行けば、待ち合わせをしていなくても必ず友達に会える。出身国はバラバラだけど、そんなことは忘れるくらい仲間とコネクトしている気がする」。ペレレナンに住む人が口を揃えて言う通り、ここは多くの人に愛される心地良い場所だ。

Kedung /ケドゥング

ペレレナンからバイクで15分程北にあるのがケドゥング。チャングーの喧騒から離れた場所として、ここ最近サーファーの間で話題のスポット。バリで最も有名な観光地のひとつタナロットの北側に位置し、美しい黒砂のビーチと海を一望できる丘、それを取り巻く穏やかな雰囲気が人気の理由だ。ケドゥングの波はライト・レフト両方あり、すべてのレベルのサーファーに対応。メインのポイントはメローな初心者向きでサーフレッスンもここで行われており、岩の前はコンディションがいいとバレルになることも。休日は多くのローカルや家族連れで賑わっているが、観光客にはまだあまり知られていない穴場的なスポットである。
多くの場所が開発され、便利になっていくのを肌で感じる中ケドゥングはカフェやレストランも数えるほどでこの場所を知らない人も多い。まさに良い波だけを追い求めてサーファーたちが田園をバイクで駆け抜けていた、少し昔のバリを感じることができる場だ。

小道に入ると昔ながらのバリを思い出させてくれる長閑な田園風景が目の前に広がる
朝早くから陽が沈むまで多くのサーファーで賑わうビーチ前のワルン。波がいい日はトップサーファーのセッションが繰り広げられる
サーフスクールやボードをレンタルできる場所が連なり、初めて訪れる人でも気軽にサーフィンを始めることができる
パンデミック中でも、ペレレナンのメインストリートにはお洒落なカフェやショップが続々とオープンした
アクティブな朝を過ごした後は、カフェでゆっくりなひと時。海外から移住するノマドが多いこともあり、どこも快適に仕事ができる環境が整っている

Surf Art of Bali/Taisiya Kordyukova

柔らかいタッチとキャンバスから伝わる幸せな雰囲気。どこかヴィンテージ感も漂うアートを創り出すターシャ·コドゥコヴァ。バリの日常や海での出会いにインスパイアされた、今注目のアーティスト。

アイデアとクリエイティビティに溢れたアトリエ。ここから素敵な作品が生まれる
iPadを使ってデザインや色付けを行い、最後にパソコンで仕上げる
ロングボードをこよなく愛するターシャ。自身のアートを施したフィンはビーチで一際目立っていた
 今後もアパレルやサーフグッズとのコラボを展開予定

ヨーロッパ文化の影響を大きく受けたバルト海沿岸に位置するロシアのサンクトペテルブル。世界最大規模の国立エルミタージュ美術館をはじめ、何百もの美術館があるとても美しい街で生まれ育ち、幼い頃からアートに魅了されたターシャ。
「天気はあまり良くなくて、冬は毎日曇りか雨、1年のうち綺麗な青空が見える晴れの日は数えるほど。でも世界中の美しいビーチの写真やトロピカルで暖かい雰囲気の写真を見る度に、いつかはこんな場所に住んでみたいと願っていたの。ロシアに住みながらも心の中はビーチガールだった」。これが大学卒業後の2012年、旅に出ようと思った大きなきっかけのひとつだった。
東南アジアとラテンアメリカを中心に旅行しはじめ、行く先々で様々なことに挑戦した。その中で出会ったのがサーフィン。毎年バリを訪れていた彼女もサーフィンに出会ってからは、バリのパーフェクトな波から長い間離れることができなくなり、ある日、旅をやめてここに長期滞在することに決めた。
大学でグラフィックデザインを勉強し、絵を描くことも好きだったことから旅先で得たインスピレーションをアートにしたのがキャリアの始まりだ。
「作品のインスピレーションは日常生活の色々な瞬間から。バリの小道をバイクで走っている時にみる景色だったり、友達と朝陽を見ながらサーフィンしている時、ビーチのワルンでココナッツを飲んでいる時も。バリは私の作品にパワー、エネルギーそして愛を与えてくれ、私の人生の本質を反映してくれている」
柔らかいタッチとレトロヴィンテージ感が漂うスタイルが特徴の彼女のアート。まずは頭の中のアイデアを簡単なスケッチにすることからスタートし、アイデア通りのスケッチが出来上がったら次はiPadにペンを使ってスケッチを基にデザイン、色付けを行う。最後にパソコンで最終的な色や柄を入れたら完成だ。
「あまり長い時間かけて制作すると最初に浮かんだアイデアが薄れていくから、大体1日か長くて2日で完成する作品がほとんど。女性らしい曲線美を表現したり、手書きの質感を残すことも大事にしている」
最近、自身のアートプリントをフィンのデザインとして使い、サーファーなら誰もが欲しくなるキャッチーなフィンを完成させた。「フィンって海の中ではあまり目立たないけど、ビーチで持ち運ぶ時やバイクに乗せて走っている時、ふと目に入るものでしょ。そんな時にちょっとでもワクワクしたり心が弾むといいなと思って作りはじめたの。日常生活から得たインスピレーションをベースに作ったアートだから自然と馴染んでくれたわ」
サーフィンは単なるスポーツではなく、ライクマインドな考え、趣味、情熱を持った人々がいるコミュニティに導いてくれる。海の奥深くからやってくるエネルギーとシンクロし、数秒間波と一体になって、ボードの上で一緒に踊ることで海と繋がることができる。「太陽に照らされキラキラと光る波の上、そこにいるみんなの表情は幸せそうで童心に戻ったよう。サーファー同士の繋がりを感じ、母なる自然と繋がっている感覚も体験することができる。サーファーなら誰でも経験する愛、感謝を分かち合い、このような感情をアートで表現し、海から遠く離れた場所で暮らしている人にも共有できるものをこれからも作っていきたいと思っている」。


A girl who lives in her dream/BECKIE LIU

多くのサーファーで賑わう海の中、スタイリッシュなライディングと、とびきりの笑顔で一際目を引く存在がいた。“好き”を追い求めながら、自分自身に心地よいライフスタイルを生み出す、自然派サーフガール。

自分の好きなことを自由にできる環境を求め、大学生の時に“Haikini” を立ち上げたベッキー。「卒業後、オフィスで働きたくないのは自分が一番分かっていたし、2週間のホリデーじゃ全然物足りない。今の仕事はどんなに忙しくても楽しいし、何より自分が作ったビキニを着てサーフィンしている女の子を見かけると本当に嬉しい」

お気に入りの9’3”のロングボードをバイクに乗せ、待ち合わせのケドゥングビーチに来てくれた笑顔が素敵なサーフガール、ベッキー・リウ。香港で生まれシンガポールで育った彼女は現在27 歳、サーフィンをこよなく愛し、以前はシンガポール代表のロングボーダーとしてコンテストに出場していたこともある。自身のビキニブランド“Haikini”をプロデュースしながら、憧れのアイランドライフを送っている。
ゆったりと流れる島独特の時間、スローダウンし穏やかな生活を送る地元の人々、そしてなんと言っても、世界屈指のサーフィン大国。ライフスタイルから街の雰囲気までシンガポールとは全く異なるバリの魅力に惹かれ、ここに移住することを決意した。「バリに移住して今年で3年目。8年前からちょこちょこ旅行や仕事で来ていて、時間があればサーフィンをしていた。バリの好きなところは、初めて会う人でもサーフィン、ビジネス、趣味について話しているとすぐに意気投合してそのまま仲良くなるところ。そして、みんな時間に余裕があって、誰もカツカツしていない。バリに住んでいると自然とそうなるんだと思う。知らない人でも海の中で会話が弾むと、じゃあ今度は一緒にサーフィンに行こう!って、すごくポジティブな循環ができる」
そう語るベッキーはとても気さくで、どこに行っても「ベッキー!」と呼ばれる声が聞こえるほど。周りの人を巻き込みながら幸せな時間を作っていく彼女は、まさにみんなが憧れるサーフガールそのものだ。
そんな彼女が手掛ける水着ブランドが“Haikini”。絶妙なホールド感が身体にしっかりフィットし、ワイプアウトしてもずれないアクティブな女性サーファーのためのビキニ。
「このパンデミックはビジネスにフォーカスするすごく良い機会になった。普段は旅行に行って外からインスピレーションを得ることが多かったんだけどそれが出来ない分、ビキニの質を上げて、もっとデザインにフォーカスすることが出来た。自分のブランドを次のレベルまで持っていくことが出来たと思うし、そういう意味ではすごく感謝している」
ボトムはすぐ落ちるし、トップスは安定しない……海の中で常にフィッティングを気にしていた女性たちの悩みを聞きながらアップデートし、機能美溢れるビキニを作り上げた。でもまだブランドは始まったばかり。今後さらに改良を続け、誰もが快適にサーフィンできるアイテムを作り続けていく。


New Cafe in Town

洗練されたカフェやレストランが続々とオープンするペレレナン、ケドゥングエリア。海上がり、濡れた髪に裸足で訪れるサーファーが集まる、人気のカフェを紹介。美味しいコーヒーや料理と共に、癒しの時間を提供してくれる。

スローな時間が流れる人々の憩いのカフェ
LITTLE RIPPER CAFE

緑に囲まれた隠れ家のようなファサード。いまケドゥングで一番ホットなカフェ

海へ続くケドゥングの一本道、見渡す限りの田園風景のなかに存在感を放つ「Little Ripper」。まだ未開発のこのエリアにある唯一のカフェだ。お店の前を通るとサーフボードを積んだバイクが並び、海上がりのサーファーでいつも賑わっている。ヘルシーでボリュームのある“Big Breakfast Plate”は人気メニューのひとつ。毎朝焼きたてのサワードブレッドを豊富に使ったメニューが多く、それを求めてやってくる常連客の姿も。カフェがオープンしたのは、パンデミックの影響で多くのレストランがシャッターを閉め始めていた2020年12月。コロナの影響を受け観光客がいなくなったバリは活気を失い、人々も仕事を失っていた。
「周りのレストランやカフェがどんどん閉まっているのを目の当たりにしながらも、この時期にオープンしたのは雇用を作りたかったのと、人々に希望を与えたかったから。そしてこのカフェがケドゥングのコミュニティを作り出す場所になると信じていたから」
こう語るオーナーのエリックの思い通り、今ではケドゥングを象徴するカフェになり、これからも多くの人の憩いの場となるだろう。

焼きたてのサワードブレッドがアボカドや卵と相性抜群のBig Breakfast Plate。サーフィン後の朝食にピッタリ
オーナーのエリックはカフェに訪れる人々と会話を楽しみながら、ケドゥングのコミュニティを作っている

素敵な1日の始まりはここから
BAKED. PERERENAN

ポルトガル出身のオーナーがヨーロッパのカフェを再現。発展中のエリアに新しい風を吹き込みたいという想いからペレレナンを選んだ

2021年9月にオープンしたBAKED. PERERENAN は、厳選された素材と天然酵母を使ったペイストリーと本格的なコーヒーでペレレナンに住む人々に素敵な朝を届ける。日の出と共にサーフィンやヨガ、ビーチウォークなどアクティブな人々が多いバリにとって、朝早くからオープンするベーカリーはここ数年欠かせない存在となってきた。その中でもBAKED.は観光客がいないこの時期に朝から行列ができるほど人気を博している。ペイストリーはオーナーの出身地、ポルトガルのベーカリーからアイデアをもらったものが多く、カスタードエッグタルトはその代表。ヨーロッパとバリを融合させたココナッツクロワッサンは、香ばしいサクサクの生地に中までしっとりとしたココナッツペーストが入っていて、オーナーおすすめのメニュー。ビーチからも近いこの場所は、ビジターサーファーやペレレナンローカルのライフスタイルに、大きな役割を果たしてる。

焼きたてのパンの匂いが、行き交う人々の足を止める。一日を通して客足は絶えない
コーヒーにもとことんこだわっており、バリスタが一杯一杯丁寧に淹れる

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