
“他⼈の不幸の上に、⾃分の幸福を築いてはならない” 。戦後77年を迎えたこの夏、広島の平和記念式典の平和宣⾔で、ロシアの⽂豪トルストイの⾔葉が引⽤された。そして、“他⼈の幸福の中にこそ、⾃分の幸福はある”と、広島市⻑は続けた。粛々と執り⾏なわれる式典をネット配信で⾒ていた時、この⾔葉が、⾄極⼼に響いた。国と国が、⼈と⼈が争い、多くの犠牲を、憎しみや悲しみを⽣んだ戦争。その⽖痕は、今もなお、⼈々の⼼と⾝体から消えることはない。繰り返されてはならない過ち。それはもはや、過去のことと信じていたかった。けれども、この冬、その願いは虚しくかき消されてしまった。⼈類は平和を願って⽌まないものと、信じて暮らしていたのに。ロシアによるウクライナ侵攻の衝撃は、世界の均衡を揺るがし、⼈々を不安に陥れた。何故こんなことを。多くの⼈々が、衝撃を受けたはずだ。なぜ⼈間は、争い合うのだろう。誰もが、幸せになりたいと願って⽣きているはずなのに。⼈を不幸せにして、⾃分の幸せを得ることは出来ない、このことだけは信じて⽣きたい。“Can not build my happiness on others’ unhappiness.” 侵攻から半年が経った今⽇も、未だ戦闘は続いている。
かく⾔う私も、“他⼈の幸福の中にこそ、⾃分の幸福もある”ことを最近になって、やっと理解できるようになった。⾼度成⻑期の競争社会に⽣まれ育った。ある⼀つの基準だけで、⼈と⽐較され、優劣をつけられて、その評価がその⼈の価値となり、⼀⽣をも左右された。それぞれの個性が認められる⾵潮はなかった。そんな社会に、ずっと反発して⽣きてきた。それでも⼈々は皆、幸福を求めて⽣きていた。いつしか、他⼈と⾃分の幸せを⽐べながら。容姿やお⾦、⾞や家、素敵な彼、ブランドのバックに⾄るまで。全て他者と⽐較の上で、優位に⽴っているかどうかを、幸せの基準にして、競い合った消費社会。バブル崩壊、リーマンショック、3.11、コロナ感染症を経て、地位や名誉よりも、家族や⾃分⾃⾝へと、⼈々の関⼼は移ってきた。⼈々の価値観(幸せの基準)は、よりパーソナルなものへとシフトした。去年の暮れ、時代は200年に⼀度の転換期に⼊ったという。個の時代と⾔われる、⽔瓶座の時代へ。⼈々はもう気が付いたはずだ。他⼈の不幸の上に、⾃分の幸福はないことを。おのおの幸せは、それぞれ、みな違う。⾃分の幸せは⾃分で決めるものだ。幸せは、⼈と⽐較するものではない。⽔瓶座の、⾃分の時代が来たと、新しい時代の幕開けに⼤きく期待していた。その⽮先に、真っ向から対峙するような事態が起こった。ショックだった。どうすることも出来ない、無⼒さに落胆した。変わらずご飯を⾷べ、命の危険にさらされることなく⽣きていられることを、申し訳なく思った。何か⾃分でできることはないだろうかと考えたのは、春の服に着替える頃だった。ウクライナのナショナルカラーの⻩⾊とブルーは、元々好きな⾊だ。今起こっていることに、⽬を背けずにいたい。絶望の中にある⼈々に、いつも⼼は寄り添っていたい、忘れずにいたいと思った。この春夏は、明るい⾊使いが流⾏っていたから、その気分ともマッチして、いつもどこかに、⻩⾊とブルーのものを⾝に付けた。いつもあなたを想っています、平和を願うメッセージとして。興味を持ってくれた⼈々と、話し合うきっかけにもなった。ロシアの⼈にも、ありがとうと⾔われた。誰もが皆、平和を、幸せを願って⽣きている。世界中の全ての⼈々は、平等に、幸せになる権利を持っているはずだ。共にあること、共感すること。それが、他者と共に幸せに⽣きることの、ファーストステップなのではと思う。
海の中でも、同じような感覚を持つようになった。サーフィンを始めて、まだ波に乗れない時から、楽しくて仕⽅なかった。どんなに波に揉まれても、海との⼀体感は、⾄上の喜びだった。もっと楽しみたい、上⼿くなりたい、誰よりもいい波に乗りたいと思うようになった。⼈と⽐較してしまうのは、知らずと⾃分にも刷り込まれてしまった悪しき習慣だ。そもそも、⼈と争うのは苦⼿だ。でも、⼤の負けず嫌い。いつの間にか、⼈と⽐べてしまう。欲求は向上⼼ともつながっている。けれど、度を越してしまうと楽しめなくなって、⾟くなってしまう。仕事でもそうだった。そんな頃、ハワイに移り住んだ。いい波に乗るためというよりも、⾃分らしく⼈⽣を楽しむために。お気に⼊りのサーフスポットは、ジャングルの中に突如として現れるリーフブレイクのポイントだ。リーフブレイクは、ビーチブレイクと違って、波のブレイクするポイントが決まっている。サーファー達は、そのひとつのブレイクをシェアすることになる。胸肩サイズのファンウェーブのある⽇、他のサーファーと同じ波にテイクオフしてしまった。前乗りだ。ひとつの波に乗るのはひとり、というのがサーフィンの鉄則。すぐにプルアウトした。謝る私に、そのローカルサーファーが⾔った。“I would like to share the fun wave with you” “君と同じ波に乗って楽しみたかったのに、なんで降りてしまったのだ”と。こんなことを⾔われたのは、初めてだった。ひとつの波だから、⼀緒にシェアして楽しもう! と。新⼿のナンパではない。海を愛する⼈を愛する、ハワイアンたちのALOHAな波乗りスタイルだ。すごく幸せな気分になった。⾒た⽬はイカついローカルたちと、笑いながら波乗りを楽しんだ。この頃、誰かのいいライデイングを⾒ると、嬉しくなってしまう。以前は悔しいと思いながら⾒ていたのに。そのサーファーのワクワクを、⾃分のことのように感じてしまうのだ。ワクワクの共感。そして⾃分が乗れた時も、ワクワクする。2倍楽しめる。幸せの共感と共有。それはすごくリーズナブルで、ハッピーなスタイルだと気が付いた。
“他⼈の幸福の中にこそ、⾃分の幸福もある” ⼩さな幸せを共有して、積み重ねて、繋がって、⼩さな平和を築いて、共にシェアしよう。⾃分も幸せ。他者も幸せ。みんな幸せ。“Can not build my happiness on others’ unhappiness”