
これまでなんとなく海外に目を向けがちで、他の国の素敵なカルチャーやマインドを積極的に取り入れようしていたところがあった。しかし様々な価値観が変化した2020年、どこにも行けない中でふと自分の周りを見渡してみると、忘れかけていた日本の良いところが際立って見えてきた。そうだった。この国には昔から大切にされてきた丁寧な暮らしがあり、繊細な芸術があって、温かみのある手仕事と、粋な職人技もあった。そのどれも最高におしゃれな文化で、しかもほとんどがエコフレンドリーかつサステイナブルだったことに改めて気づかされた。温故知新、原点回帰。今求められていることは、これかもしれない。伝統を受け継ぎながら、現代における価値を見出して再解釈しリバイバルさせようと奮闘している人たちもいる。ニッポンの伝統の素晴らしさを、もう一度見つめ直したい。
Hasami-yaki
波佐見焼
湯呑みに自由に描かれたポップなアートの数々に、近未来建築のようなフラワーベース、空き缶やスケートボードを象った焼き物まで……すべて長崎県の商社マルヒロが生み出す「波佐見焼」のプロダクトだ(気になる人はぜひマルヒロのHPをチェック。器と言うよりも、現代アート展を眺めているような気分になる)。波佐見焼は400年続く工芸品。丈夫で使いやすい日用食器として、長年親しまれてきた。型にはまった技法がなく、自由度が高いのも特徴だ。町全体で分業しながら生産するのが一般的で、マルヒロはその中で自らデザインした商品を各工程の職人さんに依頼するプロデューサーのような立ち位置。3代目の馬場匡平さんが家業を継ぐことになったときから中川政七商店とタッグを組み、コンセプチュアルで大胆なデザインをスタートするように。今では大手メーカーをクライアントに持ち、アーティストからのラブコールも絶えない。そんな馬場さんは敏腕プロデューサーでありながら、とっても柔らかい人柄。毎日のように陶土屋、窯元、型屋など各職人さんの元を訪ねて会話を重ね、次のアイデアの相談をして回る。「職人さんに無茶な相談をしても『お前のじいちゃんに世話になったからやってやるよ』と返ってきたり、出来上がったサンプルは主婦たちが使い勝手を検証してフィードバックをくれる。町全体でやっている良さですよね」。あっと驚かせるような作品の裏には町の人たちの支えがあった。
国内外で活躍するアーティスト数人を迎えて制作した寿司湯呑シリーズ。それぞれのグラフィックを活かすため作品ごとに異なる釉薬と転写方法を使用。この湯呑は有色人種の女性をテーマにするリリアン・マルティネス氏の作品
現代彫刻風のシェイプにプリミティブな感覚が同居する一輪挿し。「空中庭園」シリーズから
白面(しらふ)と名付けられた酒器シリーズ。3Dプリンターならではのカーヴィな形状
馬場さんがいるのはフラッグシップストア
アメリカのフォントデザイン会社、ハウスインダストリーズとのコラボ急須