
イギリス出身のアーティスト、ビクトリア・ファース。彼女のムーラル(壁画)の写真を見たとき、描かれた生き物たちが今にも動き出しそうな迫力を感じた。彼女を知ったきっかけは、フランス・ホセゴーのブランドデザイナー、ジュリー・ペロットと彼女のコラボレーションワークだった。描かれているのは主に海の生き物で、クジラやタコ、シャチ、サメなど。それらが壁やサーフボード、スケートボード、ときにはキャンピングカーなどに描かれている。彼女の選ぶキャンパスにリミットはないようだ。何より驚いたのは、どんな大きさであろうとすべて小さなドット(点)だけで表現されていること。何百、何万というドットがまとまり陰影を作り出し、そしてアートに命が吹き込まれる。






Roam around the world
物心をついた頃から、ビクトリアはずっと絵を描いている。普段私たちが歯を磨いたり顔を洗うように、彼女にとって絵を描くことはごく自然なことであり、自己を表現するツールである。プロのアーティストを目指し美術大学を卒業後、自分探しの旅を始めたビクトリアが辿り着いた場所は、ニュージーランドだった。そこで見つけたレストランでの仕事、休みのたびに訪れた海。海の生き物と関わる時間が増えると同時にそれらの美しいディテールに心を奪われ、徐々にシーライフを題材にすることが多くなっていく。そして以前、スティップリング/ポインティリズムと言われる画法を目にしたことがあった彼女は、その技法を徐々に使いながらテスト的に絵を描き始める。そして今では、それが彼女のシグネチャーとなって確立している。スティップリングについてビクトリアはこう語る。
「一つひとつの点を丁寧に描くことは、私にとってメディテーションのようなもので、とても気持ちをリラックスさせてくれる。そして、その点が幾つにも重なってどんどん大きくなっていくと、描いているものに動きや影のエフェクトが加わり表情が生まれていく。その感覚がとても好き」
ニュージーランドでの生活中も旅行に出た先で、ムーラルと宿泊代をトレードインしながら、転々とすることもあった。それによって、彼女の作品が多くの人たちの目に止まるきっかけとなっていく。2018年、彼女にとって最初のゴールであった“プロのアーティスト”になり、現在はフランス・ホセゴーに活動の拠点を移した。移住先をコーストラインに選んだのには、常に海からのエナジーとインスピレーションを感じていたかったから。今では多くのサーフブランドからコラボレーションのオファーを受けるかたわら、大好きな旅も続けている。
「今後はアートレジデンスのプログラムをさらに受けられるようにしていきたい。それとともに、私のアートワークのサーフボードなどを世界中の人たちに送り届けられるよう活動したい」
アートに対する向上心が止まることのない生まれながらのアーティスト、ビクトリア・ファース。これからも多くのムーラルやアートワークを世界中で描き続ける。

