サーフィン日本代表 前田マヒナさん独占インタビュー「辛い過去を、強さに変えて」(前編)

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サーフィンが競技として認められた初のオリンピックで日本代表として戦い、大健闘した前田マヒナさん。ハワイ出身の彼女は小さな頃から頭角を現し、ジュニア時代には3度もチャンピオンに輝いた。最近ではビッグウェーバーとして自分の何倍もある大波にチャレンジする姿がたくさんの人に勇気を与えている。
実力を持っている彼女でも、試合によってはボディとメンタルのバランスが合わないときもあったし、逆にそれがばっちりハマっている時も見受けられた。一般人の私たちですら毎日の気分や体調のアップダウンに悩まされているのだから、アスリートとしてバランスを保つというのは本当に大変なこと。特にそのあたりのことが聞きたくて、オリンピックを控えた7月とオリンピック後に、HONEYで独占取材を行った。


-オリンピックの出場が決定した時、どんな気持ちでしたか?
もちろん決まった時には嬉しかったです。でも、もし決まらなくてもあんまりショックではなかったなと思って。決まったらもちろん嬉しいし、決まらなくてもしょうがないと思っていた。ずっと遠征でしばらくハワイに帰れてなかったから(オリンピック出場を決めた)エルサルバドルの試合あと、そのまま日本直行でまた帰れないことに気づきました(笑)。

-それはやっぱり目指すところがCTだから、というのが大きいですか?
※CT=チャンピオンシップツアー。女性は世界トップ18名しか入れない最高峰の大会
そうですね、目指すところがCTだというのはあります。今回は初めてのオリンピックだから楽しみだし、オリンピックに決まったことでいろんなチャンスが生まれたのは本当によかった。でも自分的には「次の試合」というイメージ。オリンピックの試合は特にルールがいろいろ厳しいから、そこが少し違うくらい。いつもの志田下(オリンピック会場となった釣ヶ崎海岸)でやるわけだし、自分の中で特別扱いはしていないです。これはCTに繋がるから勝たなきゃいけない、これは大事な試合だからがんばらなきゃいけない、とかこれまで考えすぎちゃったからうまくいかない時があったのかもと思っていて。今は試合ひとつひとつをこなしていくようにしています。

-どのタイミングでそういうメンタルに変わったんですか?
今年かな。前のコーチのバートン・リンチさんのおかげです。コロナがあって、自分のメンタルも変えたいなと思ったんです。私にはネガティブな思いやトラウマがたくさんあって、今まではずっとその嫌な思いを捨てたり忘れようとしていた。でも心の奥底にはいつも残っていた。隠していたんです。でもあるときバートンに「サーフィンに何かが足りない。どうしちゃったの? 何が君を止めているの?」って聞かれたんです。バートンも長いこと知ってるけど、私の深くまでは知らなかった。で、話してみました。私は話した後に「すぐ忘れたい」って言ったんです。そしたらそれじゃだめだ、って。

ステップ1……気付くこと
ステップ2……受け入れ、乗り越え方を考える

バートンと話して、このステップを繰り返すようにしました。コロナで試合がキャンセルになったから、自分のメンタルを試す時間があったんです。もう90%くらい乗り越えられた気がします。自分のことを分析できるようになってきました。ジャパンオープン(日本代表枠を決める試合のひとつ)の時には似たような嫌な気持ちが出てきても、あんまり反応せずスッと流せるようになってました。そこで会った人には「なんか変わったね」って言われることが多かったし、自分でも感じていました。

-サーフィン以外の嫌な想いを抱えてしまうこともあったんですね。
アスリートの人生ってすごく辛いと思うんです。負けることが多いから。ファンから辛い言葉を言われることもある。さらに私の場合はパーソナルなトラウマも多い。子供の頃、両親の期待が大きすぎてプッシュされたせいであまり仲が良くなかったんです。今はすごく仲良くなったし両親のイメージを悪くしたくないんだけど、やっぱり悲しい子供時代だった気がしてます。バカなことばっかりしてしまってスポンサーもあまりつかなくて。18歳のときに家を出て一人暮らしをしました。そのときサーフィンはもうやめたいと思ってた。でもそのおかげで強くなったと思います。乗り越えることの大変さがよくわかるから、自分が乗り越えられたことは褒めてあげたいし、それが自信にもつながってます。“There’s always a reason.” そういう風に考えています。経験としては本当に辛かったけど、今はありがたい出来事だと思ってるんです。

-辛い時、海が癒しになったりもしましたか?
そうですね、やっぱりハワイの自然の中で育ってるからハワイに帰ると癒されて気持ちがリラックスできる。「もうやめたい」と思ったときも、試合だけやめたいと思ったんです。別にサーフィンをやめたいってわけじゃなくて。でもハワイの海って自然のパワーがものすごくて、たまにエネルギーが強すぎることがある。時々不安になることさえあります。そういう時には山登りで気分転換してます。

後編に続く……

text:Alice Kazama

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