ヨーロッパ最大規模のオルタナティブ・サーフィン・フェスティバル「Glinding Barnacles」潜入レポート

日本ではあまり知られていないヨーロッパのサーフシーン。アメリカのそれとはまた違う独特の雰囲気とスタイルがある。その中でも“人”との繋がりにフォーカスしたサーフフェステバル「Glinding Barnacles」に、ライターの深田美佑(HONEY WEBのコラム「Endless Wave」を執筆中)が潜入。欧州最大のオルタナティブ・サーフフェスティバルとも称されるイベントに参加して感じたことは?


ポルトガルで再認識したサーフィンの本質

9月上旬、ポルトガルの首都リスボンからフリーサーファーのモトこと斎藤久元とフォトグラファーの笹尾和義さんと、エリセイラ経由で「Glinding Barnacles(グライディング・バーナクルズ)」が開催されるカベデロビーチへ向かった。私にとってポルトガルは2回目。数年前の12月に1週間ほど滞在したことがあったけれど、その時はリスボン周辺だけでノーサーフだった。イベント会場となるフィゲイラ・ダ・フォズは小さな港町で、場所によっては工業地帯のような雰囲気も。カベデロビーチに着くと、大会準備の真っ最中だった。オーガナイザーのゴンサルベス・ファミリーが快く迎え入れてくれ、会場を案内してくれた。昔海軍の倉庫として使われていた場所で行われるこのフェスティバルは、今年で9回目の開催。最近ではヨーロッパを中心に話題になり、Vans Europeがスポンサーに付くまでに成長した。Surf、Music、Art、Photography、Cinema、Food and Wineが楽しめ、9月7日~11日の期間開催された。

元々はポルトガルのフリーサーファーEurico Romagueraの父親Eurico Gonçalvesが、友人たちとサーフィンを楽しむために始めたのがきっかけ。競技寄りなコンペティティブなショートボートだけでなく、ライフスタイルに近いロングボードやオルタナティブ系のサーフスタイルの存在を広めるのが目的だった。昼間は海でサーフィン、夜はバーでライブやパーティを行い、海そしてサーフィンとは無関係の人との距離を縮める狙いもあった。

開催日が近くにつれ会場は徐々に出来上がり、周囲の駐車場はヨーロッパ各地からきたフォルクスワーゲンやキャンパーヴァンでいっぱいに。コンテスト会場となるビーチ横のジェッティ(桟橋)にはソファが並べられ、くつろぎながら大会を観戦することができる。エウリコが旅を通じて出会った世界各地のサーファーやアーティスト、ミュージシャンを招待。数年に渡って参加しているサーファーにとっては年に一度のキャッチアップの場で、なんともアットホームな雰囲気だった。

このイベントが他と一線を画する理由は「Express Session」と名付けられたコンテストにある。名前からしてそれが大会ではないということは容易に想像できるがその通りで、「自分らしいサーフィンをするセッション」である。それぞれのサーファーが“これこそ自分だ!”というスタイルをアピール、ロングボードだからといってハングテンをする必要はない。セッションは90分というサーフィンコンテストでは他に例がない時間が設けられ、時間の許す限りのびのびと波と戯れていた。決勝の日には波がダブルオーバーまで上がり、その波を9フィートオーバーのログで乗りこないしていく。ポルトガルの波はパワフルでカレントも強い。そしてカバデロはタイドによって波の質も大きさも劇的に変化する。時には全員でパーティウェーブ、ボードが流されても海に入っているサーファーはもちろんのこと、観戦している人も助けてあげたりと、終始和やかな雰囲気に包まれていた。

さらにこのイベントをユニークにしているのは採点基準で、ボードが流されたら近くにいる人が取りにいくとか、波を譲ったりシェアするなどの態度、陸での人としての振る舞いも採点要素の一つとなっている。セッションに順位はなく、クラシック、パワー、フローの3カテゴリーに分けられ、それぞれの要素を最も表現した人が選ばれる。招待選手のサーフィンがとびきり上手なのはもちろんのこと、一般のエントリー者も負けずに上手い。期間中は海も街も愛に包まれ、みんな本当にハッピーで常に笑っているのが印象的だった。

サーフィンの本質だけでなく、ライフタイルや人としての本質までも表現する「Glinding Barnacles」。来年もまたこの場所に戻ってこよう、そう強く感じた。

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