
ガイドに載らない、サーファー達に愛された島へ
人生の終焉で思うこと。それはきっと「海に行きたい」。まだ見ぬ憧れのビーチを目の前にしたとき、 どんな気持ちになるんだろう? 編集部が選んだのはフィジー・タバルア島。ハートの型をした、サー ファーたちの憧れの島へ旅に出た。
300以上の島からなる南太平洋の島国・フィジー共和国。その島のひとつがタバルア島。起伏のある地 形で、サンゴ礁に囲まれている。120.000m²ほどの面積で、島一周わずか歩いて20分程度。“フィジー 最後の楽園”と呼ばれるハートの形をしたリゾート島だ。
2019年に編集部が旅した、旅行記の後半をお届け。
タバルアの鳥たちは早起きだ。陽が昇る1時間前に囀りをはじめる(これは毎朝続いた。彼らの鳴き声でぼんやり起きて、波をチェックしてから二度寝するのがお決まりになった)。大抵朝の海はフラット。レストランから目と鼻の先に「キディランド」と呼ばれるポイントがある。大抵膝〜腰・腹サイズの波なので、ビギナーや女性にも安全だと聞いていた。
波が上がったタイミングでいざ海へ。陽がさす海面は薄い青色に透けて、カラフルな魚たちが横切っていく。海底が岩盤やサンゴ礁で形成された棚の上に、早足に波が駆けてきては広がっていった。一緒に入ったジェシカや友人たちは早速波をとらえ、数人でひとつの波をシェアしていた。浅瀬になる手前で海へダイブする。楽しそうな笑い声が聞こえる。私は恥ずかしながら湘南のメロウな波にしか乗ったことがないから、体験したことのないスピードの波を前に鼓動がどんどん早くなった。「大丈夫、パドルなしでも乗れて楽しいよ。タイミングを言うから一緒に乗ろう!」ナーバスになっていた私の元へ駆け寄って来てくれたのは、タバルア常連のメンズサーファーだった。この海に魅了されて戻ってくるそうだ。彼の3、2、1、の合図でパドル。彼の言う通り、ちょっとパドルしただけで波に強く押されて進んでいく。
初めて体感する波の速さに中腰のまま上手く立つことができない。うっかり前に転び、勢いよく波に巻かれた。海から顔を出すと、まわりのサーファーたちが惜しかった、いい感じだ、と声をかけてくれた。身体は徐々にほぐれて数回目のトライでロングライドに成功した。まわりの景色がスローモーションになる。太陽を照り返しきらきらと光る波に身を委ねる。
同じ波に乗ったサーファーと目が合い、思わず笑ってしまう。まわりのサーファーたちの声援が聞こえる。名前も知らないけれど、お互いタバルアの波を楽しもうという空気が心地よい。しばらくして海から上がる
と、ほかのゲスト達も声をかけてくれた。「動画撮ったよ、最高じゃない?」見せてもらうと、とてもお上手とはいえないライディング姿の自分が写っていた。だけどその動画には、撮影した彼女の、私がこけると同じく悔しそうな声や、私がテイクオフできると私以上に喜ぶ声が入っていた(なんとこんな素敵な出来事が次の日も続いた。また別のサーファーが手助けをしてくれたり、動画を撮ってシェアしてくれていた!)。
島の時間はゆっくりだが、波遊びに夢中になって気がつけば夕食時。雲の合間から差し込む夕陽でピンクに染まる海と静かに揺れるヤシの木をバックに恍惚感に浸っていた。体も心も溶けていきそうだ。腹ペコのおなかに料理とフィジービールを流し込む。料理は基本ブッフェで多国籍多民族国家のフィジーらしくバリエーションが豊富。島のまわりでとれた新鮮な魚や野菜、フルーツもたくさん。食事はどれも文句なしにおいしく、毎食お腹いっぱいになるまで平らげた。
タバルアでの4日間は、波のないときはSUPやシュノーケリング、波があがったらサーフィン。私は基本キディランド、同行したカメラマンは果敢にもクラウドブレイクに挑戦(結果はチューブ2本をメイク!心臓がバクバクしたと興奮していた)。ハンモックに揺られて昼寝をしたり、すっかり顔なじみになったスタッフと談笑したりして過ごした。
ある夜目が覚めて外に出ると、東京では想像もつかないような数えきれないほどの星が降ってきた。島を形成する自然や海、空気、人のあたたかな気持ち。すべての要素を全身で感じ、とても穏やかな気持ちで満ちていた。
フィジアンに言われた言葉が今でも胸に残っている。Even When ICry , I Will Winと書かれたTシャツを着ていたのだが、それを見て「素敵な言葉ね。でもここではね、まず泣くことなんてないんだよ」とほほ笑んだ。そんな価値観もあるのか。旅では新たな景色とともに、思いもよらないものに出逢う。だから旅は面白い。生きているうちに私はあとどれだけの景色や人に出逢えるのだろう。もっと、見たい。まだ見ぬ景色、海の色に。ひとに、想いに。ネガティブな私の妄想は、心の奥にしまい込んだ願望を浮き彫りにし、新たな出逢いを導いてくれた。
タバルア・アイランド・リゾート
Tavarua Island Resort
フィジー・ビティレブ本島からボードで約30分の位置にある。予約はHPより
掲載:HONEY(ハニー)Vol.24
※2019年に取材した記事を再編集したものです。