
これまでなんとなく海外に目を向けがちで、他の国の素敵なカルチャーやマインドを積極的に取り入れようしていたところがあった。しかし様々な価値観が変化したいま、どこにも行けない中でふと自分の周りを見渡してみると、忘れかけていた日本の良いところが際立って見えてきた。そうだった。この国には昔から大切にされてきた丁寧な暮らしがあり、繊細な芸術があって、温かみのある手仕事と、粋な職人技もあった。そのどれも最高におしゃれな文化で、しかもほとんどがエコフレンドリーかつサステイナブルだったことに改めて気づかされた。温故知新、原点回帰。今求められていることは、これかもしれない。伝統を受け継ぎながら、現代における価値を見出して再解釈しリバイバルさせようと奮闘している人たちもいる。ニッポンの伝統の素晴らしさを、もう一度見つめ直したい。
A New Tradition
Urushi
{漆}
堤淺吉漆店/京都
日本最古の塗料で山と海をつなぐ。ロマンある漆プロジェクト
硬いはずなのにどこか柔らかく、手と肌にふっと馴染む。日本人が縄文時代から使っているサステイナブルな自然塗料「漆(うるし)」には、何にも例えがたい不思議な温もりがある。京都で 100年以上続く堤淺吉漆店、四代目の堤卓也さんは去年、この特質を原始のサーフボードと掛け合わせる世界初のプロジェクト《URUSHI×ALAIA》を成功させた。表面に漆を塗った木製のサーフボードは、ツルッとした艶とその高い撥水性によってものすごいスピードを得ることができた。水に濡れたときの感触が気持ち良く、海の中でつい撫でてしまうのだとか。伝統工芸の世界だけでなく、サーフボード業界にも衝撃と次のステップにつながる技術的なヒントを与えた気がする。このプロジェクト発足の裏には、伝統を守り、自然に感謝し、その恵みを後世に繋ぎたいという想いがあった。実は漆の生産量は、驚くほど早いスピードで減少している。 40年前に500トン出荷されていたのが今では10分の1以下。「みんな大切な伝統塗料だとなんとなくわかっているのに、知らない間にスーッと消えてしまうんじゃないかと心配になったんです」。漆は木の樹液が原料。昔のサーフボードも丸太1本から削られていた。素材を自然からいただいているという同様の価値観。この感覚が自然を大切に思う気持ちを養っていく。工芸に触れること=もっと自然に近づけると信じているから、堤さんは漆を通じて発信し続けている。
URUSHI×ALAIAプロジェクトは、アライアの第一人者であるトム・ウェグナー氏とSHIN&CO.の青木真氏とのスペシャルコラボ
–{1本の漆の木からわずかしか取れない}–
1本の漆の木から200cc程度しか原料の樹液が取れない、気の遠くなるような作業
生漆のとろみと深い色は、それ自体がアートのよう
漆ボードの感触を確かめる堤さん。固まった漆はクルマの塗料より硬く、化学溶剤にもびくともしない。土に埋めても還らないのに紫外線に弱く、光にさらしておくと分解されて消える不思議な特性を持つ
最近ではラスカウッドワークスのボードともコラボした