WSLワールドチャンピオンに7度輝いたステファニー・ギルモアにインタビュー

東京オリンピック・サーフィンのオーストラリア代表にも選ばれ、つい先日メキシコで開催されたワールドツアーで優勝したばかりのステファニー・ギルモア。試合でもフリーサーフィンでも変わらない彼女のエレガントなスタイルは世界中のサーファーの憧れの的。そんなステファニーにHONEYが独占インタビュー! サーフィンのこと、試合前のマインドセット、コロナ禍で得た気づき、プロサーファーとしての夢など、たくさんのことを話してくれた。


―これまで7度もWSL(ワールドサーフリーグ)CT(チャンピオンシップツアー)のワールドチャンピオンに輝いています。どうしたらそんなに強くなれるのですか?

何よりもまず、私はサーフィンが大好きだからだと思う。そんな自分にとって、父の影響はとても大きいわ。私は10歳からサーフィンをしているんだけれど、父がいかにサーフィンを愛しているかをずっと見てきている。もうすぐ70歳になるというのに、今でも私が知るかぎり誰よりもサーフィンをしているの。あとは、単純にずっとチャンピオンになりたいという気持ちがあったということもあるかもしれない。私は小さいころから常に活発にスポーツをしていた。やがて何かひとつのスポーツを極めたいと考えるようになったとき、10代の時点でサーフィンに強く触発されたの。サーフィンの世界で一番になれたら最高だなと思った。その気持ちが、実現したい夢としていつでも心の中に強くあったということが大きいのだと思うわ。

―サーフィン史上初のオリンピアンのひとりにも選ばれました。

実は子どものころ、「いつか何かの種目でオリンピックに出たい」と思っていたの。だけどサーフィンを真剣にやると決めたときに、それは叶わぬ夢なんだとあきらめた。でも今こうしてサーフィンという競技でオリンピックに出場できた。願えば叶うということなのか、偶然の巡り合わせなのかはわからないけれど、自分がスポーツ選手としてのキャリアを積んでいくなかでこうしてオリンピアンになる機会に恵まれたということは本当にありがたく、素晴らしいことだと感謝してる。

―最大限のパフォーマンスを発揮するアスリートとしての自分と、心のままに波にラインを描くアーティストとしての自分。どちらのサーフィンが好きですか?

そうしたふたつの側面を同時に自分の中に持てるという点がサーフィンの好きなところ。サーフィンはスポーツであると同時に、クリエイティブな自己表現パフォーマンスでもあるのよ。波の乗り方には、その人の普段のパーソナリティがそのまま現れる。私はただただフローに身を任せながら波と戯れて踊るようなフリーサーフィンも大好きだし、大会で「勝つんだ」とマインドセットして、相手を負かすという気概を持って競いながら波に乗ることも好きなの。役に入るスイッチを持つ役者の感覚とも似ているのかなと思っていて、私はそのスイッチを自在に入れたり切ったりできる。私は基本的におだやかでリラックスしているから、試合前には意識的に自分の中の戦いモードのスイッチを入れて、相手を尊重しつつも積極的に自信に満ちた自己主張をするようなアサーティブなマインドセットをオンにして大会に臨む感じよ。

―勝ちに行くときは、具体的にどのようにスイッチを入れるんでしょうか?

もちろん色々とあるんだけれど、まずは呼吸法やメディテーションを使いこなすことが重要。あとは自分が「こうしたい」という状態を視覚的にイメージしたり、自分に言い聞かせる短いマントラのようなものを用意して、それを繰り返し唱えたりするといったちょっとしたルーティンもあるわ。そうした自分なりの決めごとを行うことで「今ここ」に100%集中できる力を高めたり、これから起きる挑戦に胸を躍らせる気持ちを作ることができるの。逆に大会後、スイッチをオフにして素の自分に戻るのは簡単。終わった大会を振り返って、結果やパフォーマンスからの学びを整理するだけ。どうやったらミスを改善できて、この先さらに自分が進化をしていけるだろうかを考えるのよ。

ステファニーはWSLのCTに参戦しながらトッププロサーファーとして活躍。2021年、WSL CT オーストラリア・ニューキャッスル ©WSL

試合中でも楽しむことを忘れない。ステファニーは海を愛し、海に愛されている。2020年、WSL CTマウイ ©WSL

7回目のWSL CT ワールドチャンピオン獲得の瞬間。2018年、マウイ ©WSL

―コロナ禍において、2020年はワールドツアーがキャンセルされました。どのように過ごしていましたか? また、そこで得た気づきはなんでしょう?

母国のオーストラリア(ゴールドコースト・スナッパーロックス)でほぼ1年を過ごしていたわ。それまで15年間ずっと世界中を点々としつづけてきたなかで初めて立ち止まり、地元で家族や友人たちとたくさんの時間を過ごすことができた。親しい家族や友人たちと一緒にいる時間がいかに尊いかしみじみ感じることができたし、故郷オーストラリアに対する愛情が強くなった。それと同時に、できなくなってしまったからこそ、色々な場所に旅ができることのありがたさも感じたわ。いつもやっていたこと、普通だと思っていたことができなくなって初めて、日常がいかに恵まれていたか……。ゆっくり立ち止まって思いを馳せることができたからこそ、「私はこんなにも自分の歩んでいる人生を愛していたんだ」と気づかされた。幸せでいるために必要なものなんて、本当に少しのものなんだっていうことが本当によくわかった。いい波といい友人と、健康でハッピーな笑顔の家族。必要なものって本当にそれだけだなって思えたの。

―プロサーファーの使命とは? ほかのアスリートにはない、サーファーだからできること、するべきだと思うことを教えてください。

サーファーは海のために戦う戦士であるかのよう。海洋環境のためのさまざまな取り組みを行う責務を負っていると思う。とくに私たちプロサーファーは毎日世界中の海を見て、ゴミの被害や工事で破壊された海岸線を目の当たりにしている。そうした事実を人々に伝えたり、あらゆる形で世の中に啓蒙していくことは私たちの義務だと思う。たとえ海と接点がない人であっても、生活するうえでの様々な選択が何かしらの形で海に影響を与えている。海は地球上でもっとも重要な構成要素のひとつ。地表の70%を占め、私たちに酸素を供給し、食物を与えてくれているのだから。地球上の生きものが幸せに生きるために、この世界の奇跡的な生態系を健全な形で保っていくことは必要不可欠。だから私たちサーファーが世界の人々に対して「今まで以上に自分の一つひとつの選択や意思決定に意識的になっていこうよ。より持続可能な製品を選んでいこう。ものを作るときも、より持続可能な素材を選んでいこうよ」と呼びかけていくことがとても大切なの。完璧な人間はいないけれど、私たちみんなが地球のために最善を尽くすことはできるはずよ。

―プロサーファーとしていくつかの企業からサポートを受けています。パートナーシップを結ぶうえで、金銭面以外で大切にしていることは?

「バランスのいい人生を生きていくことの重要さ」「最高の質を追求していくこと」など、私の中で大切にしている、ひとりの人間として発したいメッセージがある。その考えと呼応し、体現している企業と一緒に歩んでいきたいと思っている。「最高の質の追求」というのは最高品質なものという意味だけに留まらず、「自分ができる最高のパフォーマンスをいろんな局面で発揮していこう、最高の状態を目指そうよ」という意味合いも含めて。
あと、環境問題に真剣に取り組む組織やブランドとパートナーシップを組むことも私にとって大切。だから、ブライトリングのサーファーズ・スクワッドの一員であるというのは本当にワクワクする。ケリー・スレーターとサリー・フィッツギボンズのふたりが大好きで、海の健全性を真剣に考えて実行できるこのうえないチームだから。私がブライトリングが大好きな理由は、最高峰の腕時計を提供しているということだけではなく、世界によい変化をもたらすための取り組みを真剣に支援しているブランドだから。私にとってはそれこそがすべてで、パートナーシップを結ぶうえで金銭面よりもずっと大事な観点なの。

ブライトリングが結成したトッププロサーファーによるチーム、サーファーズ・スクワッド。左からステファニー、ケリー・スレーター、サリー・フィッツギボンズ

海の環境をよりよくすることがサーファーズ・スクワッドの使命。2019年WSL CTバリ戦の直前、健康で美しい海洋と海岸を守るNGO「オーシャン・コンサーバンシー」と手を組んで大規模なビーチクリーンを行った

ふだんのステファニーはご覧の通りカジュアル&エレガント

―今後の夢や目標を教えてください。

8度目のワールドチャンピオンのタイトルを獲得したい! 実現したら本当に最高だと思っているわ。だからやらなくてはならないことがいっぱいね。今ふたたび世界が動きだし、多くのスポーツイベントが再開していることを嬉しく思っている。遠くないうちに、みんなの生活が普通に戻るといいなと願っています。
それと、これは私がすでにキャリアの後半にいるからかもしれないけれど、「どうしたら若い女性アスリートたちをサポートすることができるか」考えたりもしている。ワールドツアーに参加している才気あふれる女性選手たちを見ていると心が踊るの。彼女たちはみんな、世の中でロールモデルになれるような人間なんだもの。もちろん彼女たちと大会で競いあうことも最高なんだけれど、同時にサポートするようなこともしてみたいと思う。

―次世代の育成に興味があるんですね。

そう、とても。サーフィンは、キャリアとして成立する道を示している点で、たくさんあるスポーツの中でも先頭を切っていると思う。アメリカに限って言えば、サーフィンは初めての、そして現在唯一の男女の賞金が同額のスポーツ。サーフィンは次世代の女性がプロアスリートとしてのキャリアを確立できるよう、つまり金銭的な支援を男性と同じように受けられるようにスポーツ業界が変わっていくための推進力になりうると思う。環境が整備されれば、才能は自然に集まり育っていくはずだわ。
WSLの取り組みで「ライジング・タイズ」と呼ばれるすばらしいものがあるの。開催地に暮らす6歳から16歳までの若い女の子たちをプロの大会の前に招待して、女性プロサーファーとじかに会って質問をしたり交流できる機会を提供しているの。そのイベントで女の子たちが受けとれるものはとても大きい。私が何より大切だと思っているのは、サーフィンをあらゆる人に対してオープンにすること。海はどんなバックグラウンドを持っている人でも関係なく平等に受け入れてくれる場所。サーフィンは、大会に出たりプロを目指す人たちだけのものではない。むしろ、まったくそんなことを目指さなくていい。サーフィンはみんなのもの。サーフィンがそうしたものとしてたくさんの人々に愛されていくことが、心からの願いであり夢なの。私は大会に出場するプロサーファーではあるけれど、大会に勝つこと以上にもっと多くの女性がサーフィンを楽しむようになることのほうが嬉しい。そんな彼女たちと一緒に、サーフィンがどれだけ尊くて素晴らしいものか、世界に見せていきたいと思っている。

2019年 南アフリカ・Jベイ戦の前に開催されたWSL「ライジング・タイズ」の様子 ©WSL

ステファニーと一緒に波に乗った女の子は、この瞬間をきっと一生忘れない ©WSL

ステファニーは未来に向けて、より多くの人にサーフィンの楽しさが広まっていくことを心から願っている ©WSL

text: Jun  Takahashi

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