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冷水、強風、鉛色の空。なのにサーファーに愛されるフランス・ブルターニュって、どんな場所?(前半)

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フランス・ペイバスク地方、ビアリッツに住むHONEYのライターMichikoが、初のブルターニュ地方へサーフトリップ。ブルターニュと言われてもピンとこない人も多いと思うが、フランス北西部の英仏海峡と大西洋に突き出た半島に位置し、豊かな自然と、独特の文化を擁している場所。エメラルドに輝く海岸、花崗岩によるピンク色のビーチ、断崖が連なる海岸線が訪れる人々を魅了している。寒くて冷たいのにファンが多いブルターニュ。彼女が見たリアルと現地ローカルから聞いたサーフィン事情を2回に渡ってお届けします。


2021年9月中旬、ブルターニュ地方へようやくサーフトリップに行くことができた。というのも、何年も前からブルターニュに興味を持っていた。ペイバスクに住みはじめてある程度月日が経つが、その間に何人ものブルトン(ブルターニュ出身の人のこと)やブルターニュを知るサーファーから、「ブルターニュは美しい」「水はぺイバスクに比べ冷たいが、あたると波のクオリティが素晴らしい。サーファーなら一度は行くべきだ」「ブルトンは優しくフレンドリー。バーに入って1杯ビールを飲めばOK。そこに居る人たちとすぐ知り合いになれる!」など、好奇心をくすぐられるものから「ベストシーズンはない。どの季節に行っても一緒。寒くていつも雨が降っているから(苦笑)」というアドバイスをもらっていた。

スペイン近くにあるBiarritzから赤枠で囲まれたエリア、フィニステールを目指す

良い面、そうでない面があるのは普通だが、しかし彼らの話はブルターニュを知らない者からすると、具体性に欠けていた。例えば、どこに行けばサーフィンを楽しめるのか? そう聞くと「波と風次第だから。それにブルターニュは広い」と明言を避けてくる。いい場所と自慢するわりに、詳細に近づこうとすると煙に巻いてくる。サーフトリップの行き先として、ブルターニュはミステリアスな土地だった。

通りの上に掛けられたモノクロの旗がブルターニュの旗。Quimper (カンペール)にて

行ってみたいが楽しめるかは分からない場所。ブルターニュはそれ自体が半島で、大西洋に突き出ていて風の影響を大きく受ける。もしオンショアでサーフィンできない場合、別の場所なら他の楽しみにシフトすればいい。例えば町を歩いて観光など。しかし彼らも言うようにブルターニュの天候は基本的に雨、曇りとされる。つまり行ってもサーフィンを楽しめるかは不確実で、空は常に曇っている。サーフトリップの候補先にはあまり向かないと思われるが、ブルターニュ自慢をしてきた人たちは本当に心から好きそうだった。リスクは大きいが、ブルターニュにはそれを補ってなお加点する魅力があるのではないだろうか。それは何なのだろう?

その昔、グレートブリテン(イギリス)で起きた戦禍から逃れるためケルト系民族が海を渡ってきて住みついたのがブルターニュの起源とされる。ブリテンのフランス語読みからブルターニュとなった。ブルトンは一般的に身長が高く、色白、碧眼の人が多い

ブルターニュ地方は4つの県に分けられている。イメージするなら九州地方が7つの県に分かれているようなもの。その4県の中、今回は一番先端にあるフィニステールに行ってきた。

走行距離は約830km、ペイバスクから車で8時間半かけて到着した先は海と崖、建物のない世界だった

一番の心配は天気だったが、概ね晴れ。2週間滞在予定のうち、波は最初の1週間はフラット、2週目にサイズが上がってくるとの予報だった。そこで波がない間は海岸沿いをウォーキングすることにした。まず向かったのはPointe du Raz (ポワント・デュ・ラ)というラ岬。フランス最西端ではないが、それに準ずる岬。

写真中央にある突き出たところ、そこがラ岬。リアス式海岸という地形がよく分かる。ラ岬へは車でアクセスすることも可能。一般の観光地としても有名

この日は潮の満ち引きの変化が大きい日で、突き出た岩と岩の間の流れが激しかった。渦潮ではないが、鳴門海峡を想起させる。奥の岩に作られた灯台は今はもう使われていないが、昔は常駐している人がいた

野生のブラックベリーの実を発見。少し酸味があってビタミン補給に◯

ラ岬で一番印象に残ったのは、行く道中に受けた風。午前中は穏やかだったが、午後になると時おり強風にさらされ、真っ直ぐに歩きづらいほど。歩道の数メートル先は海。目の前はどこまでも続くリアス式海岸の景色。壮大だが、遠近感を狂わせる。そうして風と海のパワーを一気に浴びたせいか、酔ってしまった。自然を遮る人工物がほとんどなく、ラ岬周辺のエネルギーは強烈だった。

自然につくられたトンネル。風が強過ぎたため上を歩くことは断念

界を遮るものや高い山は一切ない

ラ岬があるのはフィニステール南部。フィニステールは北部と南部の2つに大別されるが、別日に中間に当たるエリアのPresqu’île de Crozon(プレスキル・ドゥ・クロゾン)へ移動した。地図で見ると北部と南部の突き出た部分に上下を挟まれた形の小さい半島で少し奥まっている。その海沿いも歩きながら散策することに。

Pen Hat(ぺン・アット)海岸。青空は出ているものの曇多めという空模様にも関わらず、海の色はとても美しかった。透明度も高く、見ていて清々しい気持ちになる

海岸沿いにはBruyère(ブリュイエール)という植物が生い茂っている。9月の時点では枯れてしまっていたが、6月は花が咲き、海沿い一帯がピンクと黄色に彩られる。花が放つ香りも甘く、それに誘われてミツバチもやってくる。ブリュイエールの蜂蜜は絶品

ぺン・アット海岸の反対側にある駐車場には数台のバンが停まっていた。ナンバーを見ると大半がドイツから来た車。何台かは車の前にサーフボードを出していたので、ここはサーフスポットと推測できる

昔の家は石造りで窓が小さい。今よりガラスが普及していなかったのはもちろん、嵐対策だそう。屋根も急な角度がつけられ、雨水が溜まらないようにと工夫されている

Plage de Veryac’h(プラージュ・ドゥ・ヴェリアック)も透度が高い。天気がよく、さらにブリュイエールの花の季節だったらどれだけ美しい景色になるだろう

プラージュ・ドゥ・ヴェリアックのビーチに降りると、野生のムール貝がビッチリと岩肌に付着しているのを発見! 

ブルターニュにはハイキングコースがいくつか設けられている。ここはGR37というコースのスタート(ゴール)地点、Pointe de Pen-Hir(ポワント・ドゥ・ペンイル)。道は整えられ、サインも随所に出ているので気軽にハイキングを楽しめる。ここを歩き進めていくと、最後はあのモン・サン・ミシェルに辿り着く

Presqu’île de Crozon(プレスキル・ドゥ・クロゾン)、通称クロゾンはもともと風光明媚な場所として知られている。特にビーチの美しさは評判だが、ここまで美しいとは! 天候によって海の色は大きく変化し、青空なら海は澄んだブルーに発色し、曇れば鉛色に変わる。しかしその鉛色の海も観察しがいがある。風やうねりによって水面に模様が描かれ、見えづらいものを見ることができる。いろんな海へサーフトリップに行っていると、ある時期から初めて訪れた場所でも「あそこと似ている」と、既視感を覚え始める経験はないだろうか? クロゾンの景色は個性的だ。知らない海の景色がある。少なくとも暖かい国のそれとは違う。

の上に残る数本の塔のようなものは、詩人サン・ポル・ルーの邸宅跡地。ペン・アット海岸を見下ろせる場所で晩年を過ごした。その後ろ手にはメンヒルと呼ばれる一枚岩が並んでいる不思議な場所がある

変わりやすい天候、常に曇りがちな空に少し見慣れてきた頃、波のサイズが上がってきた。向かったポイントはSaint-Tugen(サン・チュジョン)。

最初にチェックした日はセットで膝くらいの小波。この日は日曜日で、一組だけサーフィンスクールも行なわれていた

翌日はサイズが上がりセットで腹胸くらい。ビーチの幅は300mくらい。右のピークの方がホレるようでショートボードはそちら側、ミッドレングスやロングボードは中央に。ブレイクに癖があると感じたが、一度乗ってしまえば波は岸まで続く

翌日はさらにサイズアップ。手前が岩場なので、潮が引いているときは注意が必要。岩場に生えた植物にはカタツムリが大量発生していた

青空になると途端に暖かそうな雰囲気になるが、ウェットスーツは5/3mmが必須。3/2mmで十分なペイバスクからするとやはり冷たいが、もっと冷たいものだと想像していた

結局、同じポイントでサーフィンし続けた。9月中旬のわりに水は冷たいが、ブーツは最後まで履かなかった。サーファーの数はペイバスクに比べると少なく、半分くらい。ただし8割が男性。しかし圧を感じることはなく、海の中の雰囲気も悪くない。波にガッついている人も見かけなかった。

20時半前のサンセット。サン・チュジョンの駐車場は2箇所あり、バンライフを送っている人たちが数組いた

サーフィンが楽しめたのでサーフトリップとしての目的は達成できた。しかしどこか消化不良。実際に行ってわかったが、ブルターニュは広いだけでなく、海岸線が複雑なのでポイント間の移動に時間がかかる。今回は確実に波のあるところを選び、同じポイントしか知らないで終わってしまった。ただそのおかげで分かったこともある。そもそも大西洋の波はタイドによる上げ下げの変化が大きいが、ブルターニュはペイバスクよりも潮位の変化が激しかった。なぜだろう? 新たな疑問が生まれたことで、ブルターニュをもう少し探ってみたい。しかし広大なのでフィニステール地域に範囲を絞る。滞在中にローカルと十分に会話する機会は持てなかったが、戻ってきてからフィニステールのローカルに話を聞くことができた。そこで海の特徴、おすすめポイント、トリップに向いている時期などを教えてもらった。
後編に続く。

text:Michiko Nagashima