HONEYが気になるあの人にQ&A_#08/“女性らしさ”ってなに「Agathe Marcé」



フランス・ビアリッツで活動するアーティストAgathe Marcéさん。ペインティング、モノトーンの線画、粘土の造形、グラフィティなどあらゆる方法でアートを表現する。幼い頃からサーフィンに親しんできた彼女がアイコンに選んだのは、ぽっちゃり体型が可愛らしいサーファー“Big Mama”。このキャラクターを通じて伝えたいメッセージとは。

-あなた自身について教えてください。
フランスの南西部、ビアリッツ出身の32歳。海の街ビアリッツで生まれ育って、今も住んでいます。もうここ以外住めないと思うほど素敵な場所です。

-ビアリッツはサーフィンで有名ですよね。
はい。いつも大混雑のサーフスポット、コート・デ・バスクが私のホームです! 父がそうだったように、私もそこで生まれ育ってサーフィンを学びました。祖父は1900年代初頭のビアリッツ写真のコレクター。何世代にもわたってビアリッツの心が受け継がれています。

-アートのキャリアについて聞かせてください。
小さい頃からしょっちゅう、絵や模写的なもの(漫画本の表紙、サーフロゴ、スケートのアート作品など)を描いていました。その後、写真や映像を撮ったり、ペインティング、雑誌作りに興味を持って、自然とグラフィックデザイナー&アートディレクターの道へと進むように。今はブランドイメージやロゴをデザインする仕事をしています。
自分のアートワークとしては、2020年に個展を開催。その時はサーフワックス、Sex Waxの超ジャイアント版を作って展示しました(写真下)。

去年はグループ展をビアリッツにあるオープンギャラリーで開催。Pandora Decoster、Benjamin Artolaのような素晴らしいローカルのアーティストたちと一緒に展示できました。2021年の夏終わりに初めて開催された、女性のためのサーフフェスティバル「Queen Classic Surf Festival」で作品を飾らせてもらえる機会もありました(写真下)。

-Sex Waxの作品はかなりアイコニックでした。ジャイアントとミニがありますよね。どうしてこれを作ろうと思ったんですか?
7〜12歳くらいの間、サーフィン業界は私にものすごい影響を与えたんです。’90年代の子供たちがみんなそうやって育ったように、サーフカルチャーのあらゆるものに魅了されてきました。本、雑誌、服、ポスター、ステッカー、サーフボード、スケートボード、ウィール、リーシュ、水着……本当に全部! なかでも私を夢中にしたのが、サーフショップに入るとまず目に飛び込む、ショーケースに並んだワックス。いろんな色があって用途別に綺麗に整列しています。買わないと触れることすらできない。当時の私の目には、そんな風にショーケース内でしっかりと守られた存在はとても近寄りがたくて、貴重な消耗品に感じたんです。まるで一種のアートのようでした。(写真下はSex Wax ミニシリーズ)

-作品の中で使う色で、好きなカラーは?
頭の中には2つの方向性があって。ひとつはシンプルなペンか墨で描く、黒と白の作品。これはいつも“自動絵描き機”かってくらいパパッと描いちゃいます。

もうひとつは、もっとしっかりイメージを構築しながら鮮やかな色味で描きます。私は作品に優しいとか穏やかな感覚じゃなくて、スピード感を持って怒りを込めたりしたいんです。だからパステルカラーは使わないです。

-あなたの作品はいい意味で、クリエイティブな落書きのよう。どうやってそのスタイルを確立したんですか?
ある日ふと、もうありのままでいこうと決めました。自分の生み出す作品をコントロールしようとしたり、考えすぎることをやめようと思ったんです。“美しいもの”を作ろうとすることをやめました。大事なのはシェイプ・ライン・動き。私のスタイルはラフで本能的だってことに気が付いたんです。

-サーフィンとアートを結びつけた理由は?
母は私に本とアートを与えてくれて、父はサーフィンを与えてくれました。長い間この2つを一緒に扱ったことはなかったんです。でもサーフィンに対する想いを表現する方法が「Big Mama Surfシリーズ」を通して見つかりました! 私のカルチャー、経験、声。海にいるときに女性として感じる、深い感情を伝えられるようになりました。

-Big Mama Surfシリーズについて教えてください。
数年前1週間の休みを取った時、家に閉じこもってノートを小さなスケッチで埋めるということをしていました。その時の絵が後の「Big Mama」に。何も考えずに、ただ浮かんできた作品。ひとつのスケッチが完成すると数珠つなぎで他の作品も生まれてきました。描けば描くほど、自分自身が見えてくるような気がしたんです。

– Big Mamaの大きなお尻や胸、ぽっちゃり体型が愛らしいです。
彼女をXLサイズにした理由は、彼女から目を離せなくするためです。体のサイズのせいでスペースは広く取るし、やりたいことはやる、行きたいところに行く女性。ありのままに生きていて、申し訳なさそうにすることがない。美しい女性サーファーをキャラクターにしなかったのは、私が自分のことを性的な対象になるような女性サーファーだと思ったことがないから。つまり、これは私なりの女性の“理想的な体型”に対する問題提議なんです。

– Big Mamaからは女性の自立心や強さなどと同時に、くすっと笑ってしまうコメディのような要素も感じられます。女性であることの喜びやつながりも。実際にはどのようなメッセージが込められていますか?
すべて正解! そう見てもらえて嬉しいですね。Big Mamaのメッセージは何層にも重なっていて、そこには怒りも含まれているんです。サーフィンにおいて女性は不利な場合が多いと思うんですが、彼女を描くことで私自身も自信が持てるようになるんです。
私は、時々海の中で「見えない存在になりたい」と思ってしまいます。でも彼女は広くスペースを取り、自分に誇りを持って、情熱的に立ち振る舞うんです。私たちはみんな傷つきやすく、でも打たれ強いところがある。壊れやすいけど、強さも持ち合わせている。コンプレックスは美しいと私は確信しています。
私たち女性は、“女性らしさ”がなんなのかを自問しなければならない。世の中に対して、今後はこれまでと違ったストーリーを伝えていかなきゃいけないと思うんです。女性による、女性の新しい物語を。

-あなたのアートを日本から購入できる方法はありますか?
今は小さなオンラインショップで絵やZINEを販売していて、日本へのシッピングも可能です。作品はぜひインスタグラムからのぞいてみてください。

-次の目標を教えてください。 
もっとグラフィティを描くこと!

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