プロサーファーの現在地|小高恵子 vol.2/サーフィンと出合い、コンテストを目指すに至るまで

湘南生まれでずっとサーフィンが身近だったプロサーファーの武藤龍寿さんと、東京を拠点に活躍していた小高恵子プロ。武藤さんは最近東京にサーフブティック、そして湘南にサーフクラブをオープンし、独自の視点でサーフィンの魅力を伝えている。一方小高さんは30代でサーフィンに出合うとその魅了にどっぷりハマり、現在もコンテストの第一線で活躍している。互いに信頼を寄せる2人に、サーフィンに対する想いとこれからのヴィジョンを3回にわたってインタビュー。vol.2となる今回は、小高さんがサーフィンと出合い、コンテストを目指すに至るまでを聞いた。


サーフィンをしていると青い世界によく出合う。澄み渡る空、太陽の光を反射してキラキラと輝く海。スポーツという枠を超えた自然との一体。サーフィンがライフスタイルの一部になるのは、きっとそんな魅力があるから。

プロサーファーの小高恵子さんは、30代の頃にサーフィンと出合った。それまではスキーに長く親しみ、社会人として国体を目指すほど関東でも有数の実力派スキーヤーだった。真っ白な世界に包まれる雪山の幻想的な風景。そんな彼女の日常が“白”から“青”へと少しづつ変わり始めたのは、大きな怪我がきっかけだった。

「30代前半で膝を怪我して、ハムストリングの筋肉を移植しました。スキーの世界ではよくある怪我なんですけど、2回続けてしまって……。ストイックに頑張っていたときで、大会でも一番いい成績を出していた時期だったので正直ショックでした」

サーフィンを始めたのは怪我をする少し前。当時はスキーの合間に楽しめればいいという趣味レベルだった。けれど怪我をしてからはブーツを履くだけで鋭い痛みが走るスキーより、足に違和感のないロングボードの世界に不思議と引き込まれていった。

「子供の頃から水泳をしていたので、海に対しての抵抗はなかったです。大学生のときにはボディボードにチャレンジしてみたけど、そのときは全くハマらなかったです。でもロングボードの上に立ったとき“何この感覚!?”ってすごく感動しました」

それからは頻繁に海へ向かうようになり、気づけば8時間サーフィンすることもあった。

「とにかくサーフィンが面白くて! 時間が許す限りほぼ海にいました。東京からの通いサーファーだったので、泥のように疲れて家に帰る日々。だから次の日は休もうと思うけど、波が良さそうだとまた海に向かってしまう。そんな暮らしが何年も続き、昨年ついに千葉に家を借りたんです」

そこは彼女が長く通っていたホームタウン。10年遅いと仲間に笑われたそうだが、年齢を重ねてたどりついた決断。37歳でプロサーファーとなった彼女には、スキーで味わった苦い思い出がある。

「競技スキーを何年も本気でやってきました。でも結果的には報われなくて、深く傷ついていたんだと思います。サーフィンは大好きだけど、“次は楽しみながらやろう”そんな気持ちでプロを目指していたのですが、プロになった瞬間、本気で頑張りたいと思ってしまって。不思議ですよね」

彼女はきっと生まれながらのコンペティター。サーフィンは自己満足で、気持ちよければいい。そう思いながらも成長したいと考えてしまう。東京・自由が丘でサーフショップ「ROAMERS & SEEKERS」を経営するパートナーの武藤龍寿さんもまたプロサーファーで、お互いに良い刺激を与える仲だ。

「試合を通して、客観的な評価が欲しいのかもしれないです。自分では満足できても、点数になったとき違う感覚を受けます。身体が不調だとそれが結果に出る。同時に努力したことが試合で評価される。身体と心のバランス。それがうまくいったときの喜びに惹かれているんだと思います」

体力には自信のあった彼女も、最近ではさまざまなトレーニングを受けている。コンテストに出場し始めてもう10年以上。変化していく身体と向き合い、それがサーフィンとも繋がっている。それは誰かに勝ちたいという闘争心より、今の私はどう? と質問を投げかけている感じさえする。

「サーフィンは自分と向き合う大切な時間です。新しいチャレンジで、今まで知らなかった自分にも出合えました」

例えば、きっと自分では選ばないサーフポイント。そこで大会があれば新しい景色に出合い、新しい人との出会いがある。コンテストに出場することで、世界がどんどん広がっていく。それはプロサーファーになって知った、嬉しい出来事のひとつだった。

けれど、プロの大会にエントリーできるほどの実力を身につけるのはそう簡単なことではない。彼女の努力とサーフィンへの想いは、サーフィンに夢中な誰かを刺激する。それは青い空がずっと広がるように、美しく、清々しいから。大会は“誰か”ではなく“自分”との会話かもしれない。そう思うと、大会にはまた違う魅力があるようにも感じる。

いつでも好きなことを全力でやってみる。それは、思った以上に楽しい。

最終回のvol.3に続く。

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