INSTANT SURF/時空を超えるポラロイド。写真家マット・スミスが見る景色

フィルムやポラロイドの魅力が再注目されて久しく、今ではまたひとつのスタイルとして定着しつつある。デジタルのほうが段違いに色鮮やかで、世界を綺麗に映し出すのにそれよりも不便で粗っぽさの残るアナログカメラに惹きつけられるのは瞬間を切り取るインスタントな感覚にこそ、より真実味や人間臭さを感じるからなのだろうか。ポラの写真はいつもどこかノスタルジックで、時代さえわからなくなって、物語が詰まっていて……。そんなレトロなアートピースをサーフカルチャーと共演させる写真家に出会った。彼はポラが再熱する10 年以上も前からヴィンテージカメラ片手にビーチで毎日のようにサーファーを撮影してきた。イングランド南西端、コーンウォールの雄大な自然を背景に。

コーンウォールのセント・アグネスにある小さな湾、トレバウナンス・コーブ。18、19世紀に栄えた港の旧跡が残る。フォトグラファー、マット・スミスは家からほど近いこの場所によく足を運ぶ。このときは1970年代のカメラと、11年も期限切れとなっているフィルムを使って撮影。時空を超えて現像されたのは、どこか温かみのある褪せた色の写真だった。過ごしやすい夏の日を表現するのにこれ以上パーフェクトなカラーはない

90秒待った先にレトロな世界が浮かび上がる

―インスタントカメラのみで撮影しているサーフフォトは今あまり出逢うことがない気がします。逆にとても新鮮に感じました。あなたの作品について教えてください。

僕の写真はサーフカルチャー、景色、そこにポートレイトを落とし込んだものが主題になってる。景色はもちろんサーフィンが絡んでるものも多い。そう、全部ポラロイドで撮影してるんだ。

―なぜサーフィンを被写体にしようと思ったんですか?

僕はずっとコーンウォールに住んでサーフィンしてきた。ここはサーフィン人口が多く、サーフィンにまつわる産業もすごく多くて、僕自身もそれに囲まれてると同時にその一部になってるんだ。波に乗る行為だけじゃなく、サーフィンにまつわるすべてのプロセスが僕を魅了する。あるときどこへでもポラロイドを抱えて行くようになってから、サーフィンのいろんなフェーズをカメラに収めるようになった。それがすべての始まりだよ。

―ポラロイドで撮る理由は?

最初はずっと35㎜のフィルムで写真を撮っていたんだ。でも仲の良い友達がポラロイドを使っているのを見て一瞬でやみつきになった。化学反応が生む唯一無二のアートが、撮影してからたった数分ででき上がることにね!

―写真ごとに違った表情や質感を感じるので、撮影しているカメラはきっと一台じゃないですよね? 今、主にどんなカメラを使っているんですか?

ポラロイドはいくつも持ってるよ。長い間買ったり売ったりを繰り返してきたけど、最近はいくつかのハイエンドなポラロイドカメラに絞って愛用してる。露出がマニュアルで、ピントを自分で合わせなきゃいけないヴィンテージなんだ。1950年代のスピードグラフィック(NYのグラフレックス社が製造した大判カメラ)、ポラロイド195、キヤノンのSX70、8×10カメラ(伸縮するジャバラ付きの、映画などで見かける大判カメラ)とかだね。

―なぜ自身の写真を“インスタント・サーフ”と名付けたんですか?インスタグラムやウェブサイトのタイトルにもなっていますよね。

サーフィンを取り巻くものと、撮った写真をすぐ見られるスピード感を一緒に表現した名前にしたかった。ポラロイドのことを“インスタント・フォトグラフィ”と呼ぶ人もいるから、この2つを組み合わせたんだ。

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