【連載】地球の今、海の今を知る|Vol.34 いつまでも残したい「世界遺産」の裏側に

旅先として脚光を浴び、壊された自然……それは未来に残したい「世界遺産」となったところでも、守られるべき自然や文化遺産が失われてしまった場所はたくさんあります。なかには遺産価値が損なわれるほどダメージが深刻になり、「危機遺産」となってしまったケースも。原因は、観光開発や経済優先による環境と生態系の破壊、気候変動や密猟が招いた生態系の危機、紛争による破壊など場所によってさまざまですが、観光発展の例では、エクアドルにあるガラパゴス諸島などが有名です。ガラパゴスは1978年に初めて「世界遺産」第1号となったあと、観光ビジネスが盛んになり、手つかずの海に眠る資源などを目当てにした乱開発も進みました。絶海の孤島として独自の進化を遂げた、類いまれな生態系がガラパゴスの魅力ですが、外界との接触に脆弱なため、外来種の侵入によって稀少な在来種が減少し、来島者が増えるほどゴミ問題や海洋汚染が広がり、2007年に危機遺産となってしまいました。カリブ海のベリーズ珊瑚礁保護区も、世界遺産登録後の観光開発、マングローブ林の破壊などが原因で危機遺産に。その後、どちらも懸命な環境保全に務めたことで危機遺産からは外れましたが、現在も50件以上の世界遺産が「危機遺産」としてリストアップされています。

Belize
Garapagos

日本でも富士山や小笠原諸島など、世界遺産として登録された後に観光客が増え、ゴミ問題や汚染、自然資源のオーバーユース、外来種の侵入といった被害が見られています。1993年に日本初の世界自然遺産に登録された屋久島も、人口1万人ほどの島に多いときで年間40万人もの観光客が押し寄せ、ダメージを受けた聖地の一つ。今年は新たに、「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」が日本で24件目、世界自然遺産としては小笠原諸島に次ぐ5件目として登録されましたが、すでにあちこちで開発が進んでいます。とくに離島エリアはLCCが就航以来、来島客数が増加傾向にあり、護岸工事や森林伐採、土砂の採掘、汚染問題などが広がるとともに、森や沿岸の開発が進むほど動物たちも棲み処を奪われていきます。レンタカーや観光バスも増え、「ロードキル」と呼ばれる車と野生生物の交通事故件数も増加。外来生物の侵入によっても生態系に悪影響が及び、奄美大島・徳之島ではアマミノクロウサギ、沖縄北部ではヤンバルクイナ、西表島のイリオモテヤマネコなど、島ならではの固有種やたくさんの稀少種が絶滅危惧種となっています。世界遺産登録についても地元では賛否両論あり、「嬉しいような嬉しくないような。開発や島外者が増えて、手つかずの自然が荒らされるのは辛い」「唯一無二の自然と、この島らしい雰囲気は消えないでほしい」「ゴミだらけの海になってほしくない」といった声も多く聞こえてきます。


「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」といえばクリスタルブルーの海とここにしかない風景、海洋生物の顔ぶれもとりわけユニークで、西表島の東には「石西礁湖」という日本最大のサンゴ礁群も広がるほど、海を見ても世界に誇れる美しさと生命のゆりかごを擁しています。にもかかわらず、今回世界遺産として登録されたのは陸域のみで、海域は除外されています。その理由は、海洋ゴミの問題が深刻で、サンゴ礁の白化・死滅も広範囲で進んでいるから。そんな事情で対象外だなんて悲しすぎるけれど、個人的には、世界遺産かどうかは単なる人間目線の評価にすぎなくて、確かにそこにも未来にずっと残していきたい海がある……だからこそ海への思いやりを最大限に、これからも島を大切に愛でる旅人でありたいなと。8年くらい前のことですが、小笠原の方が「世界遺産になって観光客は増えたけど、残念なことに『世界遺産』を見に来る人が多くて、『小笠原』を感じに来る人は少ない」とポロッとこぼしたこの言葉を、私はずっと忘れられずにいます。

text:Ayako Minato

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