
日本はプラスチックの生産量が世界第3位でありながら、一人当たりの容器包装プラスチックごみの発生量は世界第2位という、プラスチック大国。そんな日本では2020年にレジ袋が有料化、2022年からはプラスチック新法も施行されたけれど、世界的に見ると日本の対策遅れが目立つほど、海外の脱プラスチック運動は先を進み続けている。
一例を挙げると、EU(欧州連合)では2021年から食器やカトラリー、ストロー、綿棒など幅広い使い捨てプラスチック製品が使用禁止になり、イタリアでは2020年から、5mm以下のマイクロプラスチックを含む化粧品の製造及びマーケティングも禁止に。カナダでは2022年から使い捨てプラスチック(プラスチック製レジ袋、カトラリー、ストロー、マドラー、缶入り飲料を束ねるプラスチック製リングキャリア、テイクアウト容器など)の製造・輸入・販売を禁止とし、2025年までには輸出も禁止される。
アフリカのケニアは世界に先駆けて、2017年からプラスチック袋の製造・輸入・包装・使用を全面禁止とし、違反した場合は約220万~440万円もの罰金、または最長4年の懲役、もしくはその両方が科せられるという厳しい法律も導入している。
世界の最新トレンドでは、石油由来プラスチックの代替えとして広まりつつある不織布や生分解性プラスチックも、「自然に還らない」として禁止にする国も広がり、「10年前の常識は、今の非常識になる」……そんな嬉しい変革も感じられるようになった。
この約50年で、年間生産量が20倍にも増えたプラスチックは今、毎年約4億トンも生産されている。一方で、そのほとんどが適切に処理されず、1950年以降に生産したすべてのプラスチックのうち、リサイクルされたのはたった9%、残りの91%は焼却や埋め立て処分、または川や海などの環境中に流れ出てしまっている。
プラスチックは「使うのがNGというより、捨てなければいいのでは? リサイクルすればいいのでは?」という声も聞くけれど、プラスチック製品は複数の素材や添加剤が複雑に混ざっているなどの理由から、リサイクル目的で回収されたとしても実際には多くが「リサイクルされずに廃棄」されている。
そもそも、プラスチックは生産過程でも、埋め立て・焼却処分でも、運搬やリサイクルの過程でも大量のCO2を排出して温暖化を加速させ、埋め立てた場所で劣化が進むなかでも、温室効果が25倍も高いメタンガスやエチレンなどが放出されている。
埋め立てた土壌や水辺などにもプラスチックに含まれる添加剤などの有害物質が溶け出し、現地の環境や生物、人々へ被害を広げている様子を見ると、「海に流れ出なければプラスチックを使ってもいい」というわけでもないことが分かる。

環境だけでなく、最近はプラスチックによる私たちへの健康被害も次々と明らかになってきた。近年、日本で安価に売られているプラスチック製品から、国際条約で使用が禁止されている「有機臭素系難燃剤(PBDE)」などが検出されたニュースも記憶に新しい。
PBDEは、かつてカネミ油症などを招くとされ使用禁止となった「ポリ塩化ビフェニル(PCB)」に構造が似た有害物質で、環境中や生物・人間の体内に蓄積して、免疫異常や発がん性、ホルモン異常などを招く内分泌攪乱物質(環境ホルモン)の一つ。
安価な製品に限らず、食器や雑貨、おもちゃ、洋服やぬいぐるみの化学繊維などからも危険な有害物質が検出されることも。その背景の一つに、日本はプラスチックごみを大量に海外へ輸出しているけれど、それを再利用して作られる外国産の安価なプラスチック製品には、元々のプラスチックごみに含まれていた添加剤も多い上に、再利用の生産工程でさらにたくさんの添加剤が使われることなどが原因のよう。実際、そうしたリサイクル工場では作業員の健康被害も多く報告されている。
最近は海洋プラスチックごみをリサイクルして作られるアイテムも増えてきたけれど、実はそれらも同様に有害性が高い。というのも、海に流れ出たプラスチックにも添加剤がそのまま残留し続けている上に、海を漂うなかではこれまで人類が海に流してきた汚染物質もどんどん吸着していくので、毒性濃度はさらに高まっている。その濃縮倍率は海水の10万~百万倍といわれ、百万倍というと1gのプラスチックに1トン分もの汚染物質が付着していることになる。
HONEY本誌でも何度かご教授いただいた東京農工大学の高田秀重教授は、こうした海洋プラスチック汚染の危険性を長年研究している第一人者。高田教授は1998年、神奈川県の鵠沼海岸でプラスチック片を分析したところ、高濃度のPCBや環境ホルモンが吸着していることを発見し、「プラスチックが有害汚染物質の運び屋」となっていることを世界で初めて発見した。それから世界的にもさまざまな研究が進み、「環境中から回収したプラスチックごみを製品化に使うのは避けたほうがいい」というのが研究者たちの意見だそう。
もともと、プラスチック製品の生産に使われる添加剤についても、これまであまりはっきりと分かっていないまま多用されてきたけれど、近年になって「実は危険な添加剤でした」と発表されるものも続々と。たとえば、ペットボトルの蓋などに高濃度に含まれる紫外線吸収剤が、最近になって深刻な内分泌撹乱作用を持つことが分かってきたり。
添加剤はプラスチック自体を柔らかくしたり、着色剤や酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤など、たくさんの種類が使われるけれど、それらは海に流れ出ても、細かいマイクロプラスチックになっても残留し、それを小さなプランクトンや魚介類が食べると、添加剤が体内に吸収・蓄積されて、食物連鎖経由でいろんな動物や人間にも同じ被害が広がっていく。私たちは魚介類を食べて取り込む以外に、飲食でプラスチック容器を使うときでも、添加剤は熱や酸、油にさらされると溶け出しやすくなる。そうなると、油やドレッシングなどのプラ容器はもちろん、プラスチック容器包装に入った食品をレンジでチンしたり、お湯で温めたりする手軽さが人気なことも、なんだか恐ろしく思えてくる。
これだけ幅広いダメージや有害性が明らかになっていても、今後もまだまだプラスチック生産量は増え続けるといわれる一方で、「脱炭素社会」を目指すなかではこれまでのように石油由来のプラスチックが「作れない・使えない」時代になっていくという予測もある。
というのも、石油由来のプラスチックは、原油からガソリン、灯油、軽油、重油、アスファルトなどとともに取れる「ナフサ」から作られ、これまではナフサが「石油の副産物」だからこそ安価に取引されていた。
けれども脱炭素を目指すとともに石油自体のニーズが減っていけば、ナフサ自体が高価なものになり、石油由来のプラスチックや化学繊維は手軽に生産できなくなる。かといって、バイオマス・生分解性プラスチックや自然素材に代替えしても、今の生産量をまかなうためには環境や生態系がますます乱され、気候崩壊も加速させるという悪循環のループが終わることはない。
そもそも、焼却でも埋め立てでも、リサイクルでも代替え品でも、さまざまに大きな問題が残ることを考えると、「この商品は良い・あれは悪い」と優劣を作ることが解決策ではないことも分かるはず。これはプラスチックに限らずすべてに言えることだけれど、今の環境危機を前にして私たちにできることは、全体の生産・使用量自体を減らしていくこと、そして不必要に奪わず、自然に手を出さず、ありのままを守ること──。
そうして10年後の日本も、世界有数の高炭素&プラスチック大国だった今とは比べものにならないくらい、プラスチックフリー&脱炭素な社会が進んでいることを心から祈っている。

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