
気候マーチをはじめ、市民の力で地球環境を守ろうとする運動が世界中で盛んな昨今、ハーバード大学の政治学者エリカ・チェノウェス教授が発表したこんな研究結果が、大きな反響を呼んでいる。
チェノウェス教授は、20世紀に起こった数百もの市民活動と社会変革の歴史を調べたところ、賛同する人の数が3.5%に達したムーブメントの多くが成功していること、それも非暴力の平和的な活動のほうが、暴力的な活動に比べて成功率が約2倍だったというレポートを発表した。
「ある国の人口の3.5%が非暴力で立ち上がれば、社会は変わる」……そう提唱するチェノウェス教授の現代革命論はたちまち世界中で話題になり、2022年12月には日本でも、本邦初訳『市民的抵抗 非暴力が社会を変える』(エリカ・チェノウェス著、白水社)が出版され注目を集めている。
世界の歴史を振り返ると、多くの犠牲を伴う革命や戦争がたびたび起こってきたけれど、チェノウェス教授の研究では、平和な世界を願う人たちの力が3.5%でも集まれば、そのムーブメントが政治や社会を変革してきたことが統計データで証明されている。成功例には各国で起こった政権交代なども多いけれど、身近なところでいえば、気候危機や環境危機への関心が高まっている近年の「不買行動」に同じく、1900年代にアパルトヘイト時代の南アフリカで、黒人市民が白人オーナーの会社から製品を買うことをボイコットした結果、白人層が経済危機に陥った例がある。
チェノウェス教授はそうした歴史はもちろん、近年広がっている黒人差別に抗議する「Black Lives Matter」、ジェンダー差別を訴える「ウーマンズ・マーチ」、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさんのストライキから広がった「エクスティンクション・レベリオン」にも同じ傾向を重ねているのだそう。
「エクスティンクション・レベリオン」とは、人間活動が招いた気候崩壊、動物たちへの負荷、大量絶滅や瀕死の生態系に対する対策の欠如……そうしたことに抗議する非暴力な市民運動のこと。
HONEY Vol.32「NO Earth, NO Us」などでもお伝えしたとおり、世界の気温上昇や海の水温上昇が止まらない今、未来の子どもたちが美しい日本で、地球で、穏やかに暮らせないリスクのほうが高まってきている。
といっても日本でこうしたことを気にかける人は、海外に比べてまだ少数派ではあるけれど、初めて「3.5%の法則」を知ったとき、「たった3.5%で?」と驚きながらも大きな勇気をもらえた気がした。
この法則でいえば、100人中100人の共感を得られなくても、まずは100人中3~4人が、日本の総人口のうち約420万人が思いを共にできれば、未来を守れる確率が高くなるということ。
420万人が多いのか少ないのかは分からないけれど、それでも3.5%ルールを知っているだけで、「まずは身近な数人からでも共感し合えれば、そこから何かの化学反応が連鎖していくことだって大いにあり得るような希望も湧いてくる。
環境問題に関心がある人のなかには、周りの共感を得られなかったり、逆に周りの無関心が気になってモヤモヤしたり、いろんな悩みや葛藤を感じる人もきっと多いはず。
けれども、自分も昔は何も知らなかったように、その人も何も知らないのかもしれないし、知っていても何も感じないのかもしれない。
問題を知ってどう在りたいかは一人ひとりの自由だから、まずは気の合う人たちと「海へのダメージ、減らしたいね」と語り合ったり、そのためにできることを続けたり。
そこでは誰かの模範解答やモデルを真似するよりも、自分自身で考えてみることが何よりいちばん大切なこと。
今は昔に比べればずいぶんと環境意識は高まってきたけれど、今度はここぞとばかりに自然素材や環境配慮を謳うアイテムが続々と誕生して、一部のメリットだけが誇大にPRされる社会。
けれども、それらのライフサイクル全体の環境負荷を見てみると、地球へのネガティブインパクトのほうが圧倒的に大きくて、これでは解決に至らないどころかますますマイナスになっているという矛盾。
そこに気づいた人たちも今はずいぶん増えてきて、海外では厳しい規制と監視が進み始めているけれど、そうして真の解決を目指す人が3.5%を超えていければ、そのマイノリティが何かの上昇気流を作っていけるのかもしれない。
これまでにもたくさんのピースフルな少数派が社会をパワフルに動かしていったように、本当の意味での愛あるムーブメントが未来を守っていけることを信じて、できることを粛々と重ねていきたい。
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