
地球が誇れる自然の摂理は、決して海や川、山々にだけ働いているわけじゃない。
都会の真ん中でも生態系はたしかに巡り、デザイン次第で自然も暮らしもより豊かに。
そんな都市型アーバンパーマカルチャーも世界に広がり、地球の一隅を照らし続けている。
自然に感動できる日常を大都会でデザインする
約50年前に南太平洋タスマニアで芽吹いた小さな種、それが世界各地に運ばれ、美しい花々や実りを広く豊かに繋いでいるパーマカルチャー。
そこには自然という大いなる師に学ぶデザインの法則はあっても、どこでどう実践するかのルールはない。大自然の麓はもちろん、中東ヨルダンでは砂漠を緑化するために用いられ、カリブ海のハイチ共和国では大地震のあと、パーマカルチャーの力で社会や生態系を再生させ、キューバの首都ハバナでは屋上やテラスに作物を植え、コンポスト肥料を作るなど、アーバンパーマカルチャーが食料危機を救ったこともある。
「パーマカルチャーは自分の置かれた場所で、いかに豊かさを創造できるかが大前提。もちろん田舎で畑を持って鶏を飼って池や水田も作って、というスタイルもあれば、都会には都会の楽しみ方がある。
アメリカ・シアトルにある都市ポートランドは、パーマカルチャーをベースに環境や社会がデザインされ、行政や法律も動かすほど盛んな先進地の一つ。ストリートには多種多様な果樹が植えられ、誰でも自由にもぎ取って、採れたてフルーツを頬張りながら通勤する風景が日常なんだよ」

そんな楽園都市を日本でも広めようと、2011年から「東京アーバンパーマカルチャー」を主宰する、ソーヤー海さん。米カリフォルニア州立大学の学生だった2001年から反戦・社会・環境活動などに尽力していた彼が、パーマカルチャーと出合ったのは同大学の講師をしていた2007年のこと。
「有機農業の探究も兼ねて、水道も電気もないコスタリカのジャングルに移り住んだんだけど、そこでは人ではなく動植物との関係性の中で、自分はただ生態系の一員でしかないことを強く実感させられ、未体験の感動や発見に溢れた最高の毎日だった。そこでパーマカルチャーの本に出合って、自然をつぶさに観察して導き出された知恵の数々にたちまち引き込まれたんだ。
ニカラグアやアメリカ西海岸のパーマカルチャー農園で数年間研修していたときは至る所に植物や果樹が植えられ、絶品フルーツが雨のように降ってくる。
仕事をしながら、休憩がてら、有機で育った完熟フルーツを食べ放題! とにかく自由で楽しくてクリエイティブで、豊富すぎる食べ物や水に囲まれて……そうなると『生きているだけで幸せ、地球ってなんて最高な場所なんだ!』って毎日地球に感動するばかり。
休日だけ自然と繋がるイベントにするんじゃなくて、デザイン次第で日常にこんな豊かな世界を作れて自然の一部である喜びを感じられる、それが僕の惹かれたパーマカルチャーの世界観なんだ」
自然に感動して生きる、それは都会では難しそうと思いきや、自然の精妙なデザインを再現するパーマカルチャーの魔法にかかれば、都会でいくらでも生物多様性の高いガーデンは作れる。海さんは東京の空き地や河川敷に種を蒔き植物を茂らせ、表参道にも屋上ガーデンを、現在は政治の中枢でもある永田町に屋上菜園を作るなど、生態系を豊かにする実践モデルを次々と体現している。
「パーマカルチャーには“Problem is the Solution”(問題の中に解決法がある)という理念があって、問題の多い都会こそ丁寧に観察し、パーマカルチャーの手法を取り入れれば解決策や可能性に生まれ変われる宝庫。
政治や経済、消費の中枢である東京が1%でも変われば、その影響力は膨大だと感じたんだ。コンクリートも太陽光を蓄熱する特徴を活かせば熱帯植物が冬越しできたり、ヒートアイランドも症状としては問題だけど、パーマカルチャーは起きている現象も活かそうって考える。
実際、スーパーで買ったパパイヤの種を植え、南の壁際で元気に育てている人もいれば、逆に環境や条件が合わないと枯れてしまう。
適材適所を見極め、生態系に根ざしたデザインを施し、生命がイキイキできる流れをうまく作ってあげればいい。人もそれぞれ適切な環境にいれば自分を活かし合えてみんなが幸せに過ごせるけど、心地悪い環境を作ってしまうと心身はどんどん病んでいくよね。
自然も人も、どうしたらみんながイキイキと豊かに暮らせるか、そのために何をどうデザインするか。パーマカルチャー=農業のイメージが大きいけど、実は生き方や在り方のデザイン指針でもあるんだよ」
それぞれの存在価値と個性を活かし合えれば、豊かさは自ずと循環していく。パーマカルチャーはそんな真理もそっと諭してくれるような、そこに自分も少し手を差し伸べてみたら、小さくても生態系がイキイキと巡り始めるんだと思うと、TRYしてみない理由は見当たらない。
「買ってきた野菜や果物の種を植えてみるだけでも、芽が出て実がなって食べられるんだよ! 今の資本主義経済って地球や人々から搾取し続ける『減る経済』だけど、自然界は『増える経済』だから種を一粒植えただけで何百、何千と恵みが増えていく。
森だって最初は小さな種から少しずつ仲間が集まって茂みができて、木々や多様性が広がっていく、それが自然のリズム。だからいきなり田舎暮らしや自給自足を目指さなくても小さなステップから始めて、力まず楽しく続けていたらいつのまにかいろんな食べ物が自給できて、地球の神秘に感動する日々。
気がついたら心はゆとりや安心感に満たされた、健やかで幸せな暮らし……そんな気楽さも魅力なんだよね」
【保存版】パーマカルチャーとは何か!?|基本の4原則と共に解説(前編)

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