
大いなる自然が紡ぎ繋いできた愛と豊かさのエッセンスを、地球に、日常に、心に取り戻すための“パーマカルチャー”という暮らし方。国内唯一の拠点、パーマカルチャーセンタージャパンの代表を務める設楽さんに、概念やそのベースとなる原則を聞いた。
自然と人との関係性を学び直し、共創する喜び
これまでの暮らしでも自分なりに地球を思いやってきたつもりだけれど、パーマカルチャーの世界に触れたとたん、自然との向き合い方がまるっきりと言えるほどに一変した。
目に映る景色とその解像度、生き物たちの印象、当然そうだろうと思い込んできた常識や解釈……それらはことごとくリセットされて、地球を豊かに巡らせるたおやかな流れにドボンと飛び込み、自然とは、人間とは、人が在るべき姿とは、をゼロから学び直すような感覚。
モノや利益ばかりを追いかける物質文明では、自然の機微に心を傾ける時間は省かれ、「自然と共存」「持続可能性」といったワードも薄っぺらく飛び交う時代。それでも、人間の理解なんて及ばないほど壮大なスケールと精妙さで、寸分の狂いもなく巡りゆく地球。

パーマカルチャーはそんな自然のふるまいに触れ、学び、深く寄り添う暮らし。ここからまた、地球に恋をし直す旅が始まるような、そんな静かな興奮にも包まれた。
現代の暮らしは隅々にまで環境破壊の種が潜み、地球は今、壊滅への一途を辿っている。そんななかパーマカルチャーは人間活動が自然破壊や汚染を重ねるのではなく、自然がより豊かになれるように関わっていく暮らし方。
一般的な農業やガーデニングと違い、生物多様性を高める環境や循環などの仕組みが科学的にデザインされ、たくさんの生命がイキイキと宿り巡るようすはまさにマジックのよう。
具体的には植物や動物の育て方、相性、気象や地形なども丁寧に読み解き、スパイラルガーデンやキーホールガーデンのような円形菜園、大地再生や土づくり、コンポスト堆肥、エネルギー循環などの手法が活かされる。
Permanent(永続性)+Agriculture(農業)+Culture(文化)の語源から連想される「永続可能な農的ライフ」はもちろんのこと、自分の心と体、ライフスタイル、経済・文化・教育などを含めた社会全体をより良く調和させていけるエッセンスでもある。

自然回帰への道筋を照らすパーマカルチャー
パーマカルチャーは1978年、当時からすでに急速に広まっていた自然破壊への解決策を探るため、オーストラリア・タスマニア大学のビル・モリソンとデビット・ホルムグレンによって提唱された。
地球を崩壊させる経済システムからの卒業、化学物質や化石燃料に頼らない社会への転換、そして自然回帰への道筋を照らすパーマカルチャーは、オーストラリアから世界各地に広まり、その波はやがて日本にも届く。今から26年前の1996年、神奈川県に国内唯一の拠点、パーマカルチャーセンタージャパンが創設。代表の設楽清和さんは日本のパーマカルチャー第一人者として活動を始めた。
「私は’90年代に米ジョージア大学で環境人類学を学んでいたときにパーマカルチャーと出合ったんですが、世界を旅するなかで、自然の美しさとは対極に環境破壊や人々の格差など、世界の矛盾も強く感じていて。人間には優れた能力がありながら自
然を破壊してしまう、現代人が失ってしまった心や文化などを探究したかったのが原点なんです」

パーマカルチャーは後述の4原則をはじめ、「Work with nature, notagainst(自然と闘うのではなく共生しよう)「Everything Gardens(すべての生き物には適した生き方がある)」など、設楽さんも探究テーマとしていた自然と人との関わりも学びが深い。
デザインの原則も、自分の思いを一方的に押し付けるのではなく、あくまでも自然を謙虚に観察し、何がどう関係し合っているのかを感じ取ることから始まる。
「今は例えば、雑木林だった森を杉やヒノキばかりの人工林に変えて本来のバランスを崩したり、自然を追い込み破壊するようなデザインが多い現代ですが、本来あらゆる存在にはそれぞれたくさんの能力や役目があり、それを発揮するには適切な環境が必要です。
パーマカルチャーはそれを見極め、環境も生物もWin-Winに活かし合える関係性をデザインします。でもそれはもともと自然が自ら行っている仕組みであり、自然界は人智を超えたメカニズム。なのでこちらがいかに『自然の意図』を読み込み、人の施したものが邪魔をすることなく自然と一体化していけるかが大切。
そうして自然と共同創造する楽しさや学びの深さがパーマカルチャーの魅力かと思います」
パーマカルチャー4原則
#01_循環性
自然界の永続的な営みに欠かせない「循環性」。それはたとえば光合成と呼吸で出入りする、酸素と二酸化炭素のやりとりのように、繰り返すなかで何も消えるものがないバランス状態。自然界は常にインプットとアウトプットが完全イコール、ゴミも環境負荷もなく、足りないものもない。すべてが何かの資源として活かされ回り続ける。パーマカルチャーもすでにある資源を有効活用して循環させるデザインを暮らしの中に落とし込む。
#02_多重性
「多重性」も自然が豊かに安定して持続してきた特徴の一つ。パーマカルチャーでは上から高木、中低木、草類、地衣類、根菜類など「空間の多重性」をデザインし、植物の棲み分けと共生を再現。季節によって一つの環境で違う作物を作る「時間の多重性」、そして例えば鶏を飼うと卵を産むだけでなく畑の虫や草を食べ、土を耕し肥やすように、あらゆる生物が持ち合わせる「機能の多重性」も活かし合い、豊かさを引き出してく。
#03_多様性
自然界が永続的に、より豊かになっていくための「多様性」。これは多様な種が共存するだけでなく、パーマカルチャーでは存在するすべての生物が持つ機能を理解し、それを最大限に活かせる多彩な環境を創り出す。お互いが相乗効果を生み出せる組み合わせを考え、例えば土と石のような異なる環境が接するエッジを作り、より多様な生物が集まる環境に。人間の知恵を活かすことで、こうしたエッジに豊かな生物相を編み出していく。
#04_合理性
より豊かな生態系を育みながら、「合理性」を考えて人間の手間も省く。一つはゾーニングといい、家を中心とする第1ゾーン、第2に菜園、第3に果樹園、人間が立ち入らず自然のままを残す第5ゾーンと区分け。コンパニオンプランツやコンパニオンアニマルのような自然の共生関係も利用。生育を促進するトマト×バジル、病害虫を防ぐマリーゴールドやネギ、窒素を固定し土壌を豊かにするマメ科などを組み合わせ、好循環を育む。
パーマカルチャーに学ぶ、地球を豊かにするマインドセット(前編)

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