気候崩壊の今、この数年で未来が決まるとしたら|地球の今、海の今を知る Vol.73


今年も例年より早い春の訪れを感じながら、桜の開花と満開日が全国各地で過去最早を記録した2023年3月。1ヶ月の平均気温が平年より+3℃以上というところも多く、36の都道府県で観測史上最高を更新したそうです。
そんな3月は環境問題に関する大きな動きもいくつかあり、そのうちの一つ、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が最新の科学的知見をまとめた「第6次評価統合報告書(AR6)」を発表し、気候危機の厳しい現状と警鐘が世界に伝えられました(※1)。
特に印象的だったのは、「持続可能な未来のための窓は、急速に閉ざされている」として、人為的な気候変動が世界中のすべての地域で気象と気候に極端な悪影響を与えていること、そして「この数年間が重要な分岐点」となり、これまで以上に緊急かつ大幅な、広範囲な変革が不可欠であること。グテーレス事務総長は「気候の時限爆弾の時計は刻々と進んでいる」とメッセージを添え、ここから数年の選択が、破滅的な未来を回避できるかどうかを左右するだろうと強調されていました。

IPCC報告書についてはHONEY本誌や今連載でもたびたび紹介してきましたが、なかでも衝撃的なのは、産業革命以降の1850~2019年、この170年間に排出されたすべての温室効果ガスのうち、半分近くは1990~2019年の「30年間で集中的に排出」されたこと、そして2010~2019年までの10年間は年平均排出量が「過去最高」を記録していること(※2)。
それでも現在進行形で、産業、エネルギー、輸送、農業、建物からの温室効果ガス排出量が「まだまだ増加の一途」だということも、衝撃といえば衝撃の事実です。
2015年頃からSDGsなどが謳われ始めて8年が経ちますが、いくら聞こえのいい言葉で環境配慮をアピールしていても、地球へのネガティブインパクトをまだまだ大きくしている真っ最中という矛盾……。
そうこうしている今も地球の大気と海洋、雪氷圏、生物圏の幅広い範囲には急速な変化が広がり続けていて、その多くは過去に発表されたIPCC報告書の予測を上回る速さで進んでいるそうです。このままでは+1.5℃はおろか、+2℃も超えてしまうだろうとされますが、+2℃とは海のサンゴ礁が99%以上も失われてしまう世界のこと……。そうして今世紀末には、最大+3.4℃も気温が上昇してしまうと予測されています。

気象の変化だけでなく、サーフィンやいろいろなマリンスポーツを楽しんでいるみなさんは、海の異変についても何かしら感じている方もきっと多いと思います。科学に疎い私でも、何十年スパンで明らかに感じる水温上昇、消えてゆくサンゴ礁や海藻の森、生き物たちの変化を目の当たりにしてきましたが、実際に「過去30年間の平均値」と「今の海面水温」を比較したデータを見てみると、その変化は一目瞭然でした。

日本近海の海面水温平年差分布図
「1991~2020年の30年間の平均値」と「2023年3月の平均値」の差を示している(気象庁ホームページより、2023年3月31日気象庁発表)

もちろん夏にはもっと顕著に広い海域で上昇傾向が見られ、季節が変われば水温変化や分布のようすは変わるのであくまでも一例ですが、3月の日本近海だけを見ても広範囲で海面水温が上昇しているなか、赤色の濃いエリアは過去30年間の平均値より+3~6℃も高くなっています。
専門家の話では、海に暮らす生き物たちにとって、海水温が+1℃上昇=陸上の人間にとって+5~10℃と同じくらいのダメージになるそうで、となると単純計算で考えても、海水温が+3℃=陸上の+15~30℃、海水温が+5℃=陸上の+25~50℃にも匹敵する異変が起こっているということに。
そこでは海洋生態系の乱れはもちろんのこと、海産物の漁獲量も10年前と比べて半減、または1/3以下にまで減少した魚種も少なくありません。海水温の上昇によって、日本の海では海藻の森が消えて砂漠化してしまう磯焼けや、赤潮の被害も増えていて、酸欠の海や死の海も各地で広がっているようす。

こうした異変は決して今に始まったことではなく、何十年も前から海はたくさんのサインを送ってきてくれていました。温暖化によるダメージだけでも数えきれないのに、それすらも環境危機のほんの一部分にすぎなくて、まるでモグラ叩きかドミノ倒しかのように次々と症状が表面化、そうして海の悲鳴は年々大きくなるばかり……。
けれども、昔も今もそれを声にしてみたところで、人間中心&消費万歳な社会ではたちまち喧騒にかき消されてしまって、「まぁ、世の中そんなもんか」と、だいぶ遠目からクールに眺めてみたり。
一方で、最終警告のようにも感じる今報告書のメッセージが多くの人に届いて、その先のどこかで今の環境崩壊がV字回復に転じてくれたら嬉しいなと、祈る気持ちも持ち続けていたい。とはいえ、これから地球がどうなっていくのか、その流れには誰も抗えない、人間にだけ都合よくどうこうできる領域ではないこともわきまえながら、それでもできることがあるとすれば何だろうと、私なりのシフトをブラッシュアップしてみているところです。

▶︎資料1
IPCC 第6次評価報告書 統合報告書 サマリー解説資料(国立環境研究所、2023年3月)

▶︎資料2
IPCC 第6次評価報告書 特別報告書(環境省、2021年3月)


▲上に戻る


あなたにとって、本当の幸せとはなんですか?|地球の今、海の今を知る Vol.72

子供のころから、ミヒャエル・エンデの名作『はてしない物語』をもとにした、『ネバーエンディング・ストーリー』の映画が大好きでした。内容はもちろん、日本語吹き替えのセリフまで覚えてしまったくらい何度も観ているのに、それでも観るたびにもれなく、ファンタージェンを救う勇敢な戦士アトレイユとアルタクスの冒険にどっぷり感情移入して、毎回一緒になって泣いたり笑ったり勇気をふりしぼったり。

破壊と調和を繰り返す、地球のサイクル|地球の今、海の今を知る Vol.71

私たちってほんとうは、想像もつかないくらいに壮大な宇宙の神秘に生かされているけれど、その真理をすっかり忘れて、物質文明の発展と環境破壊を広げてきた現代人……Vol.69Vol.70では続けてそんな話に触れてきました。

「無為自然」という、地球へのリスペクト|地球の今、海の今を知る Vol.70

海が地球にとってかけがえのない生命のゆりかごであるように、陸の大地もまた驚くべき生命の宝庫で、スプーン1杯の土を掬い上げただけでも、その中には1万種、100億以上もの微生物が息づいているそうです。

SHARE