
夕暮れの太陽を海の向こうに見送ったあと、広がる夜空には当たり前のように月や星々が煌めいて、エレガントな月の優しさにふっと肩の力が緩んだり、昇りたての大きな満月を見かけたときには思わず立ち尽くして、圧倒的な存在感と神秘的なオレンジの光にうっとり見惚れたり。海は月の引力に導かれて潮汐のリズムを刻み、満月と新月の大潮まわりには海流も生き物たちもひときわエネルギッシュな様相で、私たちもどことなく胸騒ぎを感じるような……。そうして月は地球のまわりをくるくると回り、いつも当たり前のように私たちを見守ってくれるけれど、もしも月がなかったら、これほど美しい地球は存在していない、そして地球上に私たちのような生命が誕生することもなかったそうです。
というのも、月の引力は潮の満ち引きだけでなく、地球の自転に適度なブレーキをかける役目もあり、もしも月の力が無かったら地球はブレーキが外れたように高速回転してしまうから。そうなると1日は24時間ではなく8時間で一周、1年は1095日、と今より3倍速で自転しながら、その地表は強風が吹き荒れ、どこもかしこも嵐で大荒れ状態に。太陽にしても今より遠く離れていれば地球は氷の惑星に、少しでも近ければ灼熱の星になっていたそうで、今これほど美しい自然と豊かな生命が育まれる地球が存在できるのは、月や太陽が絶妙なバランスで寄り添ってくれるから。そう聞くと、いつもそこに在る月と太陽もますます愛おしく、有り難く感じられてきます。

そんな宇宙の理は天体にだけ働いているわけではなく、万物すべてに平等に、もちろん私たちが今ここに存在することもまぎれもなく「宇宙の摂理」そのものです。考えてみると天体も私たちの身体も、どれも自分で作って自分で動かしているわけでもなく、自分で内臓を動かして、自分で赤血球や白血球を作っているわけでもない。私が自分で「よし、心臓を動かそう、今から消化しよう、代謝しよう、手動でポンプを動かしてここに血液と栄養を届けよう、老廃物を流そう、今このホルモンを出そう!」なんて意図的にコントロールしているわけでもありません。すべては精妙な仕組みでオートマティックに、大いなる力によって生命活動を休むことなく行ってくれている。前回のVol.68でも触れたように、そこでは「自分」という肌を一枚隔てた境界線があるわけでもなく、自然の一部として生命の環を循環し合いながら、今ここの私が「生かされている」わけです。
少し余談ですが、以前フリーダイビングのトレーニングを受けたとき、水中で長く息を止めるスタティック・アプネアの練習中、コーチからこんなアドバイスをもらったことがあります。
「生まれてきてから今まで、一瞬の休みもなくずっとずっと動いてくれている肺に、『いつも私のために働き続けてくれてありがとう。今から少し息を止めるから、私の肺さん、ちょっとだけお休みしていてね』と思いながらやってみて!」と。
自分の肺にはもちろんのこと、身体に対してそんな思いやりを届けたことがなかった私は、その言葉に至極感動しながらさっそくトライしました。すると、スタティックはほぼ初めてだったもののいきなり4分近い記録が出てしまい(笑)、それからというもの身体への感謝を意識するようになった忘れられない体験でもありました。
もちろん肺呼吸だけではなく、私たちすべての生命活動も、月の引力も太陽の恩恵も、地球を地球たらしめる美しい自然の営みも、そこに海があることも、波や潮の満ち引きにリズムがあることも……宇宙のあらゆる星々がそうであるように、すべては人智をはるかに超えた宇宙の秩序が織りなす一端で、ほんとうは人が手を出すことすらも畏れ多いこと。

けれども、近代の人々は何かを大きく勘違いして、そこに無理やり入り込んでは奪ったり邪魔をしたりあれこれいじったり、壊したり汚したり流れを堰き止めたりして地球のバランスを崩しながら、たくさんの負の遺産を後世に手渡すことにもなりました。未来がどうなるかは分からないけれど、それでも地球自体は何千年、何億年か後には今とはすっかり変わっているのかもしれない。何十億年か後には天の川銀河とアンドロメダ銀河が衝突して、地球という星も消滅するときがくると言われていますが、それもまた逆らうことのできない宇宙の流れ。そう思うと、今この地球にこうして生きていられることにますます感謝と感動が溢れてきたりもして。
今回はなかなか壮大なテーマとなりましたが、ほんとうはそのくらい、頭では理解の及ばない大いなる神秘のもとで、私たちも生かされている……その真理に立ち還ってみると、地球や環境問題との向き合い方、ひいては人生観までもがガラリと変わる、何かのきっかけに出合えるかもしれません。
環境問題が「他人事」ではない理由|地球の今、海の今を知る Vol.68

地球を「わたしサイズ」で感じてみると|地球の今、海の今を知る Vol.67

「自然が好き」と「自然を愛する」は似て非なるもの|地球の今、海の今を知る Vol.66

コメントを投稿するにはログインしてください。