Wetsuits Upcycling Project/廃棄のウェットスーツがバッグに変身するまで

レジェンドサーファー「カシア・ミドー」、ブランドディレクター「パスカル・マリエ・デマレ」、スタイリスト「水嶋和恵」。想いの通じた3人がタッグを組み、廃棄になる古いウェットスーツを愛犬用バッグへとアップサイクルさせる情熱的なプロジェクトが始動した。


クリエイティブな発想で地球を良くしよう。小さな想いを、みんなでカタチに

このプロジェクトの発起人は、HONEYでもお馴染みのスタイリスト、水嶋和恵さん。海と自然とサーフィンを愛し、ファッションを通じてサステイナビリティを発信する人物。コロナが蔓延し出した数年前から「HONEYの読者に何かポジティブでサステイナブルなバイブスを届けたい」という考えが湧き上がっていた。ファッション業界がCO2排出を増大させているという事実を前に、ファッションに携わっている身として何かできないかという想い、かつ大好きな海やサーフィンにも関係するプロジェクトを立ち上げたい。仲の良いパスカル・マリエ・デマレさんに相談してみると「使い終わったウェットスーツをアップサイクルできる」と提案してくれた。アメリカと日本を行き来する生活をしていた水嶋さんは、すぐさまウェットスーツの提供者として大好きなカリフォルニアのサーファーに声をかける。ロングボード界のカリスマ、カシア・ミドーだった。水嶋さんは以前からマリエさんとカシアがどこか似ている気がしていたと言う。「プロサーファーとして成功し、スポンサーにも恵まれていたカシアはある時思い立ったかのように、ほとんどのスポンサーシップを解消しオリジナルのウェットスーツブランド『Kassia+Surf』をスタートしました。マリエちゃんもあれだけメディアで活躍していた中で、ファッションの勉強をするために突然NYに旅立って。そして今は2人とも、地球と人に優しい活動をしています。波動が合う気がしていたんです」。話を聞いたカシアは、二つ返事でOKを出した。企画者は水嶋和恵、ウェットスーツはカシア・ミドー、製作者はパスカル・マリエ。役者が揃った。

このプロジェクトについてカシアにも聞いてみた。「まるでマーメイドのようなカズエが家に現れて、このマジカルなプロジェクトの話を提案してくれたんです。古い物をコラボレーションによりアップサイクルして、新しい物に生まれ変わらせるという素晴らしい機会。創造、クリエイティビティ、共創。すべての要素に参加できるのはとても嬉しいし、ビジネスとしても人間としても意識的に前進できると思います。誰かと一緒に何かをすると、できることが増えるんです」。そう語ってくれた。カシアの古くなったウェットスーツはカリフォルニアから海を渡り、日本にいるマリエさんのもとに届いた。

愛犬家であるマリエさんがアップサイクルアイテムとして考えたのは、海でも使える犬の散歩用バッグ。ウェットスーツなので多少濡れても平気というところと、3人の共通点が海だったため、その発想は自然な流れだった。海が好きな犬たちは、ビーチに到着した瞬間に車からすぐ飛び出してしまうことがある。咄嗟にリードを忘れがちな飼い主さんのため、バッグの持ち手にはこちらもアップサイクルのリードを採用。金具とバッグ本体をつなぐオレンジ色の紐の部分は、強度が強いパラシュートの接続パーツを使っている。実は、パラシュートは安全性の問題から数回使っただけで装備が廃棄されてしまうことがあるという。それを解体しエコバッグを作っている工場へと出向き、そこですら捨てられる部分をマリエさんが引き取ったものだった。

マリエさんは、ウェットスーツの素材、ネオプレーン独特のフォルムが活きる形にこだわった。プロダクトの魅力にもなっているパッチワークだが、継ぎ目を出さずバッグの丸みをキープしたい。この、素材を縫い合わせる作業が特に難しかったと言う。技術とセンスが結びつき、もちろんすべてハンドメイドで仕上がった。カシアのロックでヒッピーなイメージを出すためにフリンジをつけたり、Kassia+Surf のマークをワンポイントに使ったりと、無駄をなくすだけでなく、デザイン性と想いもしっかりのせた。この作業で余った素材の切れ端は、また別のカタチで何かにアップサイクルしたいとも言う

こうしてカシアの古ウェットスーツは、ストーリーが何層にも分厚く重ねられた、意味の深いバッグに生まれ変わった。マリエさんはこう話す。「自然相手のスポーツに使われるアイテムって、サーフィンしかりパラシュートしかり、機能的で大切だけど、きちんと循環させないと意味がないと思うんです。使い終わったらさようならってするのは簡単。でもそうやってゴミを増やすことで自然を壊してしまったら、結局自分たちの遊び場がなくなってしまうわけですよね。自然のスポーツで恩恵を受けている分責任も必ずついてくるので、一人ひとりが後処理をどうするかのバランスも考えてほしいと思います」。マリエさんは今後このプロダクトを販売し、動物愛護などの活動費に活かすことも考えているそうだ。

カシアが話していたように、ひとりではできることが限られていても、こうやって仲間と協力することで可能性は何倍にも膨れ上がる。これは決してクリエイティブで有名な3人だから特別実現したことではないと思う。私たちが等しく感じている地球、動物、人に優しくありたいと想う気持ちとアイデア、少しの行動力さえあれば誰でも叶えられることなのだ。

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