「本来の蘇生力を取り戻せるように」|地球の今、海の今を知るVol.03


海に同じ波がひとつとしてないように、私たちの毎日も、二度とない瞬間を重ねながら、そこにはいろんな笑顔があって、いろんな涙があって、いろんな考えや感情が湧いては通り過ぎて……。けれど今日がどんな日であっても、1日1日はわたしという人生のストーリーを彩る1ページ、そんな毎日をいつも無条件に支えてくれるのは、大いなる自然の存在です。
「エコロジカル・フットプリント」という言葉を聞いたことがあるでしょうか? これは私たちの毎日に欠かせない食事やエネルギー利用、モノの消費や移動など、日常を支える自然資源や環境負荷を分かりやすく数値化したものです。直訳すると「地球の自然生態系を踏みつけてしまった足跡」のこと。これによると、いま私たちは世界平均で地球1.7個分の暮らしを送り、日本と同じ暮らしを世界全体で送るとするなら、地球2.8個分が必要になるそうです。ちなみに2010年は世界平均で地球1.5個分、日本は2.3個分だったので、環境負荷が年々大きくなっているのが分かります。同じ環境指数をもとに、1年間で使える地球資源の上限を越えてしまう日を「アース・オーバーシュート・デー」として発表されますが、2020年は世界平均ですでに、8月22日で1年分の上限をオーバー。もちろん経済先進国ほどCO2排出などの負荷は大きく資源も使い過ぎているので、日本はこれより3ヶ月以上も早く、5月12日に上限を越えました。すでに1970年代から環境負荷のオーバーシュートが始まっていたそうですが、裕福な人々だけが楽しければそれでいい、そんな社会の裏側で枯渇していく資源、後世に残したい美しい地球の姿はどんどんと減り続けています。

2020年は人々の意識が大きく変わったこともあり、こうした社会体制を変えていこうと、欧州を中心に新しいグレートシフトも起こってきています。その一つが、コロナ前の暮らしにそのまま戻るのではなく、アフターコロナは前よりもっとベターな世界へ、脱炭素社会の実現や、環境・生態系を守りながら暮らせる「グリーンリカバリー(緑の回復)」を目指そうというムーブメントです。その思いは、人も生き物も環境もすべてが共存共栄できるように、そして何より、地球が本来持っている「たくましい回復力」を取り戻せるように。

手つかずの海が魅せる圧倒的な豊かさも、人の手で壊れゆく海も、バランスを崩した生態系も、人からの影響を離れて蘇った海も、私自身この20年近くさまざまな海の姿を見てきました。そのなかでは、自然界は人間があれこれ過剰に手を出していい領域ではないと感じるばかりで、人が救いの手を差し出すことすらも傲慢でおこがましいのかもしれない、と思うときがあります。プラスチックのように、自然には解決できない汚染は私たちにしか後始末ができませんが、人がむやみに踏み込まず、取り過ぎていた資源を守って、害あるものを環境に流さないことで力強く息を吹き返した海もあります。今はそんなふうにしてもっと多くを原始の海に戻そうと、2030年までに地球の海の3分の1以上を海洋保護区にしようという提案も上がってきています。そう思うと、本当に地球のためを考えたときには、少しでも早く、行き過ぎた破壊や奪い合いのない世界になって、地球が本来の蘇生力を取り戻せるよう導くのが一番かもしれない。サステイナブルなあれもこれもを複雑に付け足していくよりずっとシンプルに、私たちはただただ、毎日の恵みに心からのありがとうを伝えて、今あるものを大切にして、適切な距離感で、敬いながら自然を見守る……それだけでも地球はじゅうぶんに癒されていくんじゃないかなと、そんな気もしています。

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