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NO EARTH, NO US 地球とわたしに「もっといいこと」Vol.2

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連載企画「No Earth, No Us」は、海洋プラスチック問題について取り上げています。「今この瞬間も毎分トラック1台分、 約15トンものプラスチックが海に流れ出していて、今日もどこかで愛しい海の仲間たちが犠牲になり、私たちも知らずに 摂取し続けている」。衝撃的な内容も多いが現実から目を逸らさず、出来ることから行動に移したい。第2回目は、環境活動家であり、日本初のプラスチックフリー専門店「エコストア パパラギ」を主宰する武本匡弘さんのインタビューをお届けします。


地球もわたしも苦しめるプラスチックは、もういらない!
何もしないでいるには遅すぎる……そう感じてやまないプラスチック汚染。変化が著しいこの数十年、「海から見る地球」と向き合ってきたストーリーとともに紐解いてみたい。


ビーチは紫外線や波などで、特にプラスチックが劣化しやすい場所。2020年は、使い捨てマスクや手袋といった「コロナごみ」も増え、海中ではクラゲのようにマスクが浮遊する風景も見られる

「当たり前の便利さ」を疑うことから始めよう
今年の初めにイギリスのとある学校で、大量のプラスチックごみを浮かべたプールで水泳の授業が行われる光景を見かけた。目的は、プラスチックだらけの海に暮らす魚たちの気持ちを、そして自分が今日出すごみと海が繋がっていることを、子供たちに理解してもらうためだそう。「こんなの嫌だ、今すぐ海に行って掃除がしたい」と口々に話す子供たち。意義深い取り組みではあるけれど、楽しいはずのプールで、子供たちにこんな授業を受けさせてしまう大人たちの責任といったら……。

酸性雨に怯えるだけでなく、今では「プラスチックの雨」が降るほど地球に蔓延したプラスチックが、人々の暮らしに浸透し始めたのはたかだか70年近く前。気づけば「使い捨て依存症」の現代ニーズを満たすために、世界のプラスチック生産量は年間4億トンを超えた。産業用プラスチックはさておき、日常はペットボトルや食品パッケージ、PCやスマホ、生活用品、家電や壁など、何から何までプラスチック。ペンや消しゴム、チューインガム、タイヤや靴底の削りカス、使い捨ての不織布マスクや生理用ナプキンだって立派なプラスチックごみ。ポリエステルやナイロンといった合成繊維の衣服やストッキング、タオルなどもファイバー状のプラスチックで、洗濯するたびに排水から海へ、最新の研究結果では合成繊維の衣服を着ているだけでも、洗濯するより多くのプラスチックを空中に放出するのだとか。他にも、水に流せるウェットティッシュ、掃除や食器洗い用のスポンジもほとんどがプラスチック製で、繊維カスが排水に。洗剤や化粧品は容器だけでなく、中身のマイクロビーズ、香料入りのマイクロカプセル、合成ポリマーといったプラスチック粒子も下水処理をすり抜けて海へ。紙コップや牛乳パック、アルミ缶なら安心かと思いきや、その内側にも多くは有害なプラスチックコーティングが施されている。

パッケージに関しては、日本は海外から「異常」と指摘されるほどの個別&過剰包装が一般的。商品を買うと何重ものプラスチックに包まれ、お弁当を開ければ容器だけでなく葉っぱ型の飾り付けまでプラスチック。お菓子袋やペットボトルは開けるだけでマイクロプラスチックが放出されるなんて、これまでどれほど巻き散らしてきたことだろう……。挙げれば切りがないほど過剰に、盲目に便利さに甘え、大きなプラスチックはもちろん、5ミリ以下の「マイクロプラスチック」、もっと極小の「ナノプラスチック」だって、毎日ゾッとするほど排出している私たち。

プラスチックとひと言に言っても、ポリ塩化ビニルやポリエチレンなど、素材自体の種類や成分は多数ある。そのうえ製品生産には可塑剤や難燃剤、着色剤など、発がん性や内分泌撹乱作用などが疑われる添加剤が多く加えられ、プラスチックの有害性はこうした危険な添加剤によるもの。それもプラスチック本体とは化学結合していないので、使うたび、熱や酸、油に晒されるたび、容器の添加剤は中身の飲食物に浸み出し、洗剤や化粧品を通して皮膚からも吸収し、すでに有害な添加剤が人体から検出されている。製品を選ぶとき、中身の成分表示はあっても、容器の成分までは素人にはまるでわからない。そんなプラスチックを安易に使い続ける私たちって、「果たして暮らしが豊かになっているのかな?」と思ってしまう。

廃棄物としても、プラスチックが地球を苦しめる罪は大きすぎる。焼却すれば気候変動や大気汚染を加速させ、埋め立てても有害物質が環境中に染み出し、世界の海には毎年1000万トン前後のプラスチックが絶えず流出している。その8割は陸地から川へ海へと運ばれたもので、海流に乗って大海原を漂流し、大半は海底に沈みゆく。その過程で形が変わり、紫外線や熱、風や波などで砕かれ劣化したとしても自然界では分解されないまま溜まり続けるのみ。海洋生物はそれを餌と間違えて食べてしまい、栄養失調や餓死、生殖異常、絡まって負傷や窒息死など、報告されるだけでも700種近い海洋生物が被害を受け、クジラやイルカといった海洋哺乳類は半数以上、ウミガメはほぼ100%。といっても亡骸の多くは海底に沈むので、報告されるよりはるかに多くが声なきままに命を落としている。おまけにプラスチックが漂うなかでは海中の汚染物質もスポンジのように吸着し、もともとの添加剤を含めた「有害物質のカクテル」となって小魚から大型生物へ、捕食されるにつれて毒素を濃縮しながら生態系全体に広がり、私たちも食物網のトップとしてそれらを受け取っている。


目に見えるプラスチックごみは海洋生物が誤飲したり絡まったり、うっかり入ってしまったり。肉眼で見えなくても、海中にはマイクロプラスチックやナノプラスチックも無数に存在し、プランクトンからクジラまで、サンゴまでもが摂食。クジラやマンタなどは海水を丸呑みしてプランクトンを捕食するのと同時に、大量のマイクロプラスチックも一緒に飲み込んでしまう


砂浜に散らばるプラスチックごみは、産卵にやってくる母カメ、孵化して海に還る赤ちゃんカメの通り道すらも妨げる

–{先進国のワガママで、海がみるみる壊れていく}–

1997年、海洋汚染研究者のチャールズ・モアが太平洋で「プラスチックごみのスープ」に気づいた頃、プロダイバーとして世界の海を巡っていた武本匡弘さんもまた、「麗しき海より、死に向かっている海のほうが多い」と感じ始めていた。
「40年以上海を見てきたなかで、最初の20年間はまさにパラダイス。海底をびっしり彩る美しい造礁サンゴが、沖縄はもちろん世界各地に広がっていました。しかし後半20年は胸を締め付けられる現象が酷くなるばかり。化学物質による水質汚染、プラスチック汚染、気候変動、サンゴ礁の死滅、生態系の衰退……今では沖縄も本島は95%、八重山諸島は70%近くもサンゴ礁が消滅。国内外とも、40年前と今とでは海中の景色も魚の様子もまるで変わってしまいました。僕は’85年からダイビング会社を経営していたんですが、’98年から環境保護を目的にNPO法人もいくつか立ち上げて、プラスチック汚染も当時から海鳥の被害が深刻だったミッドウェー島で初めて実態を目の当たりにして衝撃を受けて。でも20年前はまだプラスチックに対する世間の関心はほとんどなく、誰も振り向いてくれませんでした」

プロダイバーとして海の沿岸域は見てきたものの、太平洋の真ん中はどうなっているのかを自分の目で確かめようと、ヨットで長距離航海も経験してきた武本さんは自らヨットを操船し、日本から赤道付近のミクロネシア海域まで、約2ヶ月間の太平洋縦断航海へと出かけた。
「ここ20年は海にいても勘が狂うほど、気候そのものがおかしい。航海中も風や海流を知るための海図が当てにならず、ただならぬ異常を感じていたんですが、一番驚いたのは洋上を漂うペットボトルや漁具などプラスチックごみの多さ。他船に遭遇することもない長旅で、プラスチックだけは毎日出くわすんですよ。でも僕らが見ているのは表層のみ、多くは海底に沈降していると知り、『海をゴミ箱のようにして、人間はこれまで何をやってきたんだろう』と、得も言われぬ危機を感じました」

武本さんの言葉どおり、海洋ごみの7割以上は海底に沈むと推測され、世界最深のマリアナ海溝でも当たり前に見つかる。レジ袋など形を残すごみはもちろん、マイクロプラスチックは深海底にも膨大な量が堆積。そこに暮らす深海生物からも、合成繊維やプラスチックの添加剤などが高濃度で検出される。

現実を知るほどに奮い立つ思いを感じた武本さんは、2014年に経営者から環境活動家へと転身。1年のうち数ヶ月以上は太平洋を探査航海しながら、訪れる島々で感じるのは「裕福な国のワガママを通すために、貧しい国の誰かが犠牲になっている」という真実。
「航海中の洋上ごみはともかく、島に上陸してもビーチ一面を覆い尽くす漂着ごみ。マーシャル諸島共和国やパラオ共和国で出迎えてくれた大統領たちも、そして島の人たちも、漂流ごみや気候の異変、満潮のたびに国土が狭まり家がなくなり、自国が沈む危機感を訴えてくるんです。気候変動も汚染も、責任が大きいのは先進国なのに、被害の多くは途上国や弱者にシワ寄せがいく。最近はそんな不条理が『気候正義』として世界的に議論されるようになりました。プラスチック汚染はもう地球全体の問題ですが、日本は生産量第3位、消費量も第2位という環境破壊大国。もちろん僕は科学者でもないので学術的な調査はできないけど、40年近く自分の目で見て体感してきたこと、海で起きていることを、まずは知ってもらうことが大事だろうと、環境活動家という生き方に専念する道を選んだんです」

海洋プラスチック汚染は遠い海の問題でも他人事でも決してなく、日本近海も世界平均の約30倍も濃度が高い、マイクロプラスチックのホットスポット。武本さんは講演会などでこうした海の真実を伝えるだけでなく、もっと自分ごととして体感してもらいたいと、3年前から東京湾・相模湾でマイクロプラスチックも観察できるヨット乗船会を定期的に開催。今回はそんなクルージングも取材させてもらった。

–{身近な海や砂浜で感じる目には見えない深刻さ}–

セーリング体験会は毎回人気で、取材日も10名近く集まったゲストを乗せて東京湾の沖へ。武本さんが丁寧に風を読みながら操船し、途中で船尾からプランクトンネットを10分ほど流して引き上げると、目視でもわかるプラスチック片。さらに顕微鏡で拡大してみると、元気に動き回るプランクトンの中に、ケミカル色を放つ破片や合成繊維の数々が。
「中にはプラスチックを食べようとするプランクトンもいたり、東京湾はすでに魚よりもプラスチック片のほうが多いんじゃないかと感じるくらい。そして毎回、合成繊維の多さにも驚きます。昨年JAMSTEC(海洋研究開発機構)の研究者たちとも20日間、横浜からパラオまで調査航海をしたんですが、そこでも合成繊維の多さを科学者たちが指摘していたほど。近場でもこれほど観察できる今は、もうどこもかしこも『プラスチックスープの海』だなと……」

マイクロプラスチックの多さは、「太平洋ごみベルト」をはじめ大洋に渦巻く環流での話かと思いきや、身近な海の表層をほんの少し掬っただけで誰でも簡単に体感できてしまう。海水に限らず、武本さんは鎌倉で海岸観察会も開催していて、ビーチの砂を掬って水に入れるだけでもプラスチック片はたくさん浮かんでくると教えてくれた。砂浜や海上に散らばるのは漁具やペットボトルなどが多くても、それは目に見えるごみの話。見えないレベルでは合成繊維も多く、レジ袋などの原料となるポリエチレンも高濃度だそう。とはいえ何が多いのか、その比率や出所を競っても意味がない。どんなプラスチックも、大きなストレスであることに変わりはないのだから。

昨今はこの海を救おうと脱プラ運動が盛んな海外に習い、武本さんも昨年、神奈川県藤沢市に日本初のプラスチックフリーショップ「エコストア パパラギ」をオープンした。
「気づいたら妻がエコラップやヘチマたわしを使っていて、『あぁ、海を救えるのは、社会を変えるのは生活者なんだ!』と思ったんですよ。もちろん大量に作って捨てる『今だけ・金だけ・自分だけ』の産業構造から持続可能な経済へのパラダイムシフトも必要ですが、同時に消費者みんながプラスチックの悪影響を知って、手放していける新しい暮らし方をシェアしていけたらなと」

日本は1人あたり年間30kg以上も使い捨てているのに、何もせずにどんどん濃くなるプラスチックスープな波に乗るなんて考えたくもない。それならプラスチックは減らすとしても、今まで通りの「使い捨て」には甘えたいからと天然素材に代えたって、大量消費が結局は自然を壊してしまう。地球もわたしも、みんながハッピーになる道は「NOプラスチック、NO使い捨て」。完璧じゃなくてもいいから少しずつ手放して、そのうちに「使い捨てなんてもったいなかったな!」と感じられる自分の進化をぜひ楽しんていって。


全長16mのヨット「Velvet Moon号」に乗船


東京湾を5ノット(時速8km強)で半日セーリング


途中で採集した海水をマイクロスコープで観察。20〜80倍に拡大すると、海藻やプランクトンの中にマイクロプラスチックや合成繊維が目立つ


この帆船で総距離にして地球一周半を航海してきた武本 匡弘さん

武本 匡弘さん
北海道出身。海上保安庁に勤める両親の影響で、幼少期から海や自然環境に親しみ育つ。1985年よりダイビングショップを経営、プロダイバーとして40年以上世界の海の光と影を見つめた後、2014年に環境活動家に転身。気候変動、海洋ゴミの調査などを目的に「太平洋航海プロジェクト」を主宰。2019年には日本初のプラスチックフリー専門店「エコストア パパラギ」をオープン。各地で熱心な講演活動にも従事。