
連載企画「No Earth, No Us」は、海洋プラスチック問題について取り上げています。「今この瞬間も毎分トラック1台分、 約15トンものプラスチックが海に流れ出していて、今日もどこかで愛しい海の仲間たちが犠牲になり、私たちも知らずに 摂取し続けている」。衝撃的な内容も多いが現実から目を逸らさず、出来ることから行動に移したい。
最終回の4回目は、世界規模で調査・啓蒙活動をする国際環境NGO「グリーンピース・ジャパン」プラスチック問題担当の大舘弘昌さんに、一歩踏み込んだプラスチックのウソとホントを教えてもらった。脱プラスチックへと背中を押される、意外な盲点やありがちな誤解、日本と海外の動き、ほんとうに役立つヒントなど、ぜひ参考にしてみて。
もっと知りたい! プラスチックのウソとホント
プラスチック問題は知れば知るほど多面的で難しそうだけれど、私たちができる一番の解決策はとてもシンプルなことだった。
Q. 世界の汚染状況、今の印象は?
A. 海も陸も調べればプラスチックが出てくる今は、こうして呼吸しながらもプラスチックを吸い込んでいるかもしれず、海ではクジラなど海洋生物の被害も数えきれません。今年7月にもバングラデシュでウミガメ約160匹が打ち上げられ、大半がプラスチック製ボトルや包装、漁網などに絡まり負傷、瀕死、死傷という前代未聞の光景が。年々こうした悲惨なニュースが増えるばかりで、食卓に並ぶ魚介にも合成繊維やプラスチック片が含まれる状況です。
Q. 魚介を食べる以外にも摂取している?
A. 日常の意外なところでも、プラスチックは私たちに返ってきています。たとえば2018年、世界の食塩ブランド39品目を調べたところ、9割の食塩からマイクロプラスチックが検出されました。他にもペットボトル飲料水や水道水、合成繊維を使ったティーバッグも、熱湯に入れて飲み物を抽出すると1袋につき100億個以上ものマイクロプラスチックが放出されるという結果も。プラスチックに含まれる添加剤の健康被害も未解明だからこそ怖さを感じます。
Q. プラスチックは温暖化の原因にも?
A. プラスチック問題は実にいろんな側面があり、世界が脱プラに向かっている理由も、気候変動と深く関わっているからです。プラスチックは石油の採掘・生産・販売消費・廃棄(焼却・リサイクル・埋め立て)の全工程でCO2が大量に排出され温暖化の原因に。最近の研究では自然界に出たプラスチックが海辺や土壌などで劣化する過程で、メタンなどCO2より何十倍も温室効果のあるガスが発生することも分かり、ますます急速な脱プラ社会が求められています。
Q. ごみ貿易で途上国も苦しめている?
A. 日本は世界有数の廃プラスチック輸出国ですが、2018年に中国がごみの輸入を禁止して以降、マレーシアやインドネシアなどの東南アジア諸国へ移行したものの、十分な処理体制の整わない途上国では屋外で野焼きされ放置され、違法な埋め立てや焼却により現地の大気や環境の汚染が悪化し、現地住民が気管支炎や頭痛などに苦しんでいます。そんな現状に、マレーシア政府は「我が国は先進国のゴミ捨て場じゃない!」と訴えて送り返す動きも始めています。
Q. 日本のリサイクル率8割、はウソ!?
A. 日本のプラスチックリサイクル率80%以上の大半は、サーマルリサイクルという名目の焼却処理で、純粋なリサイクル率は約3割。世界全体でもこれまで生産されたすべてのプラスチックのうち、リサイクルされたのはたった9%。リサイクル可能=リサイクルされているとは限らず、真面目に分別しても焼却され、場合によっては輸出先の国々で環境や人々を苦しめることに加担してしまっている……。リサイクル頼りだけでは解決にならないどころか悪循環なんです。
Q. コロナの影響でプラごみが急増?
A. これも残念ですが、コロナ禍でテイクアウトや家庭用の使い捨てプラスチックの生産・消費・ごみ廃棄が増えた上、「エコバッグやリユース容器を持参するとコロナ・ウィルスが広がる危険性」というデマまで広まってしまいました。世界中の専門家がこれを否定し、素材に関係なくウィルスは付着、中でもプラスチックは最長で3日間もウィルスが生存する可能性も指摘。しっかりと洗浄すれば問題ないので、安心して脱プラを続けてもらいたいですね。
Q. 脱プラ社会、世界のトレンドは?
A. 欧州では「サーキュラーエコノミー」への変革の一部として脱プラが進み、世界的にもすでに「使い捨てプラスチックを全体的に禁止」とする国、マイクロプラスチックを含む商品を廃止にする国、リユース可能な容器を回収・洗浄する企業、包装なしで野菜を陳列できる冷蔵システムを取り入れたスーパー、電動三輪車で量り売り宅配など、使い捨てプラスチックに頼らない工夫や面白いアイデアはたくさん広がってきています。
Q. 日本は世界に比べて後進国?
A. 日本は一人あたり、世界第2位のプラスチック消費国という重い責任がありながら、脱プラや環境対策が遅れ、問題自体が悪化し続けている印象です。世界は使い捨てプラスチック製品全体を規制する中、日本は「2030年までに使い捨てプラスチックを25%削減」という不十分な目標設定で、リサイクル・廃棄処理の向上や代替素材を促すことに重きが置かれています。肝心な「使い捨てからの脱却」とは程遠く、世界にも取り残されている状況です。
Q. レジ袋の有料化も不十分?
A. 世界ではプラスチック製レジ袋を「禁止」する国が多く、お隣の韓国や中国でも禁止の動きが進んでいます。有料化は、何気なくレジ袋をもらう習慣を見直す一歩ではありますが、厚さ0.05ミリ以上、植物由来25%以上を含む生分解性プラスチックは規制対象外。いまだに大量のプラスチック生産・消費・廃棄を促す政策で、日本の対策遅れが目立つ結果に。日本も政府・企業・市民みんなが削減を目指す本質的なゴールに向かえたらいいですね。
Q. 紙やバイオマスも環境破壊に?
A. 紙製の代替品、植物由来のバイオプラスチックは解決策に見えますが、これも誤解です。紙製品を増やせば森林破壊が伴い、トウモロコシなどから作るバイオマスプラスチックも農地開拓で森林破壊や温暖化を加速させるリスクが。「環境に優しい生分解性」と謳っても石油由来を多く含むものもあり、条件が揃った施設でしか分解できません。土壌や海で自然にはなかなか分解されず、従来のプラスチック同様の環境汚染に繋がる可能性があるんです。
Q. 廃プラから作る衣類もNG?
A. 近年は廃プラスチックを再利用した衣類も流行っていますが、リサイクルしても石油由来の化学繊維なので、着用や洗濯でマイクロプラスチックを環境中に放出することになります。プラスチックは材質が複雑で、ペットボトルからペットボトル、または別のアイテムに生まれ変われたとしても品質が下がり(ダウンサイクル)、いずれは焼却か埋め立てするしかない。つまり完全に循環しないので、真のサステイナビリティとは言えないのではないでしょうか。
Q. 日常でできる真の解決策とは?
A. 前述のように、リサイクルだけに頼っても、石油由来以外の別素材へ代えたとしても本質的な解決にはなりません。ベストな道は使い捨て習慣をやめ、ゼロ・ウェイストのようなゴミを出さない心がけとともに、選りすぐりのモノを長く大切に使うこと。エコバッグでもあれこれ10個も揃えれば、レジ袋何百枚ぶんもの環境負荷が生じますからね。企業や自治体に脱プラへの要望を伝えることも大きな力になるので、ぜひ周りにも積極的に声を届けてみてください!