「プラスチックの海、これからのために」|地球の今、海の今を知るVol.06


前回、海に流れ出たプラスチックごみの行方を追うドキュメンタリー映画『プラスチックの海』をご紹介しました。現在全国の劇場で公開中ですが、今作のあるシーンに、「使い捨ては便利」とプラスチックの大量生産をアピールするような、1950年代のアメリカのCMが流れる場面があります。そうして長い間、使い捨ては「便利なもの」として生産量を急増させてきた現在、アメリカだけでもペットボトルが毎年380億本も捨てられ、歯ブラシやボールペンのようなプラスチック製の消耗品も廃棄量が数えきれず、日本では使い捨てのビニール傘だけでも年間1億本以上が捨てられています。
そんな使い捨て社会からはるか遠く流れ着いた美しい海辺では、海鳥たちが胃袋に200個以上ものプラスチック片を溜め込んでいて、その量を人間の体で換算すると、私たちの胃袋に6~8kgものプラスチックごみを溜め込んでいるのと同じになるといいます。自分のお腹に8kgものプラスチックごみがあるなんて、想像するだけでゾッとしますが、実際にその苦しみに耐えている動物たちがたくさんいる。それにはプラスチックに含まれる添加剤や有害物質の悪影響も複雑に絡み合って、海鳥に限らず、被害は海の中に暮らす魚介類やイルカたち海洋哺乳類なども同様です。


一羽の海鳥が胃袋に溜め込んでいたのは、234個ものプラスチック片/ミッドウェー島

日本ではあまり知られていませんが、海外では危険度の高いBPAやフタル酸エステルといったプラスチックの添加剤が広く知られていて、「BPAフリー」を謳う商品も多くあります。といっても、これ以外にも危険な添加剤はさまざま含まれるので素人にはとても判断ができず、自分の健康を考えるときでも、知れば知るほどプラスチックを「使わない」を選択するしか安全な道がないとも感じます。

映画の中ではプラスチックごみのさまざまなリサイクル技術や活用方法も紹介されますが、本誌Vol.29でもお伝えした通り、残念ながらこれらは解決策とは言えず……。誌面でご協力いただいた「グリーンピース・ジャパン」プラスチック問題担当の大舘弘昌さんは、その理由をこう解説します。
「この映画は海洋プラスチック汚染のリアルな深刻性が伝わってくるとても素晴らしい作品で、多くの方に観ていただきたいと思います。ただ、生産量や消費量を削減しなければならない今、『解決策は適切な回収とリサイクル、または紙製品にすること』と誇大に印象づけられる部分があり、誤解を招いてしまう点に懸念を感じています。HONEY Vol.29でご紹介いただいた通り、回収やリサイクル、代替素材にすることは、実質的な解決策とはならないからです。
たとえば今作で、回収したプラスチックごみを熱分解してディーゼル燃料にする技術が紹介されますが、この取り組みの規模は小さく、これらの技術が誇大にPRされることで、使い捨てプラスチック包装の大幅削減の必要性から人々の目を逸らせてしまうことになります。


プラスチックごみの山に佇むのは、監督でジャーナリストのクレイグ・リーソン

また、プラごみのリサイクルで貧困地域をサポートする『プラスチックバンク』という会社も紹介されますが、社会的課題への取り組みにはなり得ても、プラスチック問題の解決には繋がりません。こうした廃プラ活用術をビジネスにする事業ばかりが取り上げられてしまうと、根本的な解決である脱・使い捨てへの取り組みが進まない原因になり得てしまいます。
今夏に出たPEW Charitable Trustという団体の報告書では、このまま何もしないと、海洋ゴミの流出が2040年に今の3倍になるとされています。そうならないためには、大幅な削減への緊急性が伝わるコミュニケーションが大切で、私たちも政府や企業、市民への働きかけを引き続き行っていきたいと思っています」
一人ひとりも、企業としても、リサイクルをすればいい、廃プラスチックの再利用で儲けようという姿勢よりも、これ以上は使い捨てプラスチックを作らない使わないライフスタイルへ。世界中の海で、プラスチックの被害に苦しんでいる生き物たちの痛みを思うと、1日も早くそんな未来が来ることを願うばかりです。


プラスチックの海

多くの科学者や識者が警鐘を鳴らす、海洋プラスチック問題。監督クレイグ・リーソンが海洋学者、環境活動家やジャーナリストたちとともに、世界の海で何が起きているのかを調査し撮影。人類がこの数十年でプラスチック製品の使い捨てを続けてきた結果、危機的なレベルで海洋汚染が続いていることを明らかにしていく。

監督:クレイグ・リーソン
配給:ユナイテッドピープル
100分/2016年/イギリス・香港
公式サイト

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