世界中を旅して回った間屋口香が、タイ・プーケットに移住を決めた理由(前編)

一昨年の春、思い切ってタイにベースを作ったプロサーファーの間屋口香さん。世界中を旅して回った経験のある彼女が、当面のデスティネーションとしてタイを選んだ理由とは。前・後編に分けてその理由を紐解きながら、さらに特別編として香さんがオススメするローカルスポットもガイドします。


“自分の時間とスローな生活を大切にしたい、そう思った。
ここタイでは、それができている気がする”

間屋口香

昨年の春、香さんから1通のメッセージが届いた。

「元気? タイのプーケットにベースを作ったので、ぜひ遊びに来てね!」

数年前に地元の徳島から北海道に移住し、無人のサーフスポットでの波乗りや極上のパウダーでスノーサーフを楽しみながら、オフシーズンにはあちこち旅に出るというライフスタイルを送っていた香さん。国外では特にインドネシアの波がお気に入りで、頻繁に訪れている印象だった。そんな香さんから出た突然の“タイ”というワードに正直驚いたが、彼女が第2の拠点として選んだということは、なにか特別な魅力があるに違いなかった。

香さんはかつてショートボードのプロサーファーとして活躍。10代から今に至るまで長年に渡ってロキシーのスポンサードを受け、誰もが憧れるサーファーガールとしてシーンを牽引してきた。今ではショートボードだけではなく、ミッドレングス、ロングボードまで華麗に乗りこなす。

自宅のバルコニーから見える景色はまるで巨大な絵画のよう。自分たちで発見したポイントの波チェックやスピアフィッシングのスポットチェックももちろんここから

女性サーファーは様々なライフステージがあるためか、かつてコンペで活躍した人たちでも、時が経つとサーフィンから離れることが珍しくない。そんな中、香さんはこれまでずっと、本当にずっとサーフィンをし続けている。それなのに彼女の波に対するハングリー精神はまるで衰えることを知らず、引退後はスウェルを求めて世界中を旅することをライフワークとしてきた。昔からサーフィンに対する熱量は少しも変わっていない。少しずつベクトルを変えながら、常に新しいフェーズへと進化しているのだ。今でも多くの女性サーファー、そして男性サーファーにとってもミューズ的な存在であり続ける。

さて、そんな香さんがパートナーと共に半移住先としてタイを選んだ理由はなんだったのか……?

1年のうち数ヶ月は日本にいて、あとは国外の様々なところへトリップに行く生活の中で、海外にも動きやすいベースを作りたいというアイデアがまずあった。特にコロナで日本にしばらくスタックしていたことで、その想いはさらに強くなる。条件は、住む場所から空港が近く、トリップ先となる各国へのアクセスが良い場所。そしてサーフィンとフリーダイビング両方ができる場所。アジアが好きなので、近隣の国で探していた。そんな中、サーフィンができるという情報を得て、行ったことのないタイのプーケットが候補に挙がったという。

パートナーの収さんとはサーフィンやスノーボードだけでなく、食とお酒の趣味も合う。太陽がオレンジ色に変わる時刻になるとワインを開けて夕食の支度をスタート
タイ料理が大好き! という香さん。それが移住の決め手のひとつでもあった
初めてタイでできた友達は、バンコクから毎週通うほどサーフィンの熱量がすごい3人
部屋にはサーフィンとスピアフィッシングの道具がラインナップ
魚は食べる分だけ捕る、それが彼らのサステイナブルなルール

2021年の秋に下見で初めてタイを訪れ、プーケットとその周辺をまわった時。ちょうど当たった良い波が香さんたちを出迎えてくれた。波があって、人は優しく、衛生的で、大好きなタイ料理も食べられる。また、タイが近年、環境先進国になりつつあるのも好印象だった。政府がビーチクリーンに予算を出していたり、日焼け止めの使用規制や島の入場制限も行なっている。もうひとつ、タイはインドネシア、モルディブ、スリランカなどインド洋へのアクセスが特に良いのもメリットだった。日本はもちろん、ヨーロッパやオーストラリアへの往復も便利ということも移住の後押しとなった。

波が毎日あるサプライズ。タイでの新生活がスタート

こうして2022年5月から香さんのタイ・ライフがスタートした。

住んでみると、イメージ以上のさらなる魅力に気づく。2人が選んだプーケットの住居は、エメラルドグリーンの海が眼下に広がる美しいヴィラ。サーフスポットだとは思っていなかった目の前の海に、なんと波が割れているのを発見した。

試しに入ってみると意外と良い波で、それ以来2人のお気に入りのホームスポットとなった。第一発見者だから、2人以外はもちろん無人。もともとタイではサーフィン中心の生活をするつもりはなかったが、実際にはこの家の前のスポット(私たちは勝手にここをKaoriʼsと呼ぶことにした)も含め、毎日どこかしらで波乗りができるとわかった。

フリーダイビングでのスピアフィッシングも、移住前は船をチャーターしなければいけないと思っていたけれど、Kaoriʼsの近くの岩場でできることを発見した(地元漁師のルールは守りながら魚を捕っている)。つまり、2人にとってこれ以上ないほど完璧な移住先だったのだ。

「サーフィンも潜りも期待していなかったのにどっちもできちゃうってことがわかったから、今はそれに夢中。いろんなスポットで風向きや波の方向を探りながら、毎日楽しんでます」

香さんはタイの生活で“自分の世界にこもること”にも期待していたという。北海道で大切にしていた、静かでスローな暮らしをここでもしたかった。

「北海道とタイは陰と陽。雪の中と海の中、どちらも瞑想みたいで心地良いんです」

1日のリズムは潮の満ち引きと太陽に合わせている。夕刻になるとワインを開けて、海に沈む太陽を眺めながら自然とめいっぱい遊んだ疲れを癒す。


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※後編は、移住の背中を押したガールズサーファーの存在や、今後面白くなりそうなタイのサーフシーンについて紹介します。

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