本当の“自分らしさ”を纏う。ファッションからサステイナブルを叶えるヒント vol.1

いま纏っているその服が、どこでどんな素材で作られたかはタグ表示を見ればひと目でわかる。では、そのコットンやポリエステルといった 素材がどう作られ、糸がどう紡がれて染色され、誰がどんな加工を経て形になり、どう運ばれたかまで考えてみたことはある? 過去にゴミとして捨ててきたアイテムたちも、その行く末を考えたことは?

毎日身に纏っているのに、知らないことって意外と多い。そこで、今回は、前編・後編に分けてファッションからサステイナブルの実現を考えていく。まずは、業界の現状を知ってみよう。



衣服への視野を広げる 業界の背景と変革の波

変化の激しいトレンドに刺激を受けて、アイテムを買っても1シーズンでサヨナラなんてことも当たり前な今、ファッション界は石油産業に次いで2番目に環境負荷が高い産業。業界全体のCO2排出量は増加の一途で、生産や流通などの全過程で多面的な問題が山積み状態にある。

その筆頭が「食品ロス」ならぬ「衣類ロス」と呼ばれる繊維廃棄物。個人が捨てる衣類ゴミに加えて、生産過程で余った端切れ、サンプル品、過剰在庫によって売れ残った商品もゴミとなり、業界には「廃棄当然」という空気も。日本は9割近い衣類を海外から輸入し、大量のCO2 を排出しながら運んできても大半はゴミ処分。廃棄量は国内で年間100万トン、億着以上もの衣料品が捨てられ、8割近くは焼却処分でさらな るCO2排出に加担している。

素材についても、たとえばコットン生産には有害な農薬や化学肥料が多用され、生産者の健康被害だけでなく命を落とす人々も毎年多数、土壌から川や海の汚染も進む。レーヨンやアセテートなどは森林伐採に。カシミアのセーターは1枚作るのにカシミヤヤギ約4頭分が必要で、安 価な大量生産が求められる今、ヤギの飼育数を増やしたことでモンゴルの草原は急速に砂漠化している。

水を大量に消費する産業としてもファッション業界は第2位。たとえば綿のTシャツを1枚作るのに約 2千lの水が使われ、これは平均的な1人が飲む水の約5年分に相当する。ジーンズ1本ではさらに多く7千L以上。ウズベキスタンでは木綿栽培により、かつて世界第4位の湖水だったアラル海がこの年間で枯渇寸前。漂白や染色でも多くの水が使われ、化学薬品や環境ホルモンなどがそのまま川へ海へと流されることもあり、水質汚染も第2位の産業に。

他にも合成繊維によるマイクロプラスチック問題 、動物虐待となりうるリアルファー、途上国での不正雇用 、強制労働や虐待など、何気なく手に取る衣服が、こんなにも深刻な環境破壊や複雑なプロセスに支えられているとは気づけないことがほとんど。そんな業界の裏側を多くの人に知ってもらおうと、世界中で活動する団体がある。2014 年 にイギリスで立ち上がった「ファッ ション・レボリューション(以下 FR)」。環境にも人にも配慮して、誇りを持ってファッションを楽しむカルチャーを広げようと、日本でも同時期に活動がスタートした。

パタゴニアなど、早くからサステイナブルに取り組んだブランドに続き、各国企業が素材の調達から生産工程、作ったあとの責任までさまざ まな角度から改革に取り組み始めている。ただ、事実無根に環境保護を誇張して誤解を与える「グリーン ウォッシング」も多く、正確なトレー サビリティ(生産・流通過程の追跡) も求められる今後は、自分が着る・ 買う衣服の環境負荷率を個々が理解できる時代が来るかもしれない。何よりも、前述のような真実を知れば どんな衣服ももう粗末には扱いたくはない。背景まで丁寧に配慮された ブランドもたくさんあるからこそ、買うときはもっと慎重にずっと愛 せるアイテムをワードローブに…… ゼロ・ウェイストとも通じるそんなファッションへの姿勢も、今ここからできる大きな自己変革になる。

次回は、業界の現状を踏まえ、これからのワードローブを楽しむためのアイデアをご紹介。こちらも忘れずにチェックしてみて。


掲載:HONEY Vol.028
※情報は本誌掲載当時のものです

SHARE