
HONEY vol.31の連載特集「No Earth, No Us」では、生物多様性の喪失をテーマに、地球の危機を生物学的な視点から紐解いてみましたが、私たちは地理的にも、たくさんの破壊を積み重ねてきました。開発による環境負荷、専門用語では「土地利用」というワードで議論されますが、地球上に広がる土地のうち、すでに7~8割が人々のニーズを満たすために改変され、海についても9割近くもが、人間の悪影響を受けてしまっているといわれます。環境が壊されればそこに暮らす生き物たちも消え、本誌でお伝えした通り、その激減ぶりはショックを隠し切れないほどです。
環境破壊の理由は産業や都市、交通などの拡大とあわせて、観光が大きなダメージを与えていることも、悲しいけれど事実です。魅力的な旅先として脚光を浴び、開発が進むとともに自然が破壊・汚染された場所は世界中に数え切れません。愛してやまない南国リゾートはもちろん、他にもたとえばスペインや南仏、イタリアなど美しい観光地が集中する地中海沿岸地方も、自然環境のほとんどが保護されておらず、ホテルの建設やリゾート施設の開発が進んだことで、環境が大きく悪化したエリアの一つ。野生生物の生息地が破壊され、海では魚介も乱獲され、地中海は海水の交換が行われにくい閉鎖性海域のため、現地の人々と観光客が出す排水やプラスチックの溜まり場としても、海洋汚染が深刻になっています。



日本も例外ではなく、各地で観光のための開発と環境破壊が続いています。とくに2003年頃から、日本はさらなる経済効果を高めようと観光立国を目指し、外国人観光客を誘致する「インバウンド政策」を進めてきました。そうして2003年には約500万人だった訪日外国人の数は、2019年に3,000万人を超え、それに比例して開発も拡大。日本が誇る美ら海に抱かれた沖縄も、国内外の観光客が急増するとともにホテルやリゾート施設などがますます建ち並んでいきます。その様子を目の当たりにする現地の島人たちが、先日こんな本音を話してくれました。「沖縄でツーリズムが盛んになればなるほど、島の人たちも土地を売って、不必要な建物があちこちに建てられて、そうして美ら海がどんどんグレーに変わっていく……それを見ているだけでも危機感が膨らむよ」と。本島だけでなく、沖縄の古き良き原風景が色濃く残っていた小さな離島にも、近年は広大な敷地に高級リゾートホテルが進出し、なかには島民の反対を押し切って建設が進んだエリアも。沖縄に限らず観光地の多くで、非日常を演出する優雅な空間がたくさんの環境や生態系を犠牲にした上に成り立っていて、SNSが普及してからは観光公害も深刻になっている……。バカンスを楽しむ最中には気にも留めないことかもしれないけれど、海外どころか国内でもなかなか思うように出かけられない今は、旅先のそんな背景に思いを馳せながら、「旅人としての心得」を少し見つめ直してみてもいいときなのかもしれません。

本誌でお伝えしたように、今回のパンデミックもその源をたどると、「人類による自然改造と、その結果として続く生態系の衰弱」に行き着くとして、土地利用の見直しや生物多様性の保全に大きな注目が集まっています。ちょうど2021年1月、フランス・パリで「生物多様性ワンプラネット・サミット(One Planet Summit for Biodiversity)」も開催され、参加した50ヶ国以上の国々が「2030年までに世界の陸域と海域の30%を保護区とする」ことを約束し、日本もこれに賛同すると表明したばかり。これ以上のむやみな開発はやめよう、保護区をもっと増やそう、環境と生き物たちを守り調和していこう……そんな声も増えてきている今、一人一人ができることを一緒に考えていきながら、これからの社会変革も楽しみに見守っていきたいなと思います。