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美しすぎる「サンゴ」のアート|コートニー・マティソンの作品の視覚的インパクトは必見

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地球上のすべてのサンゴがいま重大なターニングポイントに差しかかっている。1万年以上かかって形成された海底を絨毯のように覆うカラフルな森は、人の手によってたった50年でその多くが失われてしまった。この海の危機、ひいては地球全体の危機をアートを通して訴えるのがコートニー・マティソン。サンゴを陸にそのまま移植したかのような精巧で“壊れやすい”磁器の作品から、この動物の美しさとはかなさを視覚的、物理的に伝える。近い将来、健康な美しいサンゴがアートの中だけで生きるおとぎ話にならないために、海の声に耳を傾けたい。


中心はカラフルで健康、外側にいくに連れて白化していくサンゴ。サイクロンのように渦を巻き、重大な問題に巻き込まれていることを指すことわざ “eye of the storm(=台風の目)”を作品に重ねた。サンゴがあっという間に死にゆくそのスピード感も表現する “Our Changing Seas III” by Courtney Mattison. Image by Arthur Evans, Tang Museum

Q & A


あなたにとってサンゴの魅力は?
サンゴは物心ついた頃から私の想像力を掻き立ててきました。ゆらゆら浮きながら水の中で見るサンゴのエキゾチックな形、刺激的な明るい色……。トロピカルなサンゴが毒のある肢を動かしてダンスするんです。スキューバマスクの中からそれを見るときが最高に幸せ。世界でもっとも大きい生き物。顔のない建築者。植物みたいだけど動物。そんなサンゴのミステリアスなところが大好きなんです。
–{アーティストとしても活動すると決めた理由は?}–
海洋生態学を学び、アーティストとしても活動すると決めた理由は?
海は秘密に満ちています。幼い頃、ママと一緒にサンフランシスコ・ベイのピアに繋がれているカニの罠を覗き見したときのような……初めての冒険みたいに鮮やかな記憶が海にはあるっていつも感じてきました。海とアートはどちらもずっと私を魅了し続けてきたもの。だから高校生になって海洋生態学とセラミックを学んだのは自然な流れでした。いちばん最初の海洋生態学のクラスが、私の海洋科学への情熱に火を点けたんです。野外調査と解析の基礎を覚えたのもこのクラス。“海の生き物を象ったアートを作りたい”という最初の衝動を感じたときでもありました。3Dで改めて作り直すことで、その生体の詳細を理解するのに役立つと気づいたんです。

環境問題に対するメッセージを作品に込めるようになったきっかけは?
解剖学的なところからスタートしたアーティストとしてのキャリアは、学生時代のオーストラリア留学をきっかけにもっと大きなスケールへと発展します。グレードバリアリーフでスキューバダイビングをして、当時世界で一番美しくて健康と言われていたサンゴの美しさに心が奪われました。ちょうどサンゴをおびやかす気候変動や海洋酸性化、乱獲や汚染といった問題を学んでいた最中だったから、なおさら感動したんです。オーストラリアで過ごした2007年は、サンゴの壊滅的な白化現象がまだニュースの見出しを飾る前。クラスで気候変動の影響に関する予測 ―サンゴは今世紀が終わる前に全機能を停止してしまうだろう、といったような説― を学ぶたびに心が締め付けられる思いでした。でもこの傷ついた心によって、大切なことに気づくことができました。それまではサンゴへの個人的な興味から作品を創っていたけど、別世界的に美しいグレートバリアリーフが人間のせいで凄まじい速さで衰退しているという事実を、作品を通して訴えられるんじゃないかと。海の中の様子を“水の外側”から視覚的に伝えることで、人にインパクトを与えられるかもしれない。人生を捧げてみようと、モチベーションが沸きました。
–{グレートバリアリーフでのショッキングな出来事}–
HPにも書かれていた、グレートバリアリーフでのショッキングな出来事をシェアしてもらえますか?
2016年、留学の9年後に、私が大学時代に恋した美しいグレートバリアリーフを夫にも見せたいと思ってオーストラリアに戻り、ダイビングトリップに参加しました。その当時、グレートバリアリーフで歴史上かつてないくらいサンゴの白化現象が広がっているという事実はなんとなく知っていて。北方の90%以上が白化し始めているという話でした。初めてダイブするとき、やけに水が温かいことに違和感を感じました。その後海中でまず私が気づいたのは、まったく、一匹も魚がいなかったこと。まるでゴーストタウンのよう。大きなサンゴの出っ張りを曲がると、目の前にシカツノサンゴの広大な森が広がっていました。でもそのサンゴは見渡す限り、ひとつ残らず幽霊みたいに真っ白……。正常なシカツノサンゴはゴールデンイエローや、茶色、緑や青。サンゴの死骸を見たことはあっても小さいスケールだったから、こんなにも広範囲のダメージを目の当たりにしてショックと悲しみに包まれました。サンゴには共生する藻が存在しています。彼らはサンゴのおかげで光合成ができて、その産物がサンゴにとっては大事な食糧源。お互いに頼って生きています。でも海水温が上がりすぎるとサンゴは発熱と似たような免疫反応をして、大切な藻を身体から追い出してしまうんです。すぐにサンゴが回復できるまでに海水を通常の温度に戻さないと病気になったり餓死してしまいます。この“死のサンゴ礁”を発見したとき、スキューバマスクの下で静かに泣いたのを思い出します。私は怒りを覚え、アーティストとして、気候変動の活動家として、自分のスキルを絶対に活かすと決意しました。


まだ地球に残る“希望の海”をビジュアライズした造形作品シリーズ。2009年に海洋学者のシルビア・アールが立ち上げた、生態学的に多様で健康な海域を“Hope Spot”として保護対象に指定するプロジェクトからインスパイアされた。日本では唯一、沖縄・辺野古の大浦湾が認定されている “Hope Spots” by Courtney Mattison. Images by the artist

–{大きな作品を作るときのプロセス}–
大きな作品を作るときのプロセスを教えてください。
サンゴだけじゃなく、スパイラルな形、例えば銀河の渦巻きとかハリケーンの雲とか自然の写真を数時間見つめると新しいデザインが思い浮かぶんです。まずは手書きのスケッチを紙に描いて、それをデジタライズしてインスタレーションマップを作ります。次にひとつひとつ手で形づくる作業。テクスチャーを付けたいときはお箸やペイントブラシみたいなシンプルな道具を使って。釉薬を塗り、窯で焼いて出来たものを3Dのパズルのように組み合わせれば完成。だいたいひとつの作品を完成させるまで4 〜12 ヶ月かかります。サンゴと私のアートには共通点がいくつかあります。ひとつは化学構造。サンゴの骨格は炭酸カルシウムで出来ていて、私の作品にも釉薬として炭酸カルシウムを使います。もうひとつは壊れやすさ。磁器で作られたイソギンチャクの触手は適切に扱わないと簡単に壊れます。サンゴも同じようにデリケートな生き物。“はかなさ”、“もろさ”が私のアートの基本的なメッセージでもあるんです。

作品を制作する上で環境に配慮していることはありますか?
私が創るセラミックの彫刻というのは、窯焼き、電力、スタジオ内の換気、輸送と本当に多くのエネルギーを必要とするんです。だからできる限りリサイクルのものを使って、廃棄をなくし、水の消費を減らして、大量購入に努め、ローカルの素材を使うようにしています。今後スタジオにソーラーパネルを設置する計画も立てています。

制作中、サンゴの気持ちになるとは本当ですか?
はい。制作しているとき、自分自身がサンゴのような気持ちになることがあるんです。こんなこと言うとちょっと変だってわかってるんですけど、でも本当によくあります。何時間制作してても苦じゃないし、丹念でデリケート、ときにダイナミックな作業はメディテーションのよう。そしてディスプレイされた私の作品はまったく違うものに見えるんです。まるで生命が宿っているみたいに触手がカレントでふっとなびくような、私のアートから“動き”が感じられる瞬間が大好きです。


–{作品を見る人にを感じてほしいことは?}–
作品を見る人にを感じてほしいことは?
私がスキューバダイビングでサンゴの上を泳ぐときに感じるフィーリングをそのまま同じように感じてほしいですね。いろんなアングルからゆっくり観察したり、新しいディテールを発見したり。人は自分が気にかけているものを守りますよね。そして気にかけるのは、よく自分が知っていることや、理解しているもの。サンゴや海の環境は、多くの人にとって未知の生命体のようなものです。視界にも考えにも入ってないんです。人間は極めて“陸上主義”で、どれほどこの居心地の良い環境、食べ物、水、空気さえも海に頼っているのかをわかっていない(実は、人間が呼吸で取り込む半分以上の酸素が海洋プランクトンによって生成されている)。サンゴは海全体の0.2%以下しかないのに、25%もの海の生き物の生息場所を提供しています。海の健康を保つのにとても重要な存在で、つまり私たちの生活にも必要不可欠ということ。でも多くの人は海中で何が起こっているか知らないし、ヘルシーなサンゴが生き生きと生活する場所へ旅する機会も多くない。きっと手遅れになるその時までサンゴの美しさや、サンゴを守る価値を知ることはないと思います。私は健康なサンゴの美しさを目にする機会がたくさんある幸運な人間として、この魅力をシェアしていきたいんです。みんながサンゴをケアしたいと思うように心を動かすことが私の使命だと思っています。小さなひとりの人間が、こんなに大きくて精巧なセラミックの彫刻を創っている。その姿を見た人が、私にとってサンゴがどれだけ大切か、自分たちにとっても海がどれほど重要か理解して、もっと海のことを知りたいと思うようになってくれることを願っています。

HONEYの読者に伝えたいことはありますか?
私たちはみんな、海とつながっています。沖縄から北極まで、地球のどこに住んでようと関係ない。ひとりひとりが壊れやすくて美しい海を守る役割、海の健康を取り戻す役割を担っているんです。具体的には再生可能エネルギーという選択や、持続可能な海産物の捕獲&食事が、地球と私たち自身を守ってくれるはずです。

“they may never understand the beauty of coral reefs or the value of protecting them, until it’s too late.”
―きっと手遅れになるその時まで、サンゴの美しさや、サンゴを守る価値を知らない人もいるでしょう


近づいてよく見ると、シカツノサンゴの枝のような質感、キクメイシの無数の穴、海流になびくイソギンチャクの動きまで精巧に再現されている。作品に命が宿る “Aqueduct” by Courtney Mattison. Image by Glen McClure, Virginia MOCA


インドネシアの美しいサンゴ礁へのオマージュ作品 “Confluence (Our Changing Seas V)” by Courtney Mattison. Courtesy of Art in Embassies, U.S. Department of State Permanent Collection for U.S. Embassy Jakarta. Image by Amanda Brooks