
いま考えたい地球の生き物たちのこと、生物多様性について、2010年に名古屋市で開かれた国際会議では、「自然と共存する」世界を叶えるために、「愛知目標」という20の目標を設定した戦略計画が合意されました。ところが2020年、この10年間を評価したところ、20の目標を一つも達成できなかったという残念な結果だったそう。そこで新たに、2030年までに生物多様性の衰退を止めようと、今年10月に「ポスト愛知目標」が採択される予定です。具体的には、生息地の破壊を止めること、種の絶滅を食い止めること、そして生産と消費による負荷を大きく減らすこと。いま世界は生物多様性と自然環境を回復させるほうへ、確実に動きはじめています。
この50年で、地球上の脊椎動物の個体数は平均およそ2/3が消えてしまったと、WWF「生きている地球レポート2020」で報告され、このままでは、残りの1/3もあと50年しないうちにどんどん消えていってしまう……。HONEY vol.31の連載特集「NO Earth, NO Us」では、「WWFジャパン」生物多様性担当の清野比咲子さんが、そんな生き物たちの今について、ていねいに教えてくださいました。
海の生き物たちも対等な仲間として
「1970年からの激減ぶり、そしてこのままではどんどん減っていくいっぽうなのは、残念ながら確かです。原因の一つになっている気候変動も、2015年に採択された『パリ協定』では最初、平均気温を産業革命前よりも+2℃未満に抑えることを目標に掲げましたが、2018年に発表されたIPCC『1.5℃特別報告書』によって、+1.5℃と+2℃では被害やリスクに大きな差が出ることがわかり、世界は+1.5℃未満を目指し始めました。熱波や洪水などによる人々への被害が大幅に増えるのはもちろん、サンゴ礁も+1.5℃では世界の70~90%が死滅、+2℃では99%以上とほぼ全滅してしまう予想です。そうなると生き物たちも大幅に減ってしまうことは明らかで、その減少率は+1.5℃のときよりも+2℃の場合は2~3倍に、増える予想です。『そういえばカブトムシや昆虫が減ったな、ハチやトンボがいなくなったな』と身近で感じることはあっても、すぐに暮らしが困るわけではないので、危機を感じにくいかもしれません。ですが、小さな昆虫の変化でも、それが次々に食物網でつながり、人間にも悪影響を及ぼします。生態系ピラミッドの頂点にいるサメやトラを守る活動も、食物連鎖のトップにいる彼らのような動物が健やかに生きられる生態系であれば、その下にいる他の生き物にとっても健全な環境だからなんです。生物多様性を回復軌道に乗せるには2030年までが勝負ですが、そこでは動物・生態系・人間の健康をひとつと考える『ワンヘルス』を大切に、そして一人ひとりの消費を変えることもとても大きな効果があります。まずは多くの人に、すべての生き物たちが繋がっていること、そして現状の危機を知ってもらえたらと思っています」(清野さん)
海のなかにもイルカやクジラ、ジュゴンやアシカたちのような同じ哺乳類も暮らしていれば、私よりもはるかに大きな巨体を優雅にしならせて、大海原を自由に泳ぎ回る生き物たち、エキサイティングに行き交う魚たち、足元には体長何cmかのマイクロボディに、愛嬌たっぷりな表情をのぞかせて、それでも懸命に生きている小さな生き物たちもたくさんいて……。私はそんな彼らと出逢うたび、純粋で崇高なその生き様に魅せられながら、日常に戻っても大好きなともだちに会いたくなる感覚と同じように、無性に彼らが恋しくてたまらなくなったりもして。海の生き物たちも、もちろん陸上生物も、ビーチを横切る小さなカニさんだって、みんな私たちと繋がっている……だから彼らも対等な仲間として、たとえば私たちが「みんな」というときも人間だけじゃない、「動植物も含めたみんな」と当たり前に思えるような、そんな空気感も広まったらいいなと、密かに願ってみています。
