【連載】地球の今、海の今を知る|Vol.37 Ocean First~海を愛する旅人として

何年か前まで、大自然に委ねて心身をリフレッシュできる場所というのは、たいてい「圏外」でした。電波も通知も情報も届かず、何に追われることもなく、慌ただしい日常からも、人間社会のあれこれからも完全に解き放たれて、ただまっさらな自分で純然たる地球の懐に抱かれる……。旅の最中はもちろん、海に入っているときもこれに同じく、そんな心地よさがたまらなく好きだったりもして。前回Vol.36ではオーバーツーリズムとSNSの関係を紐解きましたが、それは自然環境や現地の人々だけでなく、野生動物にとっても迷惑な現象を増やしてしまった背景も。今は世界中どこにいても、たとえ海の上だって、Wi-Fiを持ち歩けば容易に通信ができる時代になり、リアルタイムにインパクトのある投稿をしたいからと、マナーを守らず、生き物たちにさまざまなストレスを与えていることも多々。そんな背景を物語るように、何年も前から議論されてきたハワイ州のドルフィンスイムが、今年からついに禁止となってしまいました。

ハワイに多く生息するハワイアンスピナードルフィンは、夜に沖合いで狩りをする夜行性で、日中は沿岸海域に戻って休む習性が知られています。スイムツアーはそんな日中、イルカのリラックスタイムに多くの観光客が接するため休息や睡眠が阻害され、ストレスを受けている可能性が心配されていました。そんななか2021年9月から、海面や水中で一緒に泳ぐドルフィンスイム、イルカが嫌がる行為、人や船舶が50ヤード(約46m)以内に近づくことなどが法律で禁止に。ビーチや陸上からイルカを追いかけるスイマーを見かけた場合も取り締まりの対象とし、SUPやカヌー、ボートやドローンなどによる接近も違反行為に含まれるそう。これまで長い間、イルカたちを守る配慮を徹底していたツアー会社もあったものの、世界的なオーバーツーリズムの波はハワイでも顕著に。そうして近年は利益優先なツアー会社が増え、観光客の思いやりに欠ける接触も多くなり、今回の法規制に至ったようです。ウミガメやハワイアンモンクシールなど、他の野生動物に対してもルールを守らず接触する観光客が増えていたハワイですが、こうした被害はオーバーツーリズムが深刻になるほど、世界各地で同様に増えていました。

国内外にはドルフィンスイムやホエールスイム、ホエールウォッチングなどを体験できる海がいくつもありますが、動物たちの性格や暮らしぶり、水中でのルールやスタイルは場所によって異なります。以前はゆっくりと広まっていた情報も、今はSNSでいっきに世界中へ拡散され、押し寄せた観光客の多くは、海洋生物への適切なアプローチやルールを心得ないまま、被写体めがけて猛ダッシュしたり。イルカやクジラだけでなく、海の生き物に出会えた興奮から執拗に追いかけ回し、闇雲に近づいて触ったり、その様子をSNSに投稿しては注目や非難を浴び、なかには接近しすぎて逆に噛まれたりケガをする人も。せっかく海に入っても自撮りスマホやカメラしか見ていない、そのままサンゴもボキボキと壊してまわる人たちなど、目に余る光景はあちこちでたくさん見かけます。そんな観光公害を痛感してきた現場では、海を思いやって「情報発信は最低限に」「利益至上主義な宣伝や、SNSでの紹介はしない」というスタイルも広まっています。

海での体験や海洋生物との邂逅は、胸の奥にある何かを大きく揺さぶるほどの感動と、自然への畏怖を胸に刻み込めるひととき。けれども、人間だけが満足して、あるべき自然美や豊かな営みが損なわれるのなら、なんにも楽しくなんてない……私にはそう感じられてやみません。動物たちのほうからフレンドリーに近寄ってきてくれたときには万々歳で遊ぶけれど、基本は邪魔をしない、傷つけない、タッチもしない、彼らを尊重できる程よい距離感で、海とそこに暮らす仲間たちの日常を最優先に思いやる、そんなNature First、Ocean Firstな姿勢を大切に、海を旅するようにしています。

text:Ayako Minato

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