
Vol.33からさまざまな角度で見つめてきた「旅と環境問題」の関係性、そこで紹介してきたような「観光ファースト」「観光客至上主義」を続けていては、自然も暮らしも壊されてしまうばかり……そう気がついて、さらにはコロナ禍というリセット期間を経ていっそう、観光業の在り方を方向転換するところも増えてきた昨今。同時に、最近は訪れる側の私たちにも「旅行者としての責任」が求められ始めた空気も感じています。すでに海外では、責任のある観光を意味する「レスポンシブル・ツーリズム(Responsible Tourism)」、SNSの投稿や場所のタグ付け・シェアを見直す「タグ・レスポンシブリー(Tag Responsibly)」といったキーワードとともに、一人ひとりが旅先の自然環境、動物、人々への思いやりを大切に、観光のマナーやSNSの使い方、持ち物、ゴミなどについて考え直そうというアクションが広まってきています。
たとえばゴミについて言えば、国内でも海外でも、観光が盛んになったことで毎日たくさんの観光客が膨大なゴミを残していくようになり、増えすぎたゴミの処理に悩まされている観光地は多くあります。旅のあいだは愉しむことに夢中で、現地のゴミ事情にまで思いを巡らすことはあまりないかもしれませんが、とくに南の島々では、「沿岸の浸食がひどく温暖化の危機も感じるけれど、プラスチックごみの問題もどんどん深刻化している」という声があちこちから聞こえてくるほど。小さな島国などでは高度な処理技術やリサイクル体制も整っておらず、ゴミを回収して運搬するシステムがないところ、処理施設も不十分なところがほとんどです。モルディブの例で見ると、100を超える「1島1リゾート」の島々から、毎日大量のゴミが「ゴミ専用の島」に運ばれてはいるものの、広大な敷地に山積みされたまま。炎天下に晒されるなかでは誰が火をつけたわけでもなくゴミが自然発火して、プラスチックが燃えている光景も当たり前に見られています。プラスチックはそのまま燃やせば有害なガスが発生し、大気汚染や健康被害にも繋がりますが、そこでは多くの労働者たちが目のしみる痛みなどを感じながらもなんの保護具もつけず、穴を掘ってゴミを埋めたり分別したり、それも安い賃金で働いている場合が多いのだとか。積み上げられたゴミは風に飛ばされ、海にも流れ出て、クリスタルブルーのレイヤーがひときわまぶしいモルディブの海も、今では「マイクロプラスチック濃度が極めて高い海域」として報告されています。

モルディブに限らず、国内外で人気のリゾートでもこうしたゴミ問題をはじめ、さまざまな環境問題が現地の環境や動物、人々を苦しめていることはこれまでお伝えしてきた通り。華やかな楽園のイメージばかりが表に立つからこそ、そんな裏側を知る機会が少ないのは仕方がないのかもしれません。それでも、まずはそうした背景があること、そして自分のアクションがどんな影響に繋がるかを知ることも「レスポンシブル・ツーリズム」への確実な第一歩。そこから、たとえば旅先でも使い捨てプラスチックを避け、マイバッグ・マイタンブラーなどを持ち歩き、ゴミになるものは断り、ホテルのアメニティも使わずMYバスアイテムを持参するなど、ゴミを出さない配慮だけでもできることはさまざま。地域のルールやマナーも知っていきながら、野生動物や人々への迷惑行為を避けることはもちろん、サンゴ礁を守る日焼け止め選び、SNS利用の見直し、訪れた環境を傷つけない“Nature First”を心がけるなど、改めて考えてみたらきっと、できることはたくさん見つかってくるはず。何が正解というよりも、そうして自分なりに考えて生まれた「責任ある旅のスタイル」をスタンダードに……責任といっても重たく考えずただシンプルに、「思いやりを持った上で」の自由な旅を愉しむマインドが広まっていくといいなと思っています。
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