【連載】地球の今、海の今を知る|Vol.33 旅を愛するからこそ、大切にしたいこと

好きなときに好きな旅先へと出かけられていた日常が、2020年からは海外渡航もままならなくなり、私たち人間側の気持ちとしてはやるせなさも募る日々。ですが、自然の立場に立ってみれば、その印象は大きく変わってくるかもしれません。というのも、観光客がほとんど来なくなった地球上のあちこちで、美しい景観が少しずつ蘇ってきたとか、生き物たちが戻ってきてくれたとか、そんなうれしい報告もたくさん聞こえるようになりました。さらにはこれをきっかけに観光客の受け入れを「量より質」へとシフトするところも。
Vol.31Vol.32と考察してきた「人間優先主義」、それは日常だけでなく、観光によって直接的に自然環境や生態系に大きなダメージを与えていることも、悲しいけれど事実です。もちろん旅行自体が悪いわけではなく、過剰な開発や観光客のTOO MUCH、旅行者のマナーやSNSの弊害、「自分だけ満足すれば」という姿勢がエスカレートした背景など原因はさまざまですが、それもコロナ禍によって強制的に一旦リセットされたような、そんな気すらしています。
Vol.19でも触れましたが、観光によって環境が壊された場所はたくさんあり、代表的なのはイタリアやスペインといった地中海沿岸地方、ガラパゴス諸島やヒマラヤ、日本でも富士山や沖縄など。リゾート地でもモルディブやハワイ、タイやフィリピン、インドネシアなど挙げればキリがありません。とくに離島のような狭い面積に人が多く訪れれば、自然が壊され汚染も蓄積し、ゴミ問題なども深刻に。タイ・ピピ島の一例でみると、2000年に公開された映画『ザ・ビーチ』の舞台として有名になったマヤビーチは、1日200隻近いボートと、多いときで5,000人もの観光客が殺到する日も当たり前に。タイは過去にも、観光客の急増でダメージを受けた島をいくつも閉鎖し、国立公園の多くは半年間ずつ閉鎖されますが、ここは人気のため通年開放されていました。その結果、ゴミ投棄や水質汚染、日焼け止めなどの影響でマヤ湾を取り巻くサンゴ礁のほとんどが死滅、生態系も壊滅的となり、2018年から無期限に閉鎖されています。フィリピンのボラカイ島も、雑誌で紹介されたことから観光客が殺到し、環境の悪化から2018年に一時閉鎖されたリゾートの一つです。

Maya Bay in Phi Phi

ミクロネシアにあるパラオ共和国も、2万人ほどの人口に対し2015年のピーク時には観光客数が16万人を超え、環境破壊や水質汚染、ゴミ問題、住民の生活環境や文化への悪影響などが顕著に。そこで、パラオ政府は2017年から入国手続きの際、入国者全員に自然/文化環境を保護する誓約への署名を義務づけ、「滞在中の行動に責任を持つ」ことを必須とする「パラオプレッジ」を導入しました。最大100万ドルの罰金を伴う措置としては世界初、2020年からはサンゴ礁を守る日焼け止めの規制も、世界一厳しく行っています。私もパラオをはじめ、たくさんの海や島々に通ってきた一人ですが、ここ15年くらいでも現地の様子は大きく変わり、海でも陸でも悲しい悪影響を実感することが増えました。

Republic of Palau

いつの頃からか、地球上のあらゆる場所が旅先として紹介され、SNSでも世界中の人々が情報発信できるようになった時代。有名な観光地だけでなく、「秘境」や「穴場」といって注目が集まるほど観光地化され、本当に「手付かず」な大自然の聖地がどんどん消えていく……。そんな様子を見ていると、人間の都合はさておいて純粋な地球の姿を穢すことなく、もっとそっと、静かに見守っていくことはできないのかなと。旅人としても、たとえば「パラオプレッジ」のように、みんなが当たり前に自然や地元の人々への思いやりを最大限に、最優先にする……旅を愛するからこそ、また自由に出かけられるようになったら、そんな精神をますます大切にしていきたいなと、私は思っています。

text:Ayako Minato

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