【連載】地球の今、海の今を知る|Vol.44 ホメオスタシスという見えない力

誰がどうして授けてくれたのか、この自然界には常に調和を保とうとする恒常性が備わっている……それは何かしらのストレスが加わったときに、あるべきバランスを取り戻そうとして発揮される、地球のホメオスタシス。私たちの体でも、たとえば外気が冷たいときには自動的に血管が縮まり、体温を上げるために体を震わせ、暑いときは体温を下げるために血管が広がり自然と汗がにじんでくるように。私たちの内側も、外側の自然界も、それはまったく同じ仕組みで、いつでも地球を「調和の星」に保とうとする力が、見えないところで常に働いている、もちろん今この瞬間も……。


以前、植物の世界について、忘れられないこんなストーリーを聞いたことがあります。それはとりわけ環境意識の高い街、カリフォルニア州サンフランシスコにいる知人のSさんが、自宅で育てていた植物に虫がついて枯れかけてしまい、専門家に相談したときのこと。Sさんはあまり深い知識もなく、「この薬を使えば治る、これで虫を撃退すれば」といった対処で済ませるのかなと思っていたら、まず教わったのは、虫がついて植物が弱るのは必ず、何かがアンバランス、何かが不健康になっている証だということ。「虫がつくから弱る」のかと思いきや実はその逆で、植物が弱っているから虫がついたり病気になったりする、むしろ健康であれば病気も発生せず、虫もつかないのだと。そしてその植物は単独で生きているわけじゃなく、周りの植物や生き物たち、土の中や空気中の微生物、もっと広い視野で捉えた自然環境、それらすべての中で共存共栄しバランスを取ろうとするので、弱ったその植物だけをケアすればいいわけじゃない、と目から鱗がポロポロこぼれ落ちるアドバイスをもらったそうです。その頃、Sさんはあちこちから集めた植物がジャングルのようにひしめき合う部屋で暮らしていて、それではあまりにも植物が雑多すぎる環境だったため、なんとかバランスを整えようとして虫さんがやって来たり病気が発生したりして一部の植物を枯れさせた、つまり「自然と間引きが行われた」というのです。すべては自然が調和を図るために起こり、それはSさん宅で育つ植物たちだけでなく、「地球全体で繋がっている」のだとも教えてくれたそうです。

たくさんの虫がついて弱った植物を見ると、つい悪いことのように捉えてしまうけれど、自然界にとっては「間引きをしてバランスを取り戻すためのポジティブな現象」にすぎない。あまりに真理をついたそんな植物たちの物語に、私も聞いたときは思わず感動がこみ上げてきました。同時に、もっとスケールを大きくして見ると、台風も竜巻も、豪雨も洪水も、火山噴火も森林火災も、今の地球で年々規模が大きくなるさまざまな異常現象や何かの大量発生も、すべては必死にバランスを戻そうとする自浄作用なのだということも。それも、狂いが大きければ大きいほど、調和を取るためのエネルギーも大きくなり、すべてはその結果として、必要だから起こっているのだと。もちろん地上の植物だけでなく、その摂理は海の世界でもまったく同じことですが、そうして自然の精妙な営みに耳を澄ませると、地球規模で働く大いなるホメオスタシスを前に、人間が出る幕なんてないよなと、ますます畏れ多くなったりもして。前回Vol.43で、SDGsな取り組みが海を潰してしまった事例にも触れましたが、人類は地球を破滅させるほどのパワーを持ってしまった上に、今はなんでもかんでも「人間がコントロールできる」と勘違いをして、環境のためにといいながらも、人間は自然に手を出しすぎている……。本当は、地球の危機を救えるのは人類ではなく、地球自身。だから私たちはそんな地球に最大級の敬意を払いながら、ただただ謙虚に、地球の蘇生力を邪魔しないようにするしかできないのだと、自然界のさまざまな姿を見つめるほどに、確かに強くそう感じます。私たちが自然をコントロールすることを手放すべき理由、それについては次回にもう少し、考えを深めてみたいなと思います。

text:Ayako Minato

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