【連載】地球の今、海の今を知る|Vol.47「不自然」を「自然」に戻していくために

私たちがいくら国境や県境を引いたとしても、地球には大地も海も、本来どこにも境界線なんてものはなく、どこかで生じた小さな狂いや変化は、はるか地球の裏側にまで広がりうるもの。それはバタフライ効果さながら、一羽の蝶の羽ばたきが遠くとおく離れた異国の地では竜巻を起こすといわれるように。前回Vol.46で、「地球の大地に無垢なる自然はたったの3%、97%は不自然」という研究結果を紹介しました。となると、私たちが「自然」だと思って眺めている景色も、実は多くが「不自然」な姿なのかと……。いくら人がほとんど入らない秘境の奥地であっても、自然界はすべてが繋がっているから、緻密に網羅する生態系ネットワークをたどりながら、大地の97%にまでダメージが広がってしまった今。気候危機だけをみても、2022年2月に公表されたばかりの「IPCC 第2作業部会 第6次評価報告書」の中で、気候変動による被害がすでに非常に広範囲に渡り、リスクの深刻度はずいぶん高まっていると強調されていたのも衝撃的でした。

地球を網羅する生態系のネットワーク、その一例をマングローブ林の様子で見てみると、水中に根っこを張り巡らせるマングローブ林は稚魚たちにとっても格好の隠れ家であり、そこならではの豊かな生物相が息づいています。それも、たとえばタイやベトナムといったインドシナ半島のマングローブ林で生まれ育った魚たちは、その近海だけでなく、はるか南東のオーストラリアへも移動して、グレートバリアリーフの海でも豊かな生態系を支えます。天然の防波堤としても嵐や侵食、洪水から海岸線を守り、水を濾過し、膨大量の炭素を蓄えるなど、人にも陸地にも大気にも多くの恩恵をもたらしてくれる、逆にいえばマングローブ林が一つ破壊されただけで、悪影響はこれほど広範囲に波及していくということ。けれども、現在はインドシナ半島をはじめ東南アジアに広がっていた豊かなマングローブ林も、エビ・魚介などの養殖場や開発が広がったために、急速な破壊が進んでしまった環境の一つです。

マングローブ林に限らずあらゆる環境が繋がり合って大切な役割を担い、海そのものもCO2や熱を吸収し、酸素も作り出し、すべての生命が呼吸できるのも、安定した気候で快適に暮らせるのも健全な海があってこそ。それも今では行き過ぎた人間活動によって過剰になった熱を、海は90%以上も吸収し、許容量を超えるCO2も取り込みながら、なんとかして地球の均衡を取り戻そうとはしているけれど、それに反して観測史上もっとも温暖で、もっとも酸性化し、人類が海に及ぼすダメージは予想よりはるかに大規模に、スピーディに悪化していく。海流や水位も大きく変わり、酸素の量も減り、生き物の数も激減し、ナノレベルにまでプラスチックが世界の海を埋め尽くし、そうして極小のプランクトンから最大のクジラたちまで、海洋生態系すべてを瀕死なまでに追いやって……。正直、動植物にとってみれば人間社会の都合や経済なんて、まったくもってどうでもよいこと。海の生き物たちと向き合っていると、「なんでもかんでも奪っていかないでよ。僕らは僕ららしく生きたいだけ。邪魔をしないで、苦しめないで、ただそれだけだよ……」と、私にはそんな声があちらこちらから聞こえてくるようです。

2021年、日本を含めた世界50カ国が「2030年までに自国の陸と海の30%を保護区とする(30 by 30)」宣言に合意し、同年には学術誌『Nature』で、「世界の海の少なくとも30%以上を海洋保護区とし、人間活動の影響から守ることができれば、生物多様性を回復させることができる」と発表した論文も注目を集めました。とはいってもそう簡単に回復できるわけでもなく、30%でも不十分ですが、今必要なのは人間の影響をリセットして本来の回復力を蘇らせ、なるべく「不自然」を「自然」に戻すこと。海洋保護区とは資源開発や海底採掘、恵みの搾取、生息地の破壊、排水汚染や富栄養化による海のデッドゾーン、漁業、観光といったストレス要因をなくすため、高水準に保護された海域のこと。現時点で厳重に保護されている海は世界でたったの1~2%ですが、「2030年までに世界の30%以上を海洋保護区に」という国際目標が、1日でも早く実現することを心から願うばかりです。

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