【連載】地球の今、海の今を知る|Vol.46無垢なる自然はたったの3%、97%は不自然な地球

人が自然に手を加えるということは、自然が自然ではなくなるということ……自然科学のフィールドでは「無為自然」、つまり人が何も手を加えず、自然のあるがままを大切に慮る、そんな心得が大切に受け継がれてきました。一方、Vol.19でも触れたように今や地球の大地は8割近くが人間の都合で改変され、海についても9割近くが悪影響を受けてしまっている。そうして行き過ぎた破壊や搾取にコントロールが続いた結果、この50年間だけで地球上の脊椎動物は7割近くも個体数が減少し、哺乳動物は8割以上、海洋生物も8割近く姿を消してしまいました。陸上でも、生態系を力強く支えるはずの虫たちが猛スピードで激減している様子は、「第6次大量絶滅」の足音がリアルに忍び寄っている証とも。2021年には、英国メディア『The Guardian』に掲載された「Just 3% of world’s ecosystems remain intact, study suggests」というレポートで、「生息環境や生息動物などが乱されることなく、生態系学上『無傷で残っている土地』は地球上でたったの3%」という研究結果も報告されました。人間活動が地球を破壊し尽くす「人新世」の今、母なる大地に純粋な自然はたったの3%しか残っていない、つまり「97%は不自然」ということ……そんな現状に大きなショックを受けたのも、記憶に新しいところです。

「自然」とは動植物が瑞々しく逞しく生きる姿はもちろんのこと、それぞれが命を全うしたあとも次の世代を育む力となるべく自然に還り、何かのひとひらが舞い落ちる姿すらも美しい、大切な循環の一部。脈々と生命の環が巡り、無駄が一つもない自然界はよく「すべてがゼロ・ウェイストな世界」とも例えられます。それは生き物だけでなく環境も然り、海洋生物学者のレイチェル・カーソンは名著『沈黙の春』の中で、「なぜここの自然はこういう姿をしているのか、なぜこのままにしておかなければならないのか、それは風土そのものに書き記されている」と、あるがままの自然に敬意を払い守りゆくことの大切さを、そっと教えてくれています。

今は地球にやさしいといったって自然を都合よく利用しているような世の中で、たとえば植樹や藻場再生といったカーボンオフセットを免罪符に、CO2排出をなかったことのように喜んでみたり。天然素材のアイテムだって、動植物がゆったりと一生を全うする姿を見守るよりも、原料を得るために精妙な循環を妨げ、成長は不自然な速度にコントロールして、作る過程の環境負荷も伏せたままに好印象をPR。流行りのサステイナブルファッションやサステイナブルビューティ云々も、本質を見ると環境保全とは程遠く、結局はイメージアップ作戦と自己満足に終わっている。今となっては無垢なる大地もたったの3%しかなくなり、生物多様性がこれほど瀕死に追い詰められているなかで、それでもまだ新しいモノやコトを作るために動植物の暮らしを荒らし、自然の理を無視してあちこちで断ち切られる生命の連環。それも一度途切れたつながりを元通りに戻すには、長い長い年月がかかるというのに……。今は「代わりのモノに変えれば問題は解決する」という誤解も広まっているけれど、必要なのはモノではなく、そうした意識や姿勢の転換のほうだろうとも感じます。

Vol.13で紐解いたシャローエコロジーとディープエコロジーのように、地球のためにといっても動機や方向性の違いから二極化が顕著な今。私は海に潜るなかで自然の荒廃を目の当たりにしてきた一人ですが、周りでは何十年もの間、海の悲鳴を肌で感じてきた先輩たちと触れ合うことが多く、地球の痛々しい衰弱ぶりを見てきたからこそディープエコロジーを心に灯す方々。そのスタイルは新しい何かではなく、今あるものに感謝して大切にする心を、環境負荷や捨てるものをいかになくすかという引き算を、これまで以上に丁寧に意識しながら、何よりも生命への畏敬やあるがままの自然とその息遣いを尊んでいる……。そんな姿勢にリスペクトを重ねながら、私もブレることなく、これからもディープエコロジーを深めていこうと思う今日この頃です。

text:Ayako Minato

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