モノが豊か or 自然が豊か、どちらを選ぶ?|地球の今、海の今を知るVol.54

いまの世の中にあるあるな風刺画に、たとえば地球温暖化の影響で、未だかつてない破壊力を持つ巨大なハリケーンがすぐそこにまで迫っているとして。けれどもそんなことには見向きもぜず、新作ファッションに時々サステイナブルなアイテムを織りまぜながら、次々に着せ替えを楽しんで、自然をバックに映える写真を撮ることに夢中な人々。片手にはプラスチックカップに入ったヘルシースムージー、それをプラスチックストローで飲みながら、撮った写真をあれこれ加工してはSNSに投稿し、たくさんのいいねや賞賛をもらえばご満悦。こうした風刺はとかく、迫りくる危機が真実か錯覚か蜃気楼か、といった議論にもなりやすいけれど、そんな言い争いをする前に私たちが考えたいのは、ネガティブな影響を見ないまま、華やかに発展することにばかり暴走してきた時代のこと。それがどれほど地球の豊かさを奪ってきたかには無関心で、あちこち飛び回ってはハイパー消費を楽しんで、SNS・メディア・広告のマインドコントロールにも購買欲を底なしに刺激され、不足感と過剰消費を煽られ続ける社会。生物多様性はすでに瀕死だというのに、サステイナブルといってもまだまだ動植物を都合よく利用しながら、地球という大いなる支えを自分たちの手で壊し続けてきた結果、今にも足元が崩れ落ちそうになっている。けれども、すでに気づいている人は気づいている、「地球や生命たちをこんなに傷つけてまで、多くのモノやコトは要らないよね」と……。

前回Vol.53で触れた、『エシカル白書2022-2023』出版記念イベントの後半では、そんな地球・経済・社会の今について、視点をぐーっと高く、より俯瞰から見つめ直せるパネルディスカッションも印象的でした。そこでは、HONEY Vol.32で気候危機と私たちの未来についてを丁寧に紐解いてくださった気候科学者の江守正多さん、そして認定NPO法人アニマルライツセンター代表理事の岡田千尋さん、ベストセラー『人新世の「資本論」』著者であり経済・社会思想家の斎藤幸平さんが登壇されました。

気候科学者 江守正多さん(国立環境研究所 地球システム領域 副領域長/東京大学 客員教授)

「世界は今、平均気温の上昇を産業革命前より+1.5℃未満に抑えることを目指しているものの、+1.5℃で止められそうな対策には全然なっていない、というのが現状です。2050年までにCO2排出を実質ゼロにしようと動いてはいますが、再生可能エネルギーへシフトするにも、環境への影響を慎重に調査しながら設備を増やさないと環境破壊になる可能性もあり、産業が移行していくトランジションなどを含めて課題はさまざまで、シフトするスピードは十分ではありません。本来なら、先進国は自国の脱炭素化はラクラクこなして、発展途上国を手伝うぐらいでないといけません。今のままでは、世界で1.5℃目標を達成するのは難しいと思います。もちろん問題は気候変動だけではなく、仮に技術が全部入れ替わってCO2が出なくなったとしても、格差が広がり、国家間の関係は悪化し、生物多様性が大ダメージを受けてしまうようでは、『CO2は出なくなったけど、これで良かったんだろうか?』となってしまうので、広い視野で考えていく必要があります。

2021年8月に発表されたIPCC第6次報告書では、地球温暖化が人間活動の影響によって進んでいることは『疑う余地がない』と明記されました。これは僕ら科学者にとっては改めて言うことでもないんですが、いよいよ断言したことの真意はぜひ受け止めてもらいたいと思います。その上で、これから必要なのは『脱・過剰消費』という議論にも深く納得しています。というのも、今は先進国の富裕層が無尽蔵に過剰消費をし、現状はそれが許される社会システム、むしろ経済を回すために奨励されているかもしれません。ですが、『それってよく考えるとおかしい』ということに、多くの人が納得し始めるプロセスが必要になってきていると思います。

僕自身は30年ぐらい前から気候変動問題のことを考え、当時から『CO2排出を実質ゼロにしないと温暖化は止まらないはず』と思ってきましたが、まさかそれを社会が受け入れて、世界が脱炭素に取り組む時代が来るとは全く想像できませんでした。けれども、今はそれが現実になり、社会も常識も大きく変わっていく時代に入ってきていると感じます。30年前はどこでもタバコを吸っている人がいましたが、今は分煙・禁煙が当たり前となったように、常識は変わり、人類は化石燃料文明も卒業できるはず。ただし、化石燃料文明を十分に早く卒業できるかどうかは我々にかかっています。ぜひ少しでも多くの人が気候変動や環境問題に興味を持って、アクションに参加していただきたいなと思います」


認定NPO法人アニマルライツセンター代表理事 岡田千尋さん

「私たちはアニマルウェルフェア、つまり『適正な動物飼育の在り方、動物への苦痛を最小限に』という考えのもと、主に畜産動物の問題について、身動きも取れない劣悪な環境で飼育するべきではない、と訴え活動しています。私自身も2羽の肉養鶏を飼ってみたのですが、1羽はうちに来て3週間で、もう1羽は2回の夏を越えて今年の5月に、どちらも心臓発作で亡くなってしまいました。彼らが教えてくれたのは、鶏たちがすでに、畜産のために品種改良を重ねすぎて、健全に生きていけない体になっているということです。鶏に限らず、今は効率化を求めるあまり、過激に品種改良を繰り返し、飼育の現場でも動物たちを過密に閉じ込めすぎている。それを緩和してあげよう、というのが世界共通の課題です。ただ、日本は改善の動きが非常に遅く、世界的な動物保護団体による評価でも、畜産動物の保護、企業の動物福祉、ともに日本は最低ランクに位置づけられています。

現在は地球上に存在する野生・畜産動物のうち、牛や豚は約6割、鳥類は約7割もが畜産、というアンバランスな状況の上、畜産業は温室効果ガスの排出量も全体の14.5%を占めています。さらに、畜産業を拡大するために南米のアマゾンをはじめとする広大な森林や生態系が破壊され、その地域民の人権問題にまで悪影響は繋がっています。そうして私たちの『肉や卵、乳製品を食べたい・飲みたい』という強い欲求が社会を崩し、自分たちの未来や健康、さらには生きる術すらも一緒に食らい尽くしているというわけです。

では一人ひとりに何ができるか。それは平飼い卵に変えるだけでは不十分で、例えば自分や家族の食生活で、アニマルウェルフェアに配慮したものに切り替える、または畜産物や水産物の消費を減らすなど、できることは色々あります。さらに社会を変えるためには、気軽に周りの人とアニマルウェルフェアの話をしてみたり、お弁当に入れてきた大豆ミートをシェアしたり、近くのカフェやレストラン、企業や政治家などに意見を届けていく、といったことも影響力は大きいと思います。そうして前向きにアクションを重ねながら、5年後、10年後に振り返ると『あれ、以前とは全然違う!』と感じられる変化を、一緒に楽しんでいってほしいなと思います」


経済・社会思想家 斎藤幸平さん(東京大学大学院総合文化研究科准教授)

「振り返れば50年近く前から、『このままいくと地球環境が危ない』と言われながらも状況は多くのケースで悪化し、今では気候変動や生物多様性の崩壊など、もうどうやって対処していいかも分からないような危機がすぐそこにまで迫ってきています。そんななかSDGsという目標が掲げられましたが、再生可能エネルギーに切り変える、またはより環境に配慮した商品を買ってなんとなく良いことをした気分で自己満足する、そんなSDGsブームによって、真に必要とされている転換から目を逸らしてしまっているように思います。いま私たちが直面しているのは、文明が崩壊するかしないか、生物多様性が本当に崩壊してしまうか、地球でこのまま誰が生きていけるか分からない、そんな危機を前にして、『有機野菜のジュースを飲んでいるから大丈夫』と思っているのはおかしい話です。いま世の中で起きているのは、こういったことがほとんどなわけです。

私が提唱している『脱成長』とは古くからあるとてもシンプルな概念で、簡単に言うと『先進国が経済成長を優先するような社会の在り方を辞めるべき』ということです。そもそも今の社会には膨大な無駄、過剰なものが溢れ返っています。『経済成長を続けるために、環境に優しいものを作りますよ』という方向性でこのまま今の資本主義が続いていけば、自然も資源も人々もますます犠牲になるばかりで、本質的な解決には繋がりません。本当に地球環境や未来のことを考えるのなら、意識的に無駄なものを手放す、再生可能エネルギーに切り替える、ということだけでなく、飛行機に乗る回数を減らす、お肉を食べる量を減らす、といったことも合わせて進めないと、もはや間に合わないところに来ている。だからこそ、これまで経済成長という名の下で正当化されてきた物事を、冷静に批判的に捉え直し、経済成長を善とする考えに疑問を呈し、行き過ぎた資本主義にブレーキをかける。それが脱成長であり、本来目指すべきシステムチェンジではないかと思います。

エシカルなアクションとは金持ちの道楽やカッコいいものではなく、生きていく上でできるだけ他の人や生物を苦しめない、という最低限のルールです。先進国に暮らす私たちは、自分たちの発展のために途上国の人たちを散々虐げてきたという事実に向き合い、何ができるかを考えなければなりません。経済成長を目指してきた先進国の人たちは、お金を稼ぐためにストレスフルに働き、家族との時間や趣味を我慢し、子供たちの未来も地球環境も犠牲にしながら、飛行機にたくさん乗って大量の買い物を繰り返してきました。こうした悪循環を続けていても幸せになれないのではないか。これからは脱成長という理念をベースに、もっと大胆な転換を加速させる必要があります。ぜひ皆さんも志を共にできる仲間を見つけて、アクションを広げていってほしいと思います」


「地球にやさしい」のミスリードが飛び交う昨今だけれど、この意味は本来、自然の豊かさを奪わない、邪魔しないということ。素材を配慮すればいくらでも作っていい、リサイクルをすればいい、というわけでもなく、たとえ先進国の脱炭素化が進んでも、終わりのない資源搾取や生態系破壊、紛争や格差や人権の問題は? 地球に蔓延するたくさんの犠牲をいろんな側面から見つめるほどに、「これじゃどう考えても、地球はもたないよな……」とモヤモヤしていた心に、スーッと明るい道筋を照らし出してくれたようなディスカッション。そもそも私たちは底なし沼のような消費欲を満たすために生きているわけじゃない、そうしてTOO MUCHな社会に違和感を覚えた人から、おかしいことは「おかしい!」と、不要ならば潔く「NO!」と、まずは自分からできる方向転換をしていけたら。他にも、奥底から突き動かされるメッセージの数々をぜひアーカイブ動画から感じ取って、新しい価値観やアクションに繋げていってもらえたらと思います。

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