「本当の自分を生きる」ということ|地球の今、海の今を知る Vol.57


2022年も日本各地で史上最短の梅雨が駆け抜けたあと、すでに東京では6月から続いた猛暑日が歴代最多を記録しましたが、遥か遠い地球の裏側も猛烈な熱波に襲われている今夏。イギリスではテムズ川の水源が干上がってしまうという未曾有の事態、ドイツやイタリアでも干ばつによって川の水位が大幅に下がり、船の航行も困難になるほど。他にも各地で平均気温より10℃近く上回る異例の猛暑が続いていますが、その要因は北極海の気温が急上昇したことで偏西風の蛇行が起こったこと、南米沖の海水温が低くなるラニーニャ現象によってインド洋の海水温が高くなり、チベット高気圧を押し上げていることなどがさまざま連鎖しているから。そんな繋がりを知るたびに、地球が一つの生命体として、精妙に複雑に影響し合っていることを感じずにはいられません。

産業革命、農業革命、IT革命と、私たち人類は驚異的な速度で発展した今、それもたった数百年という短い間でいっきに起こったストーリーのほんの一部にすぎないけれど、いつからか環境や人々よりも利益が優先され、どんどん便利で効率的なモノやコトが生まれては捨てられる時代にもなりました。こんなに便利で時短を手にしたのだから、人々の心や時間にはゆとりができてもいいはずなのに、TO DOリストや買い物リストはどんどん増殖するばかり、おまけにいつどこにいてもスマホで世界と繋がり、常にマルチタスクを強要され、暇さえあればスマホやSNSをのぞく依存症も増えている。それも当然といえば当然で、SNSを編み出したシリコンバレーの天才開発者たちが次々と告白しているように、SNSは人間の心理や脳の仕組みを研究し尽くして、ユーザーをいかにスマホ中毒にさせるかを目的に作られたもの。元Facebookの初代CEOであるショーン・パーカー氏は「SNSの利用でドーパミンが分泌されることで、ユーザーの時間を最大限に奪える」と語り、一方ではスマホ依存が記憶力や集中力、判断力、思考力などを低下させることも明らかになってきています。

こんな風に、自分は楽しんでいたつもりでも、知らないうちに何かにコントロールされ、自分らしさや能力、人間性まで奪われている……それはSNSに限った話ではなく、さまざまなモノやコトの裏側、情報や商品だって自由に取捨選択しているようで、実は選ばされているような仕掛けも世の中には溢れています。Vol.55で紹介した『The Monster in Our Closet クローゼットの中の怪物』にも、「業界にこれ以上、操られてはいけません」という印象的な言葉がありましたが、マーケティング戦略や印象操作、偏向報道、AIやアルゴリズムによって偏った情報ばかりを目にすることも当たり前な日常。そんななか、スマホやSNS、TV、ゲーム、健康食品、薬、美容アイテム、買い物、ニュース、情報……皆さんも気がついたら手放せなくなっているもの、思い当たるものはありますか? 本当はそれらがなくても健やかに幸せに過ごせるのに、「それがないと不安、これがないと生きていけない」と感じてしまうものが?

もちろん、文明や技術が発展した恩恵もありがたく享受していきながら、もしもどこかで本当の自分を見失うほど、外側の誰かや何かに振り回されているとしたら? 知らないうちに持ち前の感受性や直感力、洞察力を鈍らせて、本当の自分を生きられなくなっているとしたら? ときどきふと立ち止まって、そうした不健全な関わりや不自然なコントロールに気づいたら、そこから離れる……それも自分を大切にする、本当の自分を生きるためには欠かせないエッセンス。そんな人たちが増えることがひいては地球を大切にする大きな一歩になるということも、心の片隅にちょっと留めておいてもらえるとうれしいです。

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