
前回のVol.63では石垣島のゴルフリゾート開発について触れましたが、先ごろそんな石垣島と西表島の間に広がる日本最大のサンゴ礁群「石西礁湖」で、92.8%もの白化現象が報告されました。サンゴ礁は海の健康状態をはかるバロメーターの一つですが、開発による赤土流出や水質汚染、オーバーツーリズム、日焼け止めやメイクに含まれる化学物質など、サンゴがすでにたくさんのストレスに晒されて弱っているところに、気候変動と高水温によるダメージがひときわ大きくなっていると、専門家たちは分析します。

石垣島だけでなく、近年は宮古島や西表島、竹富島といった離島もさらなるリゾート開発が進んでいます。その一つ、沖縄の原風景や伝統が色濃く残る竹富島は、次々と押し寄せる島外資本から「竹富らしさ」を守るため、1986年に島人たちが「竹富島憲章」を制定し、「(土地などを島外者に)売らない」「汚さない」「乱さない」「壊さない」といった独自の原則を定めました。それでも買収や開発はじわじわと進み、薄れていく竹富らしさと長閑な島時間。竹富島は生活用水を石垣島から、ゴミは西表島に、と助け合いのなかで暮らしが営まれますが、開発が広がるほどそのバランスも崩され、負荷は大きくなっていきます。日本のあちこちで、事業者と地元民が対立し、それでも結局は住民の反対を押し切る形でたくさんの開発が進んだのと同じように、沖縄の島々も美しいビーチ沿いにリゾートホテル、ヴィラやコテージが建ち並び、海は汚され「島らしさ」が失われ、暗く静かな夜の砂浜は減り、ウミガメの産卵場所もなくなり、サンゴ礁にかかる大きなストレス、観光公害にゴミ問題、光害に騒音……。そうしてたくさんのダメージを重ねてきてもなお開発が続いていく様子に、こんな視線も多く向けられています。
- 島はいたるところでリゾート建設による環境破壊、観光客はさらに増えてマナーやモラルの低下、風紀の乱れも本当に悲しい
- 世界に類例のない島の宝や美しい自然を壊して、世界のどこにでもあるリゾートやテーマパークを造るなんて
- 唯一無二の沖縄に、地中海気分を味わうホテルって一体?
- 久しぶりに宮古島に来たらすっかり様子が変わっていて驚いた。島民に愛されてきた秘密のビーチも立ち入り禁止に
- 島外資本は土地を買収し、開発し、利益を独占する。一方で、島内は穏やかな暮らしと美しい自然を奪われ、懐も潤わない
- 自然も命と同じ、一度失ったら元には戻らない。森を壊して水源を奪って海を汚して、人間が創れないものをどれだけ壊せば気が済むのだろう
- 美ら海は、健全な陸域の生物多様性とも直結している。その視点を欠いてはいけないと思う

今の時代、SNSには映える旅写真が無数に溢れ、高級リゾートや贅沢な娯楽に興じるセレブリティに憧れ、真似したいと思う人も多いのかもしれないけれど、一方では富裕層と環境危機の関係性を指摘する声も大きくなってきています。たとえば、2020年に英国とスウェーデンが共同でまとめたレポート『Confronting Carbon Inequality(炭素不平等に直面する)』では、1990年から2015年までの過去25年間に、人類由来のCO2排出量は全体で「約2倍」に増え、所得階層別のCO2排出量も調べたところ、全人類のうち「上位10%の富裕層」による移動や娯楽、過剰消費、生活様式、環境負荷の高い食事などが「全CO2排出量の半分(52%)をも占めている」と発表され注目を集めました。同時に、こうした富裕層が積極的にCO2削減に取り組めば、2030年までの+1.5℃目標を達成できる可能性も高まる、との指摘も。反対に、所得の低い下位50%の人々はCO2全体のたった7%しか排出していないにもかかわらず、富裕層よりも先に、家や家族を失うなどの被害や飢餓に晒されている。そんな現代社会のピラミッド構造はリゾート開発でも同じく、一部の利益を優先するためには「自然破壊も仕方がない」と正当化され、華やかさばかり宣伝され、そのシワ寄せに苦しむのは尊い自然と弱い立場の人々。見過ごされてきたそんな不平等の中には、私たちが学ぶこともたくさんあるように感じます。といっても、罪悪感や正義感で捉えるのではなく、まずはただ、「背景にこんな犠牲や理不尽があったんだ」を知って、「じゃあやめよう、変えていこうよ!」と意識をシフトする。そのシンプルさだけでも、ここからの社会変革を後押ししていけるような気がしています。
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