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【連載】地球の今、海の今を知る |Vol.10 「気候変動との悪循環も進む、デッドゾーン(4)」

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前回の(3)で、私たちの暮らしから出る排水が、海に流れ出る前にきちんと処理されているわけではないことをお伝えしました。とくに「合流式下水道」では、大雨が降ると処理場に届く前に汚水が垂れ流されて、デッドゾーンの一因に。それも最近は気候変動の影響で雨の降り方が変わり、汚水がそのまま放流されることが増えているそうです。たしかに近年の雨季や夏場に降る雨は、まるで南国のスコールかのように、突然のゲリラ豪雨が頻繁に起こったり、長いあいだ強い雨が降り続いたりして、降水量や頻度が上がっていることを感じずにはいられません。

気候変動は多くの環境問題と密接に関係していますが、デッドゾーンとの悪循環もさまざまに連鎖しています。まず、デッドゾーンでは低酸素な環境を好む「嫌気性細菌」が増殖し、温室効果がCO2の300倍という「亜酸化窒素(N2O)」を多く排出するため、気候変動を加速させていることはすでにお伝えしました。この嫌気性細菌はそれ以外にも、生物の死骸に含まれる硫黄分などを還元するときに「硫化水素」も多く発生します。硫化水素は猛毒で、周辺の生き物たちをさらに死滅させるだけでなく、オゾン層の破壊にも繋がる危険なガス。こうした貧酸素水塊はおもに海底近くで広がりますが、ときに強風や潮流に押し流されて海面に湧昇してくることがあります。そのときにこの硫化水素が表層の酸素と結びついて硫黄ができ、海が乳青色に見える現象が「青潮」です。すでに酸欠になった海域では、酸素と結合できずに、硫化水素がそのまま海面から大気中に放出されているところもあります。

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そもそも、海水温が高くなれば植物プランクトンは増殖するので、たとえ陸地から窒素やリンが流れてこなくても、水温が異常に上がるだけでもデッドゾーンは広がります。酸素の性質を見ても、水が冷たいほど酸素は溶けやすいので極地の海ほど酸素濃度は高く、逆に水温が高いほど酸素濃度は低下します。上下でいえば、表層に近いほど酸素量は多く、水深が深いほど少ないもの。海水の入れ替えが頻繁に行われればそのバランスは保たれ、デッドゾーンも改善されやすいのですが、今ではその海水循環にも異常が見られます。一つは極地と赤道付近など、地球全体の海洋を行き交う対流の勢いが、温暖化によって弱まっていること。もう一つは上下循環の異常で、これも温暖化によって表層の水温が高くなっているため、深部の海水と混ざりにくい「成層化」が起こっています。これはお風呂を沸かしてお湯が熱くなったと思ったら、下の層は冷たいままなのと同じ現象。成層化が進むと上下の海水循環が行われにくく、深部の酸素濃度はさらに低くなります。富栄養化から起こるデッドゾーンは浅い沿岸部で広がりますが、水温上昇と成層化から起こる海の酸素減少は深い海でも起こっていて、過去50年間ではすでに、海全体から2%もの酸素が失われてしまったそう。酸素量が減れば当然、生き物たちの活動や生存にも悪影響が及び、海はすべて繋がっているので、沿岸と深部の要因が重なり貧酸素化がさらに加速しているエリアもあります。

こうして海の酸素が減っていくいっぽうでは、大気中の過剰なCO2を吸収して海洋酸性化も進む……他にも海の危機を挙げればいくつもありますが、デッドゾーンというひとつの現象をさまざまな面からお伝えしてきた全4回。これだけを見ても、自然界はこんなにも繊細で緻密で絶妙な連携プレイによって地球のバランスを保っていること、そのバランスが崩れることの脆弱さと深刻さを感じられます。そして当たり前に過ごす暮らしが、知らないところでたくさんの自然破壊の上に成り立っていることも。すでに危機的な局面をはるかに超えているにもかかわらず、ほとんど知られていない海のデッドゾーン。ぜひ何かの機会に、周りの誰かといっしょに考えてみてもらえたら幸いです。