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【連載】地球の今、海の今を知る |Vol.17 海はどこでも、生き物たちの楽園

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人間の目線から見れば、東京湾は視界の悪さが際立って、人にとっては不快な臭いが鼻をつくような、汚い海の代表と思われるかもしれません。東京オリンピック・パラリンピックでは、東京湾のお台場の海が、トライアスロンなどさまざまな競技の舞台となる予定ですが、開催に向けて改めて水質の調査をしたところ、汚染度が基準値を大幅に上回り、異臭問題などがニュースでも取り上げられました。Vol.09のデッドゾーン(3)でもお伝えしたように、東京湾の汚染は家庭や工場などから出る排水がおもな原因で、「合流式下水道」の多い都市部では、大雨が降った日やその翌日は汚れた排水がそのまま放流されるので、湾内の汚染度も数値が跳ね上がります。下水道管を「分流式」に変えれば汚水の流入は防げますが、その工事には時間も費用も膨大にかかるため、そう簡単にはできないのだそうです。

お台場海浜公園はもともと、その汚染度の高さから基本的には遊泳禁止とされ、たとえ海に入っても「水面に顔をつけることは禁止」とされています。そんな海で競技に挑む選手たちを思うととても複雑な気持ちですが、オリンピック・パラリンピックの開催に向けて現在、お台場海浜公園で「覆砂」という対策が進められています。これは海底に長年蓄積したヘドロを覆い隠すために、伊豆諸島の神津島から運ばれた砂を海底に敷き詰めるというものだそう。ですが、これも言ってみれば「臭いものに蓋」をしただけで、水質汚染や異臭を引き起こすヘドロが消えてなくなるわけではありません。被せた砂もずっとそのままあるわけでもなく、嵐や海流によって流されることもあれば、蓋をした上にも、陸上社会から流れてくる汚水やヘドロが降り注ぐことに変わりはありません。


–{東京湾で懸命に生きる生き物たち}–
水が汚され視界も悪く、昼間でも夜行性の生き物たちが海底を行き交うような、東京湾の海の底。人間社会のせいで暮らしづらくなったそんな海でも、驚くほどたくさんの生き物たちが懸命に生きて、生死をかけたドラマを繰り広げていることもまた、まぎれもない事実です。海底に暮らすホヤやヒトデなどは「海の掃除屋」として、せっせと海を浄化をするために働いていたり。昔は江戸前の絶品寿司ネタが豊富に獲れる、美しく豊かな海だった東京湾ですが、今では化学物質の汚染に強いとされるムラサキガイまでも広範囲で死滅しています。汚染には強くても、デッドゾーンが広がり酸欠になってしまえば、どんな生き物だって生きられなくなり、生き物によっては少しでも酸素の多いエリアを探して、小高い場所を見つけては必死にエラを動かしながら呼吸を繰り返す姿が見られたり。首都圏の深刻な海洋汚染は東京湾だけでなく、海に流れ込む隅田川や荒川などでも確認され、貧酸素による魚たちの大量死も頻度が増えているそうです。海水が適度にかき混ぜられれば、汚染も少しは解消するものの、今は台風や海流による循環が不安定で、海水が淀んだまま。おまけに自然の力ではどうにもできないプラスチック汚染まで、どんどんひどくなるばかり。それでも海はたくさんの生き物たちと力を合わせて、自分で美しかった頃に戻ろうとするのに、それでもまた、彼らの頭上から降り注ぐヘドロにプラスチック……海のなかに耳を澄ますと、そんな悲鳴があちこちから聞こえてくるようです。

「楽園」と聞くと、南国の島々やどこまでも澄み渡るターコイズブルーの海を思い浮かべる人がほとんどかと思います。けれど、人間から見てどんなに汚く淀んだ海でも、そこを「おうち」として暮らし、それぞれの役割を果たしながら懸命に生きる生き物たちがたくさん存在していることを、私たちは忘れてはいけない気がします。それは東京湾に限らず、みなさんの身近に広がる海や、たとえ濁った水辺であっても、生き物たちにとってみればどこの海だって、尊い「彼らの楽園」なのだろうと思います。