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【連載】地球の今、海の今を知る|Vol.21 自然界には誰一人悪者はいないから

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サンゴ礁の天敵として、Vol.20でオニヒトデやシロレイシガイダマシ、テルピオスをご紹介しましたが、実はサンゴを食べる生物は160種以上が知られていて、彼らがサンゴを食べるからといって、それ自体が問題なわけではありません。もともと健全なサンゴ礁ならば一定量のオニヒトデが暮らし、鋭い棘や猛毒を持つ彼らも、天敵の大きなホラガイに羽交い締めにされながら食べられたり、オニヒトデの赤ちゃんはエビやフグたちの餌になったりします。「黒い悪魔」なんて呼ばれるテルピオスも、シアノバクテリアという藍藻と共生し、光合成をして有機物をシェアしながら生きている大切な動物。ただ彼らにとっての食料が「サンゴ」というだけで、それは私たちが生きるために食べることと、なんら変わりはないわけです。

もちろん、いったん死滅したサンゴ礁は回復するまでにとても長い年月がかかります。けれど、自然界には一切の矛盾がなく、すべてに意味があるとするならば、オニヒトデがサンゴを食べ尽くすことも必然で、人間があれこれ手を出すことではないのかもしれない……内心そんな思いがあったのですが、近年その仮説を信じたくなるような研究結果や、駆除が逆に大発生の要因になるといった主張も聞かれ始めました。そもそも「サンゴ礁」とは、動物であるサンゴが生と死を繰り返しながら形成する「地形」の呼び名で、死んだサンゴが海底に堆積した上に、新たなサンゴが着生してできる構造物のこと。オーストラリアで10年以上かけて行われた研究では、そんなサンゴ礁にストレスがかかって環境が変化すると、オニヒトデが弱ったサンゴを食べることで新しい土台が作られ、そこにまた新たなサンゴや生態系が育まれる、つまりオニヒトデがサンゴ礁の再生と健全性に重要な役割を果たしていると報告され注目を集めました。そうなると、人間目線では「死滅」に見える食害も、自然界の大いなる流れの中では「創造的破壊」なのかもしれない。とはいえ何が正解か、それはきっと人智を超えたところにあって、答えを知っているのは自然だけなのだろうとも思います。

オニヒトデのように、一般には悪者扱いされる動植物も本当は大切な存在で、たとえば見た目が不気味というだけで嫌われ者のゴキブリやミミズも、大発生する害虫も、致死ウィルスやそれを媒介する蚊や獣たちも、人間のものさしで良し悪しをジャッジしているだけなのかもしれない。本来はゴキブリもミミズも土壌を豊かにする役割を担い、雑草や雑菌というカテゴリーも人が勝手に作っただけで、意味がなく生きている生命なんて一つも居ないはず。海のデッドゾーンだって、原因の窒素・リン自体が悪いわけでもなく、異常発生するプランクトンや微生物、亜酸化窒素を放出する嫌気性細菌が悪いわけでもありません。もっと言うなら、畜産の牛がメタンガスをたくさん出すからといって牛たちが悪いわけじゃなく、温室効果ガスもそれがあるおかげで地球は生命が暮らしやすい適温が保たれてきました。CO2があってこそ光合成ができて酸素も作られ、台風だって海水を攪拌して海をリフレッシュするためには欠かせない現象の一つです。そうして自然界の視点に立って、海の営みや生き物たちの暮らしぶりを見ていると、そこには悪者なんてどこにもいない、みんなが繋がり支え合って生きている尊い世界でしかない……ただその真実があるだけです。

今はあちこちで危機が叫ばれるくらいに、自然は大きくバランスを崩しているけれど、その責任をオニヒトデに押し付けたり、何かを悪者に仕立て上げるのではなくて、まずはどんな動植物にもリスペクトを忘れずにいたい。そして私たちはただただ、自然へのダメージをなくす努力に専念しながら、地球の力強い蘇生力を信じて温かく見守っていくことが、何よりも大切のような気がしています。