地球の回復力は、生物が多様であってこそ|地球の今、海の今を知るVol.27


しばらくのあいだ続けて「生物多様性の喪失」をWEB連載のテーマにしていますが、その理由はすでに臨界点をはるかに超えて、瀕死の生き物たちに心が痛むからというだけではありません。とかく「野生動物と私の暮らしは関係ない」と思われがちなこのテーマですが、私たちの衣食住や健やかな毎日を支えてくれるのは他でもない生物多様性、そして地球がたくましく再生できるかどうかも、生物の「多様性」にかかっているからです。

そもそもなぜ、生物が「多様」でなければならないか……それは、自然界で何かの不具合が生じたときに、力強くしなやかな回復力を発揮して、自ら健全なバランスへ立て直そうとする地球の自己調節システムに関係しています。人間の体に備わる免疫システムや自然治癒力と同じように、地球も「ひとつの生命体」として、動物や植物、大地と海、大気と水など、生物と環境とが相互に影響し合うことで均衡が保たれます。そこでは人間による破壊を抜きにしても、自然現象としての台風や洪水、竜巻や落雷、火事、病気などが発生し、動物も植物もある程度のダメージは避けられません。けれどそうした困難に直面しても、生物種が多様であれば食物網が複雑に絡み合って助け合え、食べ物も隠れ家も十分に確保でき、栄養素の循環や分解も、生き残れる生き物たちも、次の世代へと生命を繋ぐ道筋も多くなり、たくましく復活することができます。つまり、豊かな生物多様性こそが地球のバランスや蘇生力の基盤ということ。逆に、多様性に乏しい生態系は変化やダメージに弱く、衰弱するほど回復が難しくなり、そして今の地球は後者、多様性も回復力も極端に衰えた状態というわけです。

海の生き物たちはこの50年で半分以下に

以前は海の表層でしか見られなかった水温上昇も、2000年以降は深海でも上昇が観測されている今は、気候変動による急激な変化だけでも適応しきれず、極端に減ってしまった種もいれば、逆に爆発的に増えている種も。さらにはプラスチック汚染や乱獲によっても、海の生き物たちはこの50年で半分以下にまで急減しました。乱獲はシーフードだけでなく、たとえばファッションアイテムとして取引される毛皮のために、ラッコが絶滅寸前になるほど乱獲されたことも一例です。ラッコは海底のウニなどを食べて暮らしますが、そのラッコがいなくなった海域はウニが異常発生し、大量のウニがケルプの生い茂る海藻の森を食べ尽くし、生態系が崩れてしまったところも多々。ラッコはウニが増えすぎないようにバランスを守り、さらにはラッコが食べたウニのおこぼれも小さな魚たちの餌になったりもして。ラッコに限らず、すべての生き物たちが何らかの役目や価値を担い、みんなが持ちつ持たれつ複雑に関わり合ってこそ生態系は元気に豊かに育まれ、しなやかな回復も叶えてくれる。それは動物だけでなく、Vol.18でお伝えした通り環境にもすべて価値があり、なんでもない海底の砂や海藻が減っただけでも悪影響は広がっていきます。

現代は人間中心のニーズを満たすために、ラッコのような乱獲を数えきれない動植物に対して繰り返してきました。生き物や環境が「たった一つ消えても大したことない」と思うかもしれませんが、すべてが繋がり合っているからこそ、たとえ一種でも極端に減っただけで全体のバランスが崩れるほど、生物多様性は繊細なもの。それを知ると、今の絶滅スピードや多様性の喪失ぶりがどれほど危険か、なぜむやみに壊したり奪ったりしてはいけないかが、理解できるのではと思います。そして私たちも生物多様性の一員だからこそ、この衰退が止まらないのなら、人類も運命共同体。一人ひとりが生態系を壊す原因を知ってやめることが大切ですが、まずはこうした生物多様性の繊細さと、数えきれない生命が日常を支えてくれるありがたさ、そして今傷ついた地球を再生させるには、健全な生態系が不可欠なこと……そんな生物多様性の真髄を知れば知るほど、人はもっと自然や生き物たちに対して優しくなれるんじゃないかなと思っています。

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