
Disney+オリジナルドキュメンタリーシリーズ『Chasing Waves(チェイシング・ウェーブス)』(邦題『ニッポン・サーフ・カルチャー』)が本日放送された。世界初、日本のサーフシーンを舞台にしたドキュメンタリーだ。
監督として指揮を取ったのはジェイソン・バッファ。これまで『Singlefin:Yellow』『One California Day』『Bella Vita』など数々の素晴らしいサーフフィルムを世に輩出してきた巨匠。サーフィンというニッチな世界を時に情熱的に、時にパワフルに、時にエモーショナルに描いている。
今回の『Chasing Waves』では、アスリートからフリーサーファー、レジェンドやキッズまで、さまざまな日本のサーファーの物語がクロスオーバーしながらひとつのストーリーとして世界に発信される。私たちの身近なカルチャーがジェイソンの視点によって切り取られることで、日本中のサーファーだけでなく、サーフィンをしない人にとっても、心に深く刻まれる作品になるはずだ。
HONEYではどこよりも早く、ジェイソンのインタビューをお届けします! 作品と併せて彼の想いも一緒に感じてほしい。
いま、育っている日本サーフシーン
-今回、なぜ日本にフォーカスしようと考えたのですか?
2020年の東京オリンピックでサーフィンが競技種目としてデビューしたことが、このストーリーを撮りたいと思った大きなきっかけなんだ。ディレクターのクリス・コーワンと僕は、それがスポーツとしての日本のサーフカルチャーにどんな影響を与えるのか興味があった。そしてちょうど日本のサーフィン界ではキッズへのサポートが充実していたり、才能ある新たな世代が育っていたりしていて、とても期待できる時期に差し掛かってきている。だからこのシリーズがリリースされるタイミングは完璧だったと思ってる。
-日本のサーフカルチャーの特異な点はなんだと思いますか?
ディテールやプロセスに焦点を当てることと、そこへの情熱だと思う。僕が子供の頃に見た日本のサーフ雑誌は、完璧なボトムターンやカットバックを図解している最初のメディアだった。すべてが細部まで丁寧に描かれていたんだ。元プロサーファーのブラッド・ガーラックは、このインスピレーションをWave Ki(サーフィンのトレーニングプログラム)のコーチングに取り入れたんだよ。若い人たちがこういう情報を手に入れられるのは、本当に素晴らしいことだと思う。
-実際に日本のサーフシーンを撮影して、どう感じましたか?
日本のローカリズムには目を見張るものがあったよ。多くのサーフスポットが守られている。日本にとってある意味ジレンマかもしれない。閉鎖的にすることで若いサーファーを伸ばすチャンスを失うか、開放することで保護された場所を失うリスクを負うか……。これはハワイに似ていると思った。ハワイでは、ノースショアはメディアに対して非常にオープンだけど、カウアイのような離島はしっかりと保護され、ローカライズされたままなんだ。もちろんいいことだと思うけどね。

鳥肌が立つほどディープなサーフソウル
-『Chasing Waves』では様々なサーファーのストーリーがクロスオーバーしながら物語が展開していきます。どのような狙いがあるのでしょうか。
サーファーはみんながみんな違うんだ。特にサーフィンを知らない視聴者に向けて、すべてのサーファーに個性があることを知ってもらうことが重要だと思っている。海を愛するという点ではつながっているけど、人間としてそれぞれに経験をし、インスピレーションを受け、チャレンジをしている。これこそが素晴らしいストーリーを作ると思うんだ。

-印象に残っているシーンやエピソードを教えてください。
東日本大震災での福島の悲劇を追ったエピソード5「The Power of the Ocean」は、長年編集を担当してきたカール・クレイマーと僕がこれまで携わった作品の中で最高の出来だと感じている。ソフィー・クルツ率いるストーリーチームが素晴らしい仕事をしてくれて、福島を訪れた日本の遠隔撮影チームも僕の期待を上回るストーリーを撮影してくれたんだ。
東日本大震災、津波、そして原発事故は恐ろしい悲劇だった。 南相馬市にあるサンマリンというサーフショップのオーナー鈴木康二さんの話は、リアルなサーファーの人生を映し出している気がした。彼のホームである海とのつながり、そしてサーフィンをその海で復活させようという彼のストーリーは、僕にとって他のどんなコンテストやフォトトリップよりも重要に感じたんだ。彼はまさにサーフカルチャーの核となる情熱を象徴している。見ていて鳥肌が立ったよ。
彼のストーリーを共有できることを光栄に思うし、僕がこれまで関わってきた中で、最も純粋なサーフィンの精神が映し出されていると思う。

-ジェイソン自身、世界で活躍するプロサーファーのコナー・コフィンを甥に持ち、コンペティションサーフィンも身近でありながら、フリーサーファーたちとも多く交流がありますよね。ご本人はアスリートとしてのサーフィンとフリーサーフィンをどのようにお考えですか。今回の作品の中でも2つの側面が描かれていました。
僕はコンペティティブなスポーツをして育ったんだ。すごく真面目な性格だったから、サーフィンはそれを解放するためのはけ口になったと思う。僕にとってサーフィンはいつも逃避、旅行、探検のためのものだった。今はカリフォルニアで11フィートのグライダーに乗って楽しんでいて、波のフローやグライドを表現するのが好きなんだ。コンテストサーフィンとは全く異なるものだよね。
コンテストサーフィンは、サーフ業界の重要な一部。アスリートの頂点に輝いた人は祝福され、世界チャンピオンは賞賛されるべきだと思う。もちろん、甥のコナーの活躍も見て楽しんでいるよ。僕はそういうアスリートを尊敬しているけど、業界はそこにお金を使いすぎているんじゃないかと思う。ほとんどのスポンサー付きアスリートは、契約に従ってコンテストでサーフィンをしなければならないからね。
サーフブランドには、高貫佑麻やメイソン・ホー、マイキー・フェブラリー、トレン・マーティン、パーカー・コフィンのような“異端児”のサポートもし続けてほしい。サーフカルチャーにはコンテスト以上のものがある。常にその両方をたたえるべきだと思うんだ。
ソフトで情熱的。女性サーファーの二面性
-ドキュメンタリーの撮影中、日本の女性サーフアスリートについてはどのような印象を持ちましたか?
通常コンペティティブサーフィンはとてもアグレッシブなもの。だから選手たちはより爆発的でパワフルなサーフィンをする傾向にある。一方、女性のロングボーダーは流れるように優雅なサーフィンをする。まるでダンサーのように。
前田マヒナがこのシリーズの中で「日本の女性はとてもソフトで、気遣いができて、繊細なところが伝統的にある」と言っているけど、彼女や興梠サラはそれと真逆の強さやパワーを持っていて、それが自分たちに個性を与えていると感じているようだった。だからある意味、後に続く若い女性たちは、この進化するシーンの中で自分自身のアイデンティティを見つける必要があるんだろう。
一方で松田詩野はその両方を併せ持ついい例で、驚くほどの滑らかさと同時に強靭さも兼ね備えている。僕が思うに、未来のアスリートたちはその両面を受け入れることを学んでいくんじゃないかな。ジェリー・ロペスのパイプラインへの取り組みがそれをよく表していると思うんだ。 彼は常に意欲的で、ひとつの物事にフォーカスしていて、強く、アグレッシブな人だけど、波との関係においては滑らかで、どこか柔らかさがあったよ。


-日本のサーフカルチャーに期待することは?
今後世界は驚異的な日本人サーファーを目にすることになるんじゃないかな。男性も女性も。日本には素晴らしい波がある。パッション、スタイルも。それに世界の舞台で戦うために必要な集中力も持ち合わせているよ。
サーフフィルムが初めてメインストリームへ
-今回Disney+という大きな、そして世界的なメディアとの素晴らしいコラボレーションを実現しました。サーファーでない人もこのドキュメンタリーを観ることになると思いますが、サーフシーンの外側、そしてあなた自身にどのような影響を与えることを期待していますか?
そうだね、ありがとう。1月11日に世界中で共有できることがとても楽しみだ。僕らのグローバルなサーフィンの世界に、新しい洞察や理解をもたらすことができればと思う。このシリーズを作ることで、僕らサーファーがいかに不思議でおもしろい人種か、またひとつのコミュニティとして何かあったときにはお互いに助け合うグローバルなサーフファミリーだということを改めて思い知らされたよ。視聴者の皆さんにもそれを感じてもらい、アスリートたちが夢を追いかけるためにどれほどの努力をしているかを知ってもらえたら嬉しい。また、このシリーズが世界中の若いアスリートたちに、それがどんなものであれ、夢を追いかけるための新しい扉を開いてくれることを願っている。
もしサーファーの人口がもっと増えたら……ディズニーランドが各パークにサーフランチのウェイブプールを作ってくれるかもね。そしたら海での波待ちも混まなくていいんじゃないかな(笑)!
個人的なことになるけれど、これまで僕の映画を応援してくれた日本のサーファーの皆さん、本当にありがとうございます。皆さんの熱意に支えられて、僕はこの刺激的な人生を歩み続けることができている。今回の『Chasing Waves』も、皆さんに誇りに思っていただけるような作品を創ることができたと思っています。Arigato!
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