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世界の海から、魚たちが消える日|私たちができることはあるか?

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世界の海から、魚たちが消える日

いつかの近い将来に、この海から消えてしまうかもしれない……それでも乱獲され、当たり前に大量消費され捨てられる魚たちがいる。尊い生命のループが途絶える前に、私たちができることを考えてみたい。

絶滅危惧種が食卓に並び海の恵みが衰えていく


どこまでも広大で深淵なるこの海から、魚たちが消える……今、そんな未来予想図がささやかれている。科学誌『サイエンス』で発表された、「2048年、海から魚がいなくなる」という衝撃的な論文によると、地球温暖化や漁業による乱獲、化学物質やプラスチックによる海洋汚染などがこのまま進めば、残り30年もしないうちに、食卓に並ぶ魚介類はほとんどが絶滅してしまうという。

本来、海の生物多様性は地球全体の8割を占めるほど豊かで、大切な生命の基盤。まず植物プランクトンが海の全生命を支える源になり、それを動物プランクトンが食べ、動物プランクトンを小魚が、次に中型、大型の魚が食べ、排泄物や死骸なども微生物に分解され、その養分がまたプランクトンの餌として戻り、新たな循環がはじまる。底辺が最も多くて、上位の大型種になるほど少ない、このピラミッドが守られてこそ生態系は成り立つけれど、今は種の絶滅が急速で、多様性の喪失レベルは臨界点をはるかに超えている。
–{生物多様性は過去50年間で68%減少した}–
「地球全体の生物多様性は今、過去50年間で68%減少したとWWFのレポートで発表しましたが、海の生物もこの50年で半分以下と、急速に減少しています。FAO(国連食糧農業機関)の発表によると、私たちが利用している漁業資源も、その30%以上が獲りすぎの状態、漁獲量をこれ以上増やすと危険な資源も60%近く、まだ十分に余裕があるのはたった6%しか残っていないんです。とはいえスーパーに行けば豊富な魚介類が並ぶ今は、それほど危機感を感じられないと思いますが、海の中を覗くとじつはかなり深刻で、水産資源は危機的状況にあるんです」

そう教えてくれたのは「WWFジャパン」海洋水産グループの滝本麻耶さん。原因はまず漁業の近代化による「乱獲」が背景にあり、大きな網で大量の魚たちを効率よく獲れるようになったこともリスクを高める一つ。そこでは狙った以外の魚やイルカ、ウミガメなども網にかかってしまう「混獲」も問題で、重りのついた網を引きずる底引き網漁などが海底の環境や生態系をむやみに破壊することもある。

今とくに乱獲の被害を受けているのは、海洋食物連鎖網の上位にいるサメ類やマグロ類。IUCN(国際自然保護連合)が絶滅危惧種を評価する「レッドレスト」にも160種を超えるサメが並び、世界最大の魚であるジンベエザメも絶滅危惧種。生態系の頂点に君臨するサメ類は個体数が少なく繁殖率も低く、回復には長い時間がかかるとされるけれど、フカヒレとして高価に取引されることからサメの乱獲が加速し、なかにはヒレだけを切り取って、体は生きたまま無残に海へ投げ捨てる漁も行われる。サメに限らず、こうした違法漁業や管理ルールを守らない漁業(IUU漁業)で獲られた魚介を知らずに食べていることも多い。

意外な原因では、ペット用、またはブラックバスなど釣り用の外来種が輸入されたり、外国船が排出するバラスト水から外来種が持ち込まれたりして、生態系が撹乱された海域も。さらに海水温の上昇によってもサンゴ礁の消滅や海藻林の砂漠化が進み、海流が変わり、本来の回遊域や生息域、産卵場所なども大きく変化。海洋生態系の底辺を支える植物プランクトンも、水温上昇によって減少している海域もある一方では、頂点にいるサメやマグロも多くが絶滅危惧種で、ピラミッドの崩壊は進むばかり。加えて化学物質やプラスチック汚染も生き物を苦しめ、食料や衣服繊維などを大量に栽培する陸地で化学肥料が過剰に使われることから、海のデッドゾーンと生き物の大量死も世界各地で増えている。
–{原因は本当に幅広い}–
「原因は本当に幅広く、気候変動や海洋開発、近年では洋上風力発電所の建設による環境破壊や海中騒音、観光による環境や生態系への悪影響も大きいとみられています。漁業もなぜ乱獲をするようになったかといえば、今は世界で一人当たりの水産物消費量が2倍に増え、その上に人口増加もあって、世界全体の水産物消費量は過去50年間で5倍に跳ね上がりました。そうして天然の資源が激減していく中、需要に応えようと養殖業が盛んになり、今や養殖の生産量が半分以上になっています。ですが養殖場を作る際の環境破壊、化学薬品などによる海洋汚染、餌となる小魚も大量に乱獲されるなど、養殖にも問題がさまざま隠れているんです」(滝本さん)

水産庁のデータを見ても、日本の海産物は8割近くが枯渇または枯渇寸前の状態に。日本は四方を海に囲まれ、北は流氷の海から南は熱帯のサンゴ礁まで、おまけに暖流と寒流がぶつかる海域に集まる魚種も幅広く、環境も生物種も世界に誇れる多様性を擁した海。恵みも宝庫だった日本の海も乱獲や開発が進み、温暖化で南方の魚たちが北上し、和食に欠かせない天然の昆布や海藻の森も激減。漁業の衰退だけでなく、養殖や海外からの輸入も増えて、漁業者の数もここ20年間だけで半減した。

「WWFでは、日本人に身近な水産物の現状をまとめた『おさかなハンドブック』を作成したんですが、食卓にお馴染みの魚たちでも赤信号寄りのものが多いんです。マグロやウナギ、サケやエビ、イカやタコも赤信号で、多くを海外からの輸入に頼っています。ですが、魚をまったく食べない保全というのはないと思っていて、なぜなら私たち人間も食物連鎖の上位にいて、海の恵みをいただくこと自体が悪いわけではないからです。まずは漁業や私たちの消費がこうした問題に繋がる背景を知って、魚の再生サイクルを壊さない配慮を大切に、認証を取得した漁業や養殖による水産物を選んだり、赤信号の魚たちは回復するまで消費を減らし、旬の魚介を食べたり。日常でできるそうした意識改革が海を守ることになり、買い物の選択はどんな社会を作るかに影響する大きな力だと思います」(滝本さん)

最近はスーパーやレストランでも認証を取得した漁業や養殖業によるサステイナブル・シーフードを扱うお店が増え、「海のエコラベル」を推進する「MSCジャパン」プログラム・ディレクターの石井幸造さんはそのメリットをこう教えてくれた。

「MSC認証は過剰な漁獲を行わず、生態系や環境に配慮し、地域や国際的なルールに則すなど、厳格な条件を満たす漁業に与えられる認証です。とくに食物連鎖の土台を支える小型魚については漁業の審査をより厳しく行い、生態系を基盤から守ることにも配慮しています。世界で20年以上の歴史がありますが、MSC認証をとる漁業が増えたことで、実際に生態系や漁業資源の回復が見られるケースが増えているんです。多くの方にこうしたサステイナブルな魚介を選んでもらうほど、持続可能な漁業に取り組む漁業者が増え、海と人間の健全な共存が叶っていくことになるんです」

人間も動植物と同じように必要な分だけ、「いのちをありがたくいただく」という謙虚さと感謝を忘れないことが、地球に生かされている私たちの心意気なのだと改めて思う。


–{パンデミックにも関わる!?}–
パンデミックにも関わる生物多様性と気候変動


海の恵みを回復させるには、持続可能なシーフードを選ぶことと合わせて、気候変動対策も欠かせない。気温上昇が産業革命前から+1.5℃、+2℃へと近づいてく今、「WWFジャパン」生物多様性担当の清野比咲子さんが未来のために大切な心構えをこう教えてくれた。

「すでに約1℃上昇した今でも危機的状況ですが、+1.5℃と+2℃では生物種の減少率が2~3倍にも高まり、海の漁獲量も1.5℃で150万トン損失、2℃では300万トン損失と、倍になる予測です。+2℃では地球上からサンゴ礁も99%消滅し、そこに暮らす生き物たちもいなくなる、そんな想像したくない未来を迎えてしまうと言われます。これまで衰退の一途だった生物多様性も、上向きの回復軌道に、Nature Positiveを実現することが急務ですが、それには2030年までが勝負です。具体的には海の恵みはもちろん、生産と消費を見直して変革したり、食品ロスをなくしたり、一人ひとりが地球に負荷をかけすぎない暮らしへシフトすることが大切です。また、無作為な開発で自然破壊を繰り返し、人間、家畜、野生動物の不適切な接触が増えたことで、新型コロナウィルスのような動物由来感染症の発生頻度がこの10年間で3倍に増えています。いま世界では、次のパンデミックを防ぐためにも生物多様性の保全が要とされ、“人・動物・生態系”すべての健康をひとつとして考える『ワンヘルス』もキーワード。このコロナ禍も、自然界は人間がコントロールできない世界であり、人と野生動物が程よい距離感を保つ大切さ、そして人と動物と地球の健康はみんな繋がっていることに改めて気づかされる機会になったようにも感じています」

WWF
人類が自然と調和して生きられる未来を目指し、海や森、生物多様性を守るために80年近く活動する、世界最大規模の環境保全団体。地球環境の健康診断書『生きている地球レポート』も2年ごとに発表。2030年までにNature Positiveな社会へ、人・動物・生態系の健康をひとつと考える「ワンヘルス」、身近な魚介の現状がひと目で分かる「おさかなハンドブック」などぜひHPを参考に。wwf.or.jp