【保存版】パーマカルチャーとは何か!?|基本の4原則と共に解説(後編)

大いなる自然が紡ぎ繋いできた愛と豊かさのエッセンスを、地球に、日常に、心に取り戻すための“パーマカルチャー”という暮らし方。国内唯一の拠点、パーマカルチャーセンタージャパンの代表を務める設楽さんに、その概念やベースとなる原則を聞いた。


地球の一員として、豊かさを循環する日常を

Permacultureという横文字とともに世界へ広がったその起源は、実はここ、約100年前の日本にある。

「具体的な手法はタスマニア島でビル・モリソンらが提唱し始めたんですが、1909年にアメリカの農学者F.H.キングが日本と朝鮮・中国を訪問し、そこで何千年と永続的に受け継がれてきた全てを循環させる農法、自然の仕組みを活かした知恵のことを『パーマネント・アグリカルチャー』と表現したのが原型とされます。
つまり日本人は当たり前に、自然と人とが調和する暮らしや文化を繋いできた民族で、パーマカルチャーは百姓の知恵にも通じています。
今や世界100カ国以上で実践されますが、日本でも年々広まり、とくに2011年の東日本大震災以降、社会の在り方に違和感を感じ暮らしを考え直す人が増え、2015年には大気中のCO2濃度が400ppmを超え、気候変動による被害が身の回りでも顕著化してきた頃から関心や需要が高まり、パーマカルチャーデザインコース(PDC)の受講生もぐっと増えました。とくにここ3~4年は学生や20代など若い世代が多く学びに来てくれます」

人が環境や動植物の習性を理解すれば、自然は上手く回る

敷地内に広がるパーマカルチャー農場を案内してもらうと、今朝起きたばかりのこんなトラブルを、設楽さんが笑いながら話してくれた。

「ちょうど作成中だったスパイラルガーデンがイノシシに壊されちゃって!
26年の間にもいろんな歴史があり、2019年に台風19号がこの地方を直撃したときは、氾濫した川の濁流が農場一体に流れ込んで、土砂が深さ15㎝も堆積したんです。それまで積み上げてきたものもオールリセット。また一からやり直して3年経った今、ようやく復活してきました。
でもパーマカルチャーはそうした自然の動きも受け止めて、そこに人間の知恵を活かしポジティブに作り替えることも醍醐味。
人が環境や動植物の習性を理解し、デザインを工夫してあげれば自然はうまく回っていくんですよ」

農場を埋め尽くすのは多種多様な作物、その中には最初に一度植えただけで、季節が巡るごとに自然と種が落ち、翌年にはまた自然と芽吹き、食べきれないほどの収穫物をくれるものも多く、ほとんど手を加えなくてもそれが延々と繰り返されると設楽さん。
その場で採って手渡してくれる野菜や果物は、口に入れた瞬間に生命力がパッと力強く弾けて染み渡るような、味も瑞々しさも栄養価もパワフルで、買って食べるそれとはまるで違う食べ物のよう。

「うちの野菜は味も生命力も漲っているでしょ? 切ってしばらく置いてもまったく腐らないんですよ。ここでは無農薬・無化学肥料はもちろん、有機肥料もほとんど使わず、ここで刈り取った草をあげるだけ。
人間も食べすぎて栄養過多になると糖尿病やいろんな病気になるように、今の農作物はほとんどが肥料のやりすぎや偏りでバランスを崩し、植物が不健康に弱ってくるから大量の害虫や病気を寄せ付けてしまう。
健康な土で元気に育っている作物なら虫は適度にしか来ないんですよ。
鶏糞も撒きますが作物のためというより草を育てるため。
植物の根にはたくさんの微生物が共生し、なかでも菌根菌は何㎞も先まで菌糸を伸ばして必要な栄養を運び、植物にベストバランスな養分を供給してくれる。だから植物の栄養こそ完全体、肥料としても一番バランスがいいんですよ。
そうして自然の側に立って、生命がどう巡っているかを考えればそういう結論しか出てこないんです」

改めて見ると作物は刈り取った草に優しく包まれてすくすくと育ち、少しの知恵と思いやりを添えるだけで、いのち溢れる自然が戻っていくと設楽さん。

ふと足元に視線を落とせば、人が歩く道の上にも土がほとんど露出していないことに気づく。

「土はほとんどが微生物だから太陽光に晒されると死んでしまうんですよ。綺麗に草むしりをして土を晒すのは絶対NG、草は生えれば生えるほど土にも植物にもいい。
歩道もおがくずを撒いて土を覆い、人に踏まれたりして堆肥化され、土に還る。おがくずのような炭素分が多い木質は優れた土壌改良剤、おかげで台風後もここまで回復できました」

自然の繊細な息遣いに感動するごとに、人間サイズの尺度や枠からみるみる解き放たれていく。こうなるともう何も「雑草」だなんて呼べなくて、これまで目にも止めなかった道端の草木がはるかに愛おしく思えてくる。

見えない土の中では今この瞬間も、それも何億年もずっと、動植物のスーパータッグによって豊かさの連鎖が繰り広げられている。

人間はそんな自然のネットワークをことごとく断ち切り、代わりにコンクリートの網目を広げ、地球に破壊と不調和を蔓延させたけれど、それでもブレずに力強く、アスファルトの隙間からなんとかエコシステムを繋いでいこうと顔を覗かせる動植物に、深い感謝とエールを贈りたくなる。

Healthy Soil, Healthy Food, Healthy Body

「生命の歴史は38億年、私も常に土から教わり、植物から教わり、虫から教わり、でもそれが楽しくて仕方ない。
自然に向き合っていると信じられないようなことが毎日起こり、自分の無知さも常に思い知らされ試行錯誤。でもそれが積み重なるにつれ作物もどんどん生命力が増している実感がありますね。
土が不完全なうちは、作物が本来持っている生命力が十分に宿らない。
パーマカルチャーには、“Healthy Soil, Healthy Food, Healthy Body”、つまり健康な土が健康な食べ物を育み健康な体を育む、という理念もあり、一般には有機栽培や自然栽培がいいとは言われますが、それより何より、やっぱり自分が作ったものを食べるのが一番いい!
自分が愛情やエネルギーを注ぎ込んだら自然は必ず返してくれますからね。それは買った食材では絶対に得られないものです」

長年積み重ねてきた経験の重みが滲み出るような設楽さんの知恵と言葉。それには卒業生の多くも心を動かされ、その一人、取材をサポートしてくれた川口奈緖美さんのこんな言葉も忘れられない。

「私も長年環境活動に携わる中で力不足や自己否定感、人間の存在意義などを考えていたとき、設楽さんのPDCで『もしその環境が悪くなっているなら、それは人間の知恵が足りないから』と教わって、世界がたちまちキラキラと輝いて見えるようになったんです。
無力だと感じていた自分にも、人間だからできる知恵や工夫を活かせば、自然のためにいろんなことができるかもしれない。
地球で『自分たちの居る意味』がストンと腑に落ちて、考え方がガラッと変わったんです」(川口さん)

パーマカルチャーが目指したい今と未来

地球に無駄な存在は一つもない。

今は大きく道を間違えてしまったとしても、人間だからこそ自然の一部として果たせる役目はあるはずと、パーマカルチャーはその一役を思い起こさせてくれる。

ならば自分で作物を育て、太陽光や雨水を利用し、菜園のモデルを真似すればいいかといえばそうでもない。パーマカルチャーが目指したい今と未来について、設楽さんはこう導いてくれた。

「生ゴミをコンポストで堆肥化しながら野菜を育てる、もちろんそれも一つですが、それだけをやっていれば『自然の循環に貢献できている』というわけでは決してなく、他の環境負荷もこれまで通りなら、パーマカルチャーの本質からは外れます。
大切なのは、私たちが日々恵みをいただき、それが体の一部になり生かしてもらう、そうして地球にもらったエネルギーをどう循環させ、何に使っているか。
現代人は地球に生かされている命を自然破壊に使い、食べすぎたからとジム通いにエネルギーを注いでみたり。もらったエネルギーを豊かさの循環とは反対に、破壊的に使うほうが多いわけです。
人間以外の生命と同じように、私たちも自然から享受したエネルギーを、地球や他の生命を豊かにするために使えているかどうか。
そこを出発点に、暮らしや社会が変わっていける希望の種として、パーマカルチャーが日本でもさらに広まっていくといいなと思っています」


パーマカルチャー4 原則

#01_循環性

自然界の永続的な営みに欠かせない「循環性」。それはたとえば光合成と呼吸で出入りする、酸素と二酸化炭素のやりとりのように、繰り返すなかで何も消えるものがないバランス状態。自然界は常にインプットとアウトプットが完全イコール、ゴミも環境負荷もなく、足りないものもない。すべてが何かの資源として活かされ回り続ける。パーマカルチャーもすでにある資源を有効活用して循環させるデザインを暮らしの中に落とし込む。

#02_多重性

「多重性」も自然が豊かに安定して持続してきた特徴の一つ。パーマカルチャーでは上から高木、中低木、草類、地衣類、根菜類など「空間の多重性」をデザインし、植物の棲み分けと共生を再現。季節によって一つの環境で違う作物を作る「時間の多重性」、そして例えば鶏を飼うと卵を産むだけでなく畑の虫や草を食べ、土を耕し肥やすように、あらゆる生物が持ち合わせる「機能の多重性」も活かし合い、豊かさを引き出してく。

#03_多様性

自然界が永続的に、より豊かになっていくための「多様性」。これは多様な種が共存するだけでなく、パーマカルチャーでは存在するすべての生物が持つ機能を理解し、それを最大限に活かせる多彩な環境を創り出す。お互いが相乗効果を生み出せる組み合わせを考え、例えば土と石のような異なる環境が接するエッジを作り、より多様な生物が集まる環境に。人間の知恵を活かすことで、こうしたエッジに豊かな生物相を編み出していく。

#04_合理性

より豊かな生態系を育みながら、「合理性」を考えて人間の手間も省く。一つはゾーニングといい、家を中心とする第1ゾーン、第2に菜園、第3に果樹園、人間が立ち入らず自然のままを残す第5ゾーンと区分け。コンパニオンプランツやコンパニオンアニマルのような自然の共生関係も利用。生育を促進するトマト×バジル、病害虫を防ぐマリーゴールドやネギ、窒素を固定し土壌を豊かにするマメ科などを組み合わせ、好循環を育む。

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パーマカルチャーに学ぶ、地球を豊かにするマインドセット(後編)

地球の美しさや豊かさにまっすぐ感謝し感動できる心を取り戻す──。そんなパーマカルチャーライフはお気に入りのガーデンを豊かにするだけでなく、心の中にも幸せの種を蒔き、人生を彩る「内なる風景」もデザインすること。自然と人、社会や環境問題、自分との向き合い方を、東京アーバンパーマカルチャー創始者のソーヤー海さんが、2回にわたって教えてくれた。今回はその後編をお届けします。

池内博之さんがどっぷりハマる、趣味としての“農”とは

緑が育ち、実となり喜びを感じる。収穫したものを頂き、自然の恵みに感謝する……。幸せが循環する“農のある暮らし”を実践する3人に密着したこの特集。第二弾は池内博之さんに話を聞いた。

今を数えきれない生命に支えられて~瀕死の生物多様性を思うとき~

とかく私たちは、人は人、動物は動物、植物は植物、細菌は細菌……と、それぞれに境界線を引いてしまいやすいけれど、広い視野で見るとやっぱりどこかで繋がっていて、たった一種、たった一人では誰も生きてはいけなくて、地球に生きる生命は皆、思っているよりずっとずっと共通点が多いように思う。

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